汚職警官
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──汚職警官
マックスは洗面台でアスピリンの容器を開けて、錠剤を飲み下す。
流石に昨日は馬鹿みたいに飲みすぎた。頭が痛い。
「マックス。コリンから電話があった」
「弁護士先生は何だと?」
「フュージリアーズどもを受け入れるためのセーフハウスが準備できたと」
レクシーは昨日の乱痴気騒ぎなど感じさせない、いつものペースでそう言う。
フュージリアーズはレクシーの部下たちの仇名だ。
「オーケー。じゃあ、戦争だな」
「ああ。戦争だ。派手にやろうか」
「もちろん」
レクシーとマックスはそう言葉を交わしてから、ホテルを出てコリンの事務所に向かう。今日も移動はタクシーのそれだが、それも今日までだ。
コリンは今日は自らでマックスたちを出迎えた。
「お連れ様方のための家は確保してあります。他にご入用のものは?」
「車。防弾のSUVを準備してくれ。今日中に」
「今日中に、ですね。手配しておきます」
マックスの要望にコリンは問題ないという具合に受け入れた。
「コリン。前に話していた汚職警官どものリストはできてるか?」
「こちらに。どこの誰に雇われているかも書いてあります」
「気が利く」
明らかに内部から流出しただろう、パシフィックポイント市警の汚職警官の顔写真付きのリストをレクシーが眺める。
「ルサルカは大して犬を飼ってないぞ」
「みたいだな。だが、好都合だ」
ルサルカが買収している警官の数は少ない。彼らはその必要を感じなかったのだろう。これまでは警官を買収するまでもなく、彼らは繁栄を謳歌していた、というわけだ。
しかし、この状況は残忍にも変わることになる。
「車が準備できたら何名かの警官に会ってこよう」
「あの、何をなさるおつもりでしょうか……?」
「幽霊みたい白い顔するな。別に警官は殺さない」
「は、はあ……」
コリンは未だにマックスたちが何をやるつもりなのか理解できていなかった。
「フュージリアーズはいつ到着する?」
「7日後だ。武器の調達も兼ねている」
「オーケー。それまでに準備はしておこう」
そして、マックスたちは動き出した。
彼らはコリンが手配した新車──要求通り防弾のSUV──に乗ってパシフィックポイントの警察署に向かう。マックスたちは警察署が見張れる位置に停車し、警察署を出入りする警官たちをじっと監視した。
「いたぞ。あいつだな」
「さあ、お話の時間だ」
マックスとレクシーは車から出るとスノーエルフの私服警官が出て来て、駐車場に向かっているのを背後からつける。そして、彼が車に辿り着いたところで肩を叩いた。
「よう、デニソフ警部補。で、間違いないよな?」
「何だ、お前たちは」
「おっと。銃は抜かない方がいい。奥さんと子供に生きて会いたいだろう。お互いが生きた状態でって意味だぜ。奥さんは美人で家庭的だし、子供はまだ6歳だろう?」
マックスはうろたえる警官──デニソフ警部補にそう告げる。
「……お前たち、何のつもりだ? イカれてんのか? ここは警察署の駐車場だぞ。そこで警官を脅迫しようってのか?」
「おいおい。警察に調べられて困るのはあんたも同じだろ。ルサルカからの小遣いには満足してるのか?」
レクシーにそう言われ、デニソフ警部補の表情が青ざめた。
「俺たちは別に内部調査室じゃない。連中はあんたをずたずたにするのを楽しむだろうがね。俺たちはそんなサディストじゃないんだ。とりあえず一緒に来てくれ」
「分かった」
デニソフ警部補を連れてマックスがSUVに戻る。そして、デニソフ警部補とともにSUVに乗り込んだ。デニソフ警部補は助手席に、マックスは運転席に、レクシーはデニソフ警部補の後ろに。
「デニソフ警部補。あんたは優秀な警官だな。何度も表彰されている。だが、どれもルサルカに貰った代物だろ。餌をやるから黙ってろってな」
「クソ。どこまで調べている?」
「全部だ。それからルサルカからの小遣いが月に50万ドゥカート」
コリンは汚職警官についてしっかりと調べてあげていた。彼らがそれぞれの犯罪組織から何を得て、彼らに協力してるか。
「全部ばれたら、あんたは終わりだ。警察から追放されて年金もなし。可愛い奥さんも働かなきゃいけないし、子供は大学にもいけない。哀れなことだ」
マックスが言うのにデニソフ警部補はついに黙り込んだ。
「さっき言ったが俺たちは内部調査室じゃない。むしろ、あんたを雇いたいと思っている側だ。ルサルカより高給であんたを雇う。俺たちはあんたに月200万ドゥカート払っていいと思っている」
「……本気か?」
「ああ。マジだ」
マックスの提案にデニソフ警部補は考え込み始めた。
「近いうちにドンパチが始まる。それでルサルカはあんたどころじゃなくなる。報復は気にしなくていい。どうする?」
「イエスと言わなければ?」
「別の人間を探す。俺たちの提案に乗る賢い警官をな。ところで、俺たちがどうやって人間を処刑するか知ってるか?」
デニソフ警部補の問いにマックスが問いを返す。
「後ろからズドン。そして、その車はスクラップに、だ」
そうマックスが言うとデニソフ警部補の背後に座るレクシーが拳銃の撃鉄を動かす音が聞こえた。その音にデニソフ警部補は顔をさらに青くする。
「よく考えた方がいい。ルサルカは潰れる。俺たちが潰す。家族と老後のことを考えて正しい銘柄に賢く投資しろって投資会社も言うだろ。何に投資するかは間違わずに選べ。さあ、どうする、デニソフ警部補?」
マックスはそう言い、額に汗を浮かべるデニソフ警部補を見つめる。
「クソ、クソ。分かった。そっちに協力する。それでいいか?」
「賢明だ。それでいい。握手でも交わすか?」
デニソフ警部補は両手を上げてそう言い、マックスは手を差し出した。
「で、あんたらのために何をすればいい?」
「追って知らせる。あんたのスマホにこのアプリを入れろ。暗号通信アプリだ」
「この手の代物を使うってことはカルテルか?」
「いいや。同業他社だ。とにかく入れておけ。連絡が取れなくなったら、あんたの家族を皆殺しにする。地の果てまで追いかけてでもな」
「分かってる。ちゃんと連絡には応じる」
「それでいい。では、またな、デニソフ警部補」
そして、マックスはデニソフ警部補を開放し、レクシーが助手席に戻る。
「ちゃんと動くと思う?」
「そうでなければ宣言通り、やつの家族を殺す」
「あんたは残酷な男だ」
「あんただって同じことをするだろう?」
「まあね」
マックスの指摘にレクシーは45口径の自動拳銃をくるりと回してホルスターに収めた。彼女はデニソフ警部補が申し出を断れば、容赦なく後ろから銃撃し、彼の頭を消し飛ばしていた。
「残りの警官の買収も済ませてしまおう。札束で殴り合うならこっちが勝つ」
「イエス。経済戦争ってやつだな」
それからマックスとレクシーはルサルカに雇われていた汚職警官たちを次々に寝返らせていき、ルサルカとの戦争を密かに開始した。
ルサルカのスノーエルフたちはまだ何が起きたのかも分からないまま。
マックスたちはそうやって下準備を始め──7日が経過した。
「フュージリアーズが到着した。いよいよだな」
「ああ」
そして、戦争が始まる。
……………………
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