第22話 不気味な勇者?

 俺様、勇者マサムネは、復活した右腕を、グルグル回す。


(うん。元より調子良くなったかも!?)


 改めて周囲を見渡す。

 以前から散らばっていた人間の死体に加えて、今度は、魔物の焼けただれたしかばねの山が、幾つも築かれていた。

 電撃の熱のおかげか、死臭は漂っていない。

 とはいえ、惨憺さんたんたる有様ありさまだ。


(う〜〜ん、なんだか、このままではいかん、っていう感じだな……)


 そういえば、ここの世界の定番かどうかはわからんが、ゲームなんかでは、森で死骸を放置しているとゾンビ化するってのがあったな。

 よくわからんけど、念のためだ。


 今度は、両手から赤い炎を出した。

 そして、魔物の死体を焼く。

 一頭、一頭、近づいて、焼いていく。

 死骸すべてに火がついた段階で、額の汗をぬぐい、ようやく人間様一行の方へ目をる。


 みな、茫然とした態で、俺様を見ていた。

 近寄ってくる様子もない。


 俺は眉間に皺を寄せた。


 絶体絶命の危機を俺様によって救い出されたにもかかわらず、感謝の念が薄くないか?

 コッチの世界の人間には、道徳心がないのだろうか?


(なんだよ、まずはお礼だろ。

 どうしたんだ?

 魔物かなにかに出喰わしたような、絶望したような顔しやがって)


 大半の人たちの身体が、細かく震えているのがわかる。

 彼らの話し声が、洩れ聞こえてきた。


「う……腕がちぎれてなかったか?」


「治癒魔法か、回復魔法を使ったのでしょうか……」


「でも、詠唱もなにもした様子がない……」


「しかも、雷撃と炎……二種類もの強力な魔法を使うとは」


「まさか、魔族か……?」


「しかし、森に魔族が出たとは聞いてないぞ。

 さらに奥へ行けばわからんが……」


「でも、魔王も出現したのだ。

 あるいは手下かなにか……」


 うむ。

 俺は状況を呑み込んだ。


 無礼な話だ、と唇を噛む。

 俺様のことを、魔族とか魔王だとか、とにかく人間じゃない化け物ーーつまりは敵ではなかろうか、と疑っているらしい。


 俺は胸を張って、声を張り上げた。


「われは異世界より来た勇者である。

 俺様を呼び出したのは、誰だ!」


 凍りついた空気がとけるように、みなの表情がなごんだ。


 俺の発言を耳にして、ようやくパーティーの面々は、歓喜の声をあげたのだった。

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