第20話 勇者マサムネ、いきなり大ピンチ!?

 俺、東堂正宗とうどうまさむねは、魔王を倒すべく、日本東京から、この異世界に派遣されてきた。

 そして、〈勇者マサムネ〉として、初めて魔法を使うことにした。

〈雷撃〉という、カミナリ系の攻撃魔法であった。


「出でよ、雷撃ッ!」


 俺様の掛け声に応じるがごとく、手の平が金色に輝く。

 すると、シュシュシュシュという、空気を裂くような炸裂音がしたかと思うとーー。

 いきなり、雷状にジグザグとした光線が、両方の手の平から発せられた。


 まぶしい光に、反射的に目をつぶる。

 と同時に、ゴオオオ! と轟音が響き渡った。


 その瞬間ーー。


 五、六頭もの化け物が、凄まじい勢いで吹っ飛んでいた。


「やべえ、なんてパワーだ!」


 焼け焦げた化け物どもを目にして、思わず、声が出てしまった。

 近くで固まっていた人間様一行に、危うく被害が出るところであった。

 幸い、神官らしき格好をした綺麗な女の子は、間一髪で避けてくれたようだ。

 正直、危なかった。


 俺は人間たちに向かって、大声で叫んだ。


「こら、おまえら。

 危ないぞ、距離を取れ!」


 俺様に怒鳴どなられて、人々がようやく俺の姿を目に止めたようだ。

 次いで、仲間同士でささやき合う。

 幸い、俺の言葉がわかるみたいだ。

 さすが、万能設定。

 言葉が通じなかったらどうしよう、と思っていたところだ。


 でも、彼ら現地人たちの反応は、かんばしいものではなかった。

 洩れ聞こえてきた言葉が伝わってくる。


「そんな……」


「距離を取れっていっても……」


 みな、青い顔をして、戸惑っているばかりだった。


 たしかに。

 よく見たら、そうだよな。

 魔物に周囲を取り囲まれてる最中だもんな。

 距離の取りようがない……。


 と思ってたら、いっせいに魔物たちが、俺の方に駆け寄ってきた。

 人間様一行の向こう側にいた連中までが、ついさっきまで狙っていた獲物を無視して、一目散に俺の方に駆け寄せてきたのだ。


 地鳴りが響きわたる。

 魔物どもの迫力が凄い。


(おお、兵力分散の愚を犯さぬとは。

 結構、統率がれてんな、魔物コイツら!)


 魔物の能力に、感心しきりである。

 ヤツらの角が、青やら黄色やらに光りながら、明滅している。


 アレで指示を出し合ってるんだろうか。

 知性があるんだな。魔物ってのは。

 だから、人間が追い込まれているわけか。


 だが……。


 俺は全速力で走った。

 そして、魔物の間をすり抜けていく。


 魔物にしてみれば、いっせいに襲いかかってきたつもりなんだろう。

 だが、いかんせん、俺、〈勇者マサムネ〉の動きの方が速い。

 魔物どもが集まってくるのを逆手に取って、彼らの隙間を縫うようにして動き回った。

 そして、ヤツらの急所であるはずの首筋に、雷撃を発射し続けた。

 至近距離だ。

 おかげで、わずかなエネルギーだけで、仕留めることができる。


 雷撃だからといって、無理にエネルギーを強くして、焼き焦げにする必要もない。

 光線をかたまりにするような感覚で、俺は手の平から弾丸を撃ち込むようにして、一頭、一頭、攻撃していく。


 俺が魔物とすれ違うたびに、血飛沫があがる。

 緑の血だ。


(なんだか、汚いかんじだな。やっぱ、血は赤くないと……)


 ーーなどと、マントの汚れなんぞを気にしたことが、油断だった。


 ガッ!


 鈍い音がしたと思ったら、赤い血飛沫があがる。


(なんだ!? いきなり、人間の血みたいじゃないか?)


 ふと左手を見たら、なんと、俺の右腕がもげていた。

 肘のあたりからザックリと、肉が食いちぎられ、骨が露出していたのである。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る