親父の首にアタックした件

hard(ハルト)少佐

頭痛が痛くて、逆立ちしたら……

 この時、俺の意識が覚醒した。

 同時に感じたのは、朧気な感覚の中で浮かび上がる不快感。

 あぁ、これは面倒な奴だ。


「……よし、こりゃダメだ。活動休止」


 俺は今日の課業を放棄し、ゴロゴロしながらアニメを観ることにした。

 だって仕方がないじゃないか、……頭痛が痛いんだから。


***


 夏休みのとある日。

 朝起きると、俺は頭痛に見舞われていた。

 風邪か? それとも単なる低血圧か? とは言っても泣くほど深刻なわけではないので、薬でも飲めばそのうち治るだろう。

 そう思って部屋を出て、家族が朝食を取る一階のリビングへと向かい、薬箱を漁ることにした。


「……マジかよ、バ〇ァリン無いじゃん」


 希望のブツは底をついており、そこには空箱だけが虚しく残っていた。

 では、このまま放置するしかないのか。今日はやるべきことが山積みなので、できれば健康な一日を送りたい。……やるとは言っていないぞ?


「しゃーない。ママさん、朝飯ある?」


 無い物は仕方がない。

 そのうち治るだろうという望みに賭け、俺は特に何もすることはなかった。


***


 その夜。場所は変わらずリビング。

 容体は悪化せず。悪化せずとも、治りもせず。ただずっと、よくわからない頭痛の不快感に苦しめられていた。

 風邪でも引いたかと思ったが、そのような兆候は他に見られない。

 ……眠れば話は早いのだが、このまま寝るのはなんだか釈然としない。夜更かししたい。


「そうだ、アレやろう。アレ」


 ふと、その解決方法を思い出した俺は、リビングの壁に向き合う。


「よっこらせっと――」


 まずは床に手をついて、足で地面を蹴り、その勢いのまま……逆立ち!

 こうすることで脳に血が上り、脳への酸素供給を促進。たぶん、きっと、恐らく良くなるだろうと思い立ち、すぐに実行したのだ。


「あー……キテルヨ、血が」


 じわじわと、頭部に血流が集中してきたのがわかる。

 さぁ、鎮まれよ頭痛! 我に快適な夜更かしを与えるのだ!

 そうやって、油断した刹那、


「ん? あ、やべっ」


 足先の感覚がブレる。途端に重心のバランスが崩れ、無駄に高い身長を腕で支えきれない! 

 俺の足は弧を描きながら降下し、ガシャンっという音を立ててテーブルに直撃。


「イッタァ⁉」


 まずは親指に痛みが込み上げる。

 しかしそれ以上にヤバい物が視界に入った。

 直撃したテーブルの天板が外れ、空中に飛翔。自由を手に入れた天板は美しく大空へ旅立ち……


「だっ――⁉」


 ソファーに座っていた、

 俺は足を押さえながら、いてて……と言って苦しむ。

 しかし、その直後に鬼は目覚める。


「……いてぇのはこっちだ、バカがよぉ! なにやってんだ⁉」

「す、すいましぇん」


 親父は首を押さえながら怒鳴ってくる。

 流石にマズいとは思ったので、俺も平謝り。あぁ、面倒なことになったなぁ。


「いって……もういいわ! 早く寝ろ!」

「に、逃ーげるんだよー! スモーキー!」


 俺はそそくさと階段を上り、自室へと撤退するのであった。

 明日の朝には、ほとぼりが冷めているといいな……



 

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親父の首にアタックした件 hard(ハルト)少佐 @yamami_syosa

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