第35話 蝙蝠どもとの空中戦

 俺様、東堂正宗とうどうまさむねに、抜かりはない。

 チート能力者〈勇者マサムネ〉として召喚されても、慢心してはいなかった。

 それまでの森の冒険で、雷撃や火炎といった能力を使ってきて、その使い勝手を確かめてきた。

 そして、今、ようやく〈飛翔フライ〉を使った。

 が、この〈反射〉という能力は、使ったことがなかった。


 防御系魔力に連動する能力らしいから、自分の身を守ってくれる、ということは想像がついていた。

 が、今までさして強い敵が襲ってきたわけではなかったから、加速や雷撃などで十分対処出来てしまっていて、使い所がなかったのだ。


 今こそ、使うべき能力ーー俺は、そう直感した。


 そして、その判断は、間違ってはいなかった。

 目に見えない圧迫が周囲から押し寄せ、俺は一瞬身体を縮こませた。


(なんだ、この圧力は!?)


 だがしかし、不可思議な圧力を感じたのは、ほんのわずかな合間だった。

 やがて、俺が空中で丸くかがんだような態勢から、一気に四肢を大きく広げてバンザイをしたときには、戦況が大きく変わっていた。


 キイイイイ……!!


 気づけば、蝙蝠男どもが甲高い悲鳴をあげて、次々と落下していく。

 苦しそうに、無念そうに、ヤツらが落ちていくさまを見て、俺は腹の底から喜びを感じた。


「ははは……。ざまあみろ!

 勇者を舐めんな!

 俺様は、宇宙レベルの男だぞ!」


 自画自賛の言葉が、次から次へと口から出でくる。

 爽快感がこみ上げてきた。

 蝙蝠男たちが負けた理由についてわかった気がするから、よけいに俺の気分はたかぶっていた。


(ヤツら、自滅したんだ。

 やっぱり〈反射〉ってのは、敵の攻撃を跳ね返すものだったんだ!)


 ヤツら蝙蝠の格好をしてるから、おそらく超音波かなにかで攻撃を仕掛けてきたのではあるまいか。

 その超音波が〈反射カウンター〉によって跳ね返されて、攻撃を仕掛けた彼ら自身に襲いかかったーーそういうことだったのだろう。


 事実、蝙蝠型の魔族にとって、人間の姿をした俺様が、空を飛んで攻撃を跳ね返すことは、よほど予想外の出来事だったらしい。

 あるいは、自分たちの超音波攻撃に絶対の自信があったのか。

 超音波が通じない俺様に恐怖したとみえて、蝙蝠男どもは四方八方に逃げ散っていった。


「はっはははは!」


 空中でドヤ顔になって、呵々大笑かかたいしょうする。

 すると、俺のたかぶりは、一気に終息していった。

 逃げ去っていく敵軍の後ろ姿を眺めて、ようやく人心地ついた。

 俺は空中にあって、大きく深呼吸し、目をつぶる。


(危なかった。

反射カウンター〉能力を付与されていて、助かった……)


 ヤツら、蝙蝠男どもの身体は、黒光りしていた。

 身体を覆う剛毛も皮膚も、異様にツルツルしていた。


(これは勘なんだがーーアイツらの身体って、熱耐性や電気耐性が強かったんじゃなかろうか……)


 あらかじめ、俺の得意技である雷撃や火炎攻撃に対抗できるすべがあるからこそ、ある程度の距離を保ちながらも接近して来て、輪になって攻撃を仕掛けてきたのだろう。


 だとしたら、蝙蝠型魔族どもは、今まで森の中で、俺様がどのようにして魔物相手に戦ってきたかを、熟知していた可能性が高い。


 猪型の魔物ですら、集団攻撃を仕掛けてくるような知性があった。

 魔物同士、連絡をとりあっていても、不思議ではない。

 俺が今まで多用してきた雷撃や火炎では、役立たなかった可能性がある。


(むう……。〈反射〉能力がなかったら、さすがの俺様でも、死んでたかも。

 一見すると、呆気なく勝ったようだけど、冷静に考えてみると、どうにも危なかったんじゃないのか……?)


 そうだよ。

 もとよりこの場所ーー魔王城のふもとにまで、誘い込まれた状況なんだ。

 チート能力で、敵の一軍を退けたといっても、まだ戦闘は続行中だ。


 俺は冷や汗を拭い、俺を召喚した人間たちーー〈仲間〉の状態を確認するため、視線を下に向けた。


 すると地上では、やはりヤバイ状況が展開していた。

 聖女パーティーのもとに、魔族の竜騎兵団が突撃していたのだ。


 俺が空に飛び上がった結果、陸上の敵の攻撃が、すべて人間パーティーの防御障壁バリアーへと集中してしまっていた。


 見れば巨大トカゲが三匹ずつ体当たりを仕掛けてきて、それをなんとか防御している状態だった。

 さらにトカゲに乗る竜魔族は槍を掲げ、穂先から稲妻を発している。


 聖女様たちは、必死の形相で戦っていた。

 トカゲの稲妻を、なんとか弾いている。


 ーーが、脆弱な魔力での防御では、長くちはしない。

 いずれ魔法防壁が破られて、人間連中が魔族に喰い殺されるのは、時間の問題にみえた。


(まずいな……)


 俺は空中にあって、口をへの字に曲げる。

 これじゃ、「俺様の活躍を見ろ!」と見得を切っている場合ではなかった。

 みな、青褪めて、身を守るのに精一杯じゃないか。

〈勇者〉であるマサムネが、敵の攻撃を避け、とっとと上空に逃げてしまった結果ともいえる。


(これは、まずい。

 俺は逃げたんじゃなくて、空の敵に対処しようとして、上に飛んだつもりだったんだがーーこのままじゃ、ひ弱なアイツらをおとりにして、俺だけが空に飛んで逃げたみたいになってんじゃん?)

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