第21話 これがナノマシンの働きか。凄いもんだ……!

「うわっ! なんだよ、これ!?

 ふざけんな! 俺様の腕が。痛てーよ!」


 東京から派遣された、俺様、勇者マサムネは、魔物相手に初戦闘を繰り広げていた。

 雷撃魔法を使うなどして、順調に魔物を狩り続けてきた。


 が、油断した隙に、初めて大怪我をしてしまった。

 魔物に右腕の肉が食いちぎられ、もげてしまったのである。


「出血多量で死ぬよ、マジで!」


 俺は眉間に皺を寄せながら、怪我している自分の腕を見つめた。

 ドクドクと流れる赤い血と、露出した骨の白さが、気味悪かった。


 目眩めまいがする。

 薬はないのか!?


 パニクって、色々と思い巡らせたときだった。

 俺は自分の身体の感覚に、ようやく気が付いた。


(ーーあれ? 痛くない?)


 たしかに、電撃のように激痛の感覚が、右肩のあたりからほとばしった。

 が、それも、ほんの一瞬だった。

 今は、痛くもなんともない。

 腕の上下が、なんとか皮一枚でつながってるだけの有様なのに。


 目の前には、勝ち誇った顔をした魔物がいた。

 いくら知性があるとはいっても、獣から下に見られたのである。


 俺様は不愉快だった。盛大に舌打ちする。


(ちッ! ケダモノのくせに、生意気なヤツだ。

 俺様の血で真っ赤に染まった牙を、剥き出しにしてやがる)


 目の前のヤツは、ひときわ大き身体をしていた。

 角も青白く光ってるから、親玉かなにかだろう。

 ヤツが一吼えすると、周囲からいっせいに、何頭もの魔物が飛びかかってきた。


 うん。

 さぞ、勝利を確信していることだろうな。


 だが、悪ィ。

 これほどの大怪我をしていても、じつは俺様は、まったく痛いと感じていなかった。

 血飛沫があがったのも、最初だけ。

 今は、血すら出ていない。


 不死身の俺様、カッコイイじゃん!


 俺は魔力を込め、全身を青白く輝かせた。


「俺様は、痛くもかゆくもないんだよ!」


 あせった反動もあって、かえって気分が高揚した。


 強気になった俺は、魔力全開モードで、次から次へと、群がる魔物を狩っていった。

 両手から雷撃を発射しつつ、まいを舞うようにして、魔物を翻弄ほんろうする。

 そして、目の前のボスに、電撃を喰らわした。


 ギャン!


 一鳴きして、ボスらしき大型魔物が、焼け焦げになった。

 両目を見開き、口から舌を出したまま。

 人間でいうと、信じられねえ、とでもいった驚愕の表情を残して、成仏した。


 俺に襲いかかったヤツらが、血塗れになって動けなくなるまで、五分とかからなかった。


 大将格の魔物が、られたからなのだろう。

 ひるんだ魔物どもは、いっせいにきびすを返し、方々へと散っていった。

 残るは血溜まりに横たわる、十数頭の死骸ばかり。


 どうやら、戦闘は終わったようだ。


 俺は改めて、自らの右腕に目を向ける。

 見ると、今では、普通の腕の状態に再生していた。

 痛みを感じなくなったばかりか、途中で出血も止まっていたと思う。


 なんとも、恐るべき回復力!


(これがナノマシンの働きか。凄いもんだ……!)

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