第34話 俺様は戦うために飛んだんだ。決して逃げるためじゃない!

 今この場にいる人間の中で、空を飛べるのは俺様、〈勇者マサムネ〉だけだ。

 だから、空から迫り来る敵に対処できるのは、俺様だけということになる。


(よぉし! 

 見事、独りで戦って良いところ、見せてやろうじゃないの!)


 俺は、マジで本気を出すことにした。

 狙いどころは、単純だ。

 俺様の本気を目にすれば、聖女様の親衛隊どもも、押し黙るはず。

 さすがに、俺様の勇姿に、感嘆を禁じ得ないだろう。


『神のごとく空を舞い、魔族を撃退するーー。

 さすがは、異世界からやって来た勇者様ーー救世主様だ!』と。


 俺様は、そんな都合良い妄想を抱えながら、大空を飛翔する。

 グングン高度を上げていき、かれこれ千メートルほどは上空にあがっただろうか。


(これが飛翔フライの能力か。便利なもんだ!)


 俺様は空中で動きを停止し、地面を見下ろした。

 さすがに人間も魔族も、地をう存在はみな、豆粒ほどに見えた。


 だが……。


(ありゃ? こりゃあ、まずったか……!?)


 はるか地面を見下ろした俺は、血の気が退いた。

 地上では、魔族の竜騎兵軍団が、聖女様たちがいる陣地に向けて殺到していたからだ。


(おいおい、つのかよ、アイツら。

 俺様が空中で活躍しても、戻るところがなくなっちまうんじゃ……!?)


 たしかに、空を飛べるのは、俺様、勇者マサムネだけだ。

 つまり俺だけが空を飛んで、陸上の敵の攻撃を避けることができた。

 ゆえに空を飛べず、避けることが出来ない、地上に残された人間集団に、敵の攻撃が集中してしまったというわけだ。


(……むっ!?)


 地を這う連中の身を案じてばかりもいられなかった。

 単身、空を舞った俺にも、敵の刃が迫ってきていた。


 蝙蝠男バットマンの軍勢が、俺を遠巻きにしながらも、上下左右から取り囲み、翼をバタつかせてきたのである。


(いかにも、魔族ってかんじのデザインだな。

 それに、数も多いーーザッと五十ほどか……)


 蝙蝠こうもりどもが、バタバタと翼をはためかせる。

 翼だけは蝙蝠のようではない。

 黒い色ながら、鷲だか鷹のように大きな翼を持っていて、激しく羽ばたかせることができるみたいだ。

 翼がかなでる羽音が激しい。

 さらに、音とともに、強風が俺の顔をあおる。


(くっ、なんだよ、風当たりが強いな。

 結構、距離あるのに、風を起こすコツでもあるのかよ。

 ーーええい、鬱陶しい。

 目を開けていられねえじゃねぇか。

 でやあぁッ!)


 目を閉じたり、開けたりしながらの戦いになった。

 二、三体で固まって押し寄せてくる蝙蝠どもを、サラリとかわし、俺は剣をふるった。

 怖いほどの切れ味だった。

 空中戦ゆえに足場がないのに、腕を適当に振り回すだけで、スパスパと敵の身体を切り刻めた。

 だが、蝙蝠どもも、かなりしぶとかった。

 手足から緑色の血液を盛大に流しながらも、槍を突いてくる。


(おお、どんだけしつこいんだよ、蝙蝠のヤツら……。

 ーーそうだ!

 だったら、もっと効率良く……)


 蝙蝠どもの身体は、どうやら剛毛で覆われているようだ。

 だから斬っても斬っても、手足を切断しても、撤退しない。

 空を舞い続ける。


 ーーだったら、墜落させれば良いんじゃね?


「いくぞ!」


 俺は剣先を敵に向けて突き立てた。

 ひたすら敵の翼を狙ったのである。


(どうだ! 翼を負傷したら、ヤツらも浮いてはいられまい。

 俺様のように、魔力で飛んでいるわけじゃないからなぁ!)


 案の定、翼を斬られた蝙蝠どもは、次々と地面へと落下していった。

 蝙蝠どもも同じように、俺を効率良く攻撃しようとしているみたいであったが、手筈(てはず)が思い至らないようだった。

 蝙蝠どもは目をぐるぐる動かし、仲間同士でざわめき合うばかり。


 俺はほくそ笑んだ。


(まあ、俺様が魔法能力ではなく、翼や噴射とかの物理力で飛んでいたんなら、打つ手もあっただろうけどな。

 それに悪いが、剣を抜いた俺様は、無敵だ!)


 敵が至近距離に近づいてきたら、俺は間違いなく翼をぶった斬ることができた。


 実際、かれこれ五度ほど迎撃したら、敵は接近して来なくなった。

 俺が雷魔法を込めると、剣の刀身が青白く輝く。

 その輝きを目にしただけで、蝙蝠どもは近づこうとしなくなる。


〈勇者マサムネ〉は、さすがに存在自体がチートだった。

 五十を数える魔族相手の空中戦においても、圧倒的に優勢であった。


 とはいえ、それはそれで困ることもある。

 このまま敵が慎重になって距離を取られると、戦闘が長引いてしまう。


 俺は手応えのなさに、うんざりした。


(こりゃ、千日手になるかも……)


 ーーなどと考えていたら、敵軍団が、怪しげな団体行動を始めた。


 何十人もの蝙蝠男が、俺を取り囲んだ状態で輪になって、いっせいに大口を広げ始めたのだ。

 あたかも、親鳥から餌をもらう雛鳥ひなどりみたいに……。


 俺は本能的に、察知した。


(やばいぞ。なにか攻撃が来る!?

 だったら……)


 敵の攻撃が何かわからないうちに、俺は能力スキルを発動した。


反射カウンター!」

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