第18話 俺様を召喚した人、出てこーい! と叫んだら、思わぬ事態に遭遇!?

 俺、東堂正宗とうどうまさむねは、今現在、異世界にいる。

 そして、改めて衝撃の事実が明かされた。

 この〈異世界〉は〈魔王〉が君臨する世界で(これは聞いてた)、魔物の脅威にさらされつつある人類社会は、滅亡の危機に直面している(これは聞いてなかった!)というのだ。

 森の中でポツンとして、東京本部と交信してる今の俺には、にわかには信じられない。


 マジで俺様が、コッチの世界の人類社会を救済しなきゃならんらしい。

 いや、待ってくれ。

 そんなの、国家とか軍隊とかの仕事じゃないの?

 少なくとも、日給幾らのバイトが派遣されて、やっつけるような案件じゃないだろ!?


「もし、失敗したらどうなるんだよ!?」


 俺がキツめに問いかけると、通信相手の星野ひかりがさとすように言った。


「だから、それは考えないで。そのための勇者様でしょ」


 新一があとを引き取って、説明し始める。


「じつはこういった、魔王出現による危機ってのは、ソッチの世界の人間にとっては、何度か経験済みでね。

 だから、そのたびに、〈勇者登場〉が待望されてるんだ。

 それなのに、今回はなかなか勇者がやって来ないので、わが社ウチに依頼が来たんだ」


 なんともゲームっぽい世界設定だが、おかげでわかりやすくて結構なことだ。


 俺は自身の腰にがっていた剣を抜いてみた。

 両刃の剣だった。

 刀身は鏡のように綺麗で、自分の顔が映る。

 角度を変えると、陽光に反射してキラリと輝いた。

 いかにも良く斬れそうだ。

 ロング・ソードというやつか。


「で、具体的には、俺様はなにをすれば良いんだ?」


 なんだか、同じようなことばかりを問うている気がする。

 話が一向に進んでいない証拠だ。


 が、ようやく事態の進展が見られた。

 ひかりが淡々とした口調で、具体的に答えてくれたからだ。


「これから君には〈漆黒の森〉を抜けて、魔王討伐に向かってもらいます」


 ーーおお、いきなり魔王討伐イベントかよ!?

 普通、もうちょっと細かいモンスターを狩ったりするレベルアップ作業や、仲間作りを経てからのラスボス退治だ、と思うんだけど……。


 まあ、のっけからチート設定にしてもらってんだから、そういった冒険イベントは端折はしょるってわけか。

 さすがは「派遣のお仕事」ってところかな。


 とりあえず、俺様は周囲をグルッと見回すが……。


 当然、いるはずであろう、コッチの世界での依頼主たる〈召喚者〉が見当たらない。


 またも東京本部に問いかける。


「たしか、コッチの世界で、俺様は魔法で〈召喚〉された形になってるんだよな?

 だけど、誰もいないぞ」


 東京から、兄妹の当惑したような声が返ってくる。


「ごめん。僕達にも事情がよくわからないんだ。

 森を抜けて、人間の仲間と合流してから、魔王討伐に向かう、としか依頼されていない」


「魔王討伐のお膳立ては、派遣先ソッチの世界の〈召喚者〉がしてくれてるはずなのよ。

 ーーそうね、まずは依頼主たる〈召喚者〉を見つけ出して、詳しい事情を聞き出してちょうだい」


「へいへい……。

 勇者様の第一の仕事は、ヒト探しですか……」


 俺は嫌味を口にしながら、アテもなく方々を彷徨うろつき始める。


 でも、この森、〈漆黒の森〉と名打つだけあって、ほんと暗くて視界が悪いぞ。

 しかも、広大だーー。


 俺は瞑目めいもくし、大きく息を吐く。


 勇者設定のチート持ちだからこそ、空間把握が出来ている。

 それゆえ、同じ所をグルグル巡るだけの遭難をする心配はない。

 だが、森の規模は、東京都全域の半分くらいもある。

 おまけに、獣か魔物か知らないが、おびただしい数の生き物が生息していて、生命反応はやたらと数多く感知されていた。

〈召喚者〉であろう人物が、その生命反応のどれに当たるかがわからない。

 ヒト探しとなると結構、厄介だ。


 結局、人影を求めて、一、二時間も、俺は森の中を彷徨さまようことになってしまった。


 歩いても、歩いても、樹木に覆われた、薄暗い森の中だ。

 濃い深緑の香りが唯一の救いで、時々立ち止まっては深呼吸をした。


「こうしてると、森林浴になって、身体に良いのかも。

 でも、とてもリラックスできねえ。

 結構、緊張してるな、俺。

 だって肩と首がこわばってるし、心臓がドキドキしてる」


 俺はヤケクソになって


「俺様を召喚した人、出てこーい!」


 と大声で叫んでみた。


 だが、風が木々を揺らす音と、鳥の鳴き声が聞こえるだけであった。


 そんな感じで、いささか退屈していたときのことであった。

 いきなり事態が急転したのは。


 森林地帯から抜けて、岩場にさしかかったところで、突然、俺様は凄惨な光景に出喰わしてしまったのだ。


「な、なんだよ、こりゃあ……。

 死体の山ーーそれも人間の……!?」


 目の前に、血塗れとなった大勢の人間の死体が、地面いっぱいに広がっていたのである。

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