第17話 おいおい、そこまで重い責任が掛かってるとは、思わなかったぞ!?

 俺、東堂正宗とうどうまさむねは、今現在、異世界にいる。

 この〈異世界〉は、魔法があって、魔物がいる、ファンタジー世界なんだそうだ。


 でも、今のところ、魔術師に取り囲まれたり、魔物に襲われるといった、それらしいイベントは起きていない。

 森の中の草っ原で、独り、東京本部の上司・星野ひかりと通信しながら、自分のスペックや周囲の状況を確認し始めたばかりだ。


 ステータス表を、改めて見直す。


 名前:マサムネ 年齢:25 職業:勇者 レベル:20/20

 体力:999/1000 魔力量:999/1000

 攻撃力:999/1000 防御力:700/1000

 治癒力:600/1000

 俊敏性:700/1000

 スキル:鑑定・雷撃・火炎・索敵・加速・飛翔・反射・復元

 個性能力ユニーク・スキル混合カクテル


 そしたら、よくわからない、気になる項目があった。


「で、この〈混合カクテル〉ってなに?」


 ひかりが言う。


「それ、個性が獲得するスキル。

 効果は使ってみなければわからない」


「うむ」と返事するも、俺は首をかしげる。


 よくわからん。


 今度は兄の新一の声が、頭の中に響いてきた。


「異世界へ転送する際に、マサムネ君の個性が呼び込んでしまう固有の雑情報(バグ)とでも言うべきかな。

 とにかく、君ならではの能力が、異世界へ転送されるたびに付与されるんだ。

 その能力を表示した名称が〈混合カクテル〉ってわけ。

 君が実際に使ってみなければ、どんな能力かもわからない」


 俺は腕を組み、独りごちた。


「〈混合〉ってあるから、なにかを混ぜる能力なんだろうか。

 でも、なにを混ぜるんだろ?」


 ひかりがとがめるように、声をかけてきた。


「だから、君が使ってみないことにはわからないのよ。

 とにかく、そういった不確定要素は、使用を避けることをお勧めするわ。

 ヒドい能力な可能性もあるのよ」


 彼女の話によると、今までの派遣員は大抵、自分の「個性能力」を使わないで仕事をこなしてきたという。


 俺は思案する。


 たしかに、「混合」ってだけじゃ、わからなすぎる。

 ひょっとして、自分の身体が他の物体と混ぜ合わさってしまう、とかの変態じみた能力だったら嫌だしな。

 元の世界に帰ったところで、化け物になっちまう……。


 だったら、この「混合」って能力は、しばらくは封印だ。

 よっぽどの危機にでもならない限りは、使わないーーっと。


 俺は気を取り直して、話を仕切り直す。


「で、これから俺様は、どうすればいいのかな?

 具体的に、状況説明をして欲しい」


 俺は〈勇者〉として、真面目に仕事に取り組もうとしていた。

 が、その心意気が、女上司・星野ひかりには通じていなかったようだ。


「状況ってーーそうね。

 ソッチの世界は、時代でいうと、中世ヨーロッパ風かしら?

 まだ馬車を使っているし。

 お城、王様、王子様、お姫様、騎馬隊……。

 ーーね、いかにも異世界ってかんじで、良い所でしょ。

 でも、ハーレムを作ろうたって、そう簡単にはいかないわよ。

 まずは、しっかり仕事して……」


 ひかりが、冗談めいた口調で話し始める。

 俺様は、カチンときた。


「おいおい、子供扱いかよ。

 俺様を誰だと思ってる?

 オンナの尻を追っかける暇があったら、自分に付与されたチート能力の効果を試すさ。

 遊びに来てるんじゃないぞ!」


 俺が声を荒げると、今度は、兄・新一の低い声が響いてきた。


「すまない、マサムネくん。

 ひかりは君の緊張をほぐそうとしただけだよ。

 今までのバイト君には、そういった女性目当ての軽いヒトもいてね。

 な、そうだろう、ひかり」


「そうよ、ごめなさい。

 これから大変なことが待ち受けているだろうから、つい……」


 なんだよ、それ。

 これから大変になるだろうから、今のうちは冗談で軽く流しとけってか。

 それじゃあ生命が幾つあっても足りない。


「おう、危険な仕事だってのは、承知している。

 だから、その具体的な依頼内容を、確認したいんだよ!」


 機嫌を損ねた派遣員をなだめるのは、彼ら監督官の大切な仕事だ。

 兄妹が矢継ぎ早に説明してくる。


「マサムネくん、今、君が召喚された場所は、人が住む町や村から離れた〈漆黒の森〉という森林地帯だ。

 そうした森を舞台に、そちらの世界では、人間と魔族の戦いがずっと続いている」


「でね、最近になって、魔物が森から出てくる事件が多発してるの。

 人間の街に入り込んで人を喰べたりするので、君が派遣されたってわけなのよ」


 つまり、今まで会ったことも見たこともない〈魔物〉を相手に、俺は戦わなきゃいけないってわけか。

 しかも〈人喰い〉の化け物ときた。


「なんだよ。俺様の責任は重大だな」


 俺は真剣な顔付きになる。

〈勇者〉なだけあって、マジで人命救助が任務のようだ。

 改めて俺様が気を引き締めていると、星野ひかりはサラッと付け足す。


「そうよ。

 しかも、戦いが続いてるって言っても、魔王降臨以来、一方的に人間側が負け続けてる。

 このままでは、最終的に人間が食べ尽くされるか、管理下に置かれるかして、人類社会の危機なのよ。物凄く大きな危険が迫っているの」


 正直、驚いた。


(おいおい、そこまで重い責任が掛かってるとは、思わなかったぞ!?)

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