第33話 まだ、やったことがない、全力の魔力を叩きつけてやる。チート能力を舐めんなよ!

 日本東京から〈勇者マサムネ〉として異世界に派遣されてきた俺、東堂正宗とうどうまさむねは、現在、危機的状況におちいっていた。

 魔王城が行手にそびえ、その手前には五、六百を数える魔族の大軍が待ち構えていたのである。


 その一方で、人間パーティーには、ろくな兵力がなかった。

 今まで、森林を突破する過程で、彼ら、人間パーティーメンバーの能力を、俺はそれなりに把握していた。


 攻撃力を持っているのは、白騎士一人と、もう二人だけ。

 治癒能力を持つのは、聖女様お一人。

 あとは魔法で障壁を築いて、魔物による物理的な攻撃をしのいでいくのがやっとのメンバーだった。


 でも、自分の身を守るだけなら、みな、それなりの力はある。

 たぶん、そういう能力者をつどって、この森林探索団は組織されたのだろう。

 絶望的な状況でありながらも、みな、正気は保っていた。


 先程、〈勇者マサムネ〉たる俺様が、


「おまえらは防御だけしてろ」


 と言ったおかげもあって、人々の口からは安堵の声すら漏れ聞こえていた。


「よくわからんがーー勇者様が気にするな、とおっしゃるんだ。

 なんとかなるのだろう」


「そうだ。勇者様がなんとかしてくださる」


「勇者様はお強い。

 今まで森の中で、何度も魔物をやっつけてくださった……」


 だが、しばらくすると明るい声が、段々小さくなる。

 心配事に気づいたらしい。

 おずおずとした声で、いつも聖女様の背後に貼り付いているお付きの者が尋ねてきた。


「でも、魔法で防御障壁バリアーを張っていたら、その間、こちらからは攻撃できません」


「そうなのか?」


 俺は眉間みけんしわを寄せる。


 やっぱりか。

 森の中で魔物と対峙してるとき、なんでコイツらなにもしないんだろうって思ってた。

 そうか。

 防御障壁を展開してたから、打って出られなかったんだ……。


 今まで引っかかっていた、現地人どもの戦闘時における疑問ーーそいつが解消して、少し気が晴れた。

 人間パーティーの面々を前に、俺は手を腰に当て、胸を張った。


「わかった。なんでもいいから、あんたたちは一丸となって、自分たちの身を守る、大きな防御障壁バリアーを築いてくれ。

 攻撃なんか、しなくていい。

 もとよりおまえらじゃあ、魔族にかなわない。

 俺様があんたらの防御エリアより前に出る。

 攻撃するのは、俺様だけで十分だ」


 俺はマントをひるがえして、スッと前進する。

 魔物の軍団を前に、単身で立ち向かう勇者ーー。

 そんな自分の姿を思い描いて、俺は自分に酔いれていた。


(どうせピンチなら、やるだけやってみるさ。

 宇宙レベルの俺様の力、見せてやる!

 くうぅーー格好いいぜ、俺!)


 そんな俺の内心には、まるで気づいていないのだろう。

 背後では聖女リネットが両手を合わせ、俺をあがめて祈り、涙を流していた。


「勇者様……非力な私たちを救けようとして、身をていして……」


 俺は、ちょっと振り向く。

 すると、白騎士レオンのヤツが、聖女様のかたわらで彼女を支えるように佇(たたず)んでいた。

 なんだか、一途に俺様の方を見つめているがーーおいおい、少し聖女様に近づき過ぎじゃないのか?

 リア充を俺に見せつけるのも、たいがいにしろよ。


 コホン、と俺は一つ咳払いし、後方の白騎士に命じた。


「聖女様を頼むぞ」


「はい」


 勇者の声を受け、案の定、白騎士と聖女様は、互いに見つめ合っている。

 それを周囲の野郎どもが、温かい眼差しで眺めていた。

 

 正直、彼女いない歴=実年齢の俺様には、妬(や)けた。


(いわゆる、みなさまのお墨付き、公認の仲ーー。

 これぞ、祝福される美男美女ってやつか。

 ちッ、リア充してやがんな……)


 周囲の仲間に見守られながら、白騎士と聖女様は、互いに無言で手を取り合う。

 その仕草しぐさと雰囲気だけで、彼、彼女が互いに信頼し合っていることがわかる。

 二人のきずなの強さがうかがわれた。


 そして、一拍、間を置いてから、聖女たちは周囲を取り囲む仲間とともに、いっせいに俺に向かって、熱い視線を浴びせてきた。


 彼らの熱い期待を全身に受け、俺の感情は最大限にたかぶった。

 つい先程まで、彼らの男女仲を嫉妬していたが、コロリと忘れた。


(おおう、期待のオーラが熱いぜ。

 しゃあねえな。

 俺様は、異世界からやってきた勇者だからな。

 ここは恰好つけてやるか!)


 俺はマントをひるがえし、前進していく。

 敵の魔物軍団に向かって。


 俺の背中を見つめつつ、人間パーティーは全員で魔法を発動し、防御障壁バリアーを築いていく。

 半球形の魔法障壁で、自分たちの身を守る格好だ。


 人間パーティーが防御体制に入ったのを背中で感じつつ、俺様、勇者マサムネは、さらに歩を進める。


(さて、これで俺様は、気兼ねなく、全力が出せるってわけだ!)


 首や腕をボキボキといわせて、身体をほぐす。

 そして、眼前に展開する魔族軍団を睨みつけた。


(まだ、やったことがない、全力の魔力を叩きつけてやる。

 チート能力を舐めんなよ!)


 人間たちが防御体制に入ったのと同時に、魔族たちも動き出した。

 さっそく、空と陸の二方面から、攻撃を仕掛けてきたのだ。


 雲霞の如く迫ってくる、化け物の大群ーー。

 ヤツらを前にして、俺も即座に行動を開始した。


 なにをしたかって?

 当然、空へと飛んだのさ。

 付与された魔力で〈飛翔フライ〉したのだ。


 背後で人間どもが、おおっ、と感嘆の声をあげているのが聞こえる。

 俺は宙に浮きながら剣を抜いて、天空で振りかざした。


「どうだ! 俺様は恰好良いだろ。

 これから魔物を殲滅せんめつしてやるから、見てろよ!」

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