第18話 貶めて笑い者にしたいほどに
ずっと自分の中でくすぶっていた感情を言い当てられ、思わず肩がびくりと跳ねてしまう。その反応で図星だとばれてしまったのか、エリックの目に憐みがこもる。
「……どうしてそう思ったの?」
「なんだろう、君がまるで罪滅ぼしをしているみたいに見えたから。でも、その罪悪感は間違いだよ。たとえ口にしなくとも、彼のほうはきっと憐れまれていると感じただろうからね」
憐れんだつもりはない。ただ、フィルが持たざる者と分かったあとすぐ後に、自分が優れた魔力持ちであると判定された瞬間の、彼の絶望したような顔が忘れられないだけだ。
自分が悪いわけでないと分かっているが、タイミングが違えばフィルもあれほど傷つかなかったかもと思うと、どうしても罪悪感を覚えてしまった。
「で、でもフィルがどう思っていたかなんて本当のところは分からないわ。少なくとも彼は、私に魔力持ちであるのを羨んだことなどない」
「君には分からなくても、僕には分かるよ。だって僕は彼と同じように底辺の人間だからね」
羨ましいなどと言ったら、あまりにも自分が惨めだから口になどできない。
高みにいる人に対して、劣等感を抱いていないふりをするしかない。
フィルがどうしてあのような暴言を吐くに至ったかの理由も、エリックは想像がつくと言う。
「内側で劣等感を膨らませていった結果、君に八つ当たりをするようになったんだ。高圧的な態度で無理な金銭要求を繰り返したのも、君を自分に従わせることでちっぽけな自尊心を満たしていたんだろうね。暴言を吐いて別れを告げた時は、ようやく君の上に立てた気になってさぞかし快感だったろう」
「ああ……」
思い当たる節がある。
フィルはエリザが彼の言うことに逆らわずに従うととても満足そうにしていた。嫌な笑みを浮かべる彼に嫌なものを感じていたが、突き詰めて考えないようにしていた。
あれはただ、自分を従わせることだけが目的だったのか。そう考えると、誕生日の行動も全て納得がいく。
「私は……フィルに恨まれていたのね。貶めて笑い者にしたいほどに」
クロストの予想では、フィルがエリザと結婚したいがために悪い噂を流して価値をさげようとしたのではということだったが、それには少し違和感があった。
けれど、エリックの指摘で納得がいった。
フィルはエリザを憎んでいたのだ。
自分が得られなかったものを全て持っているエリザがそばにいることで、彼のコンプレックスを刺激し、いつの間にか憎むようになってしまった。わざわざ傷つけるやり方で別れたのも、そういった理由からだったのだろう。
「そうだとしても、単なる逆恨みだ。自分が無能だからって恋人に八つ当たりするようなクズだから、別れて正解だよ。でもさっき、復縁を迫ってきたね。手のひら返しが早いけど、他の金蔓にすぐ逃げられて困っているのかもね」
「ああ、そうかもしれません」
金輪際近づくなと啖呵を切ったくせにあちらから接触してきたのは、何か事情が変わって困った事態に陥っているのだろう。
「泣きつかれても絶対お金を貸しちゃあ駄目ですよ。もう別のオトコを飼っているからお前を養う余裕はないと断りましょう」
エリックの冗談にふっと笑うと、彼の頬を緩めて笑顔になった。そしてねぎらうようにポンポンと背中を叩かれる。
「……?」
「ええと、ヒモらしくご主人様を慰めようかと」
「慰め方は案外下手なのね。私なら大丈夫だから気にしなくていいわよ」
「残念。弱ったところにつけ込むつもりだったのに」
それじゃあ胃袋からつかみますか、などと嘯いて、夕食を用意しておくから着替えておいでとエリザを自室に促してくれた。
服を着替えているとつい、はあと大きなため息が漏れる。
ついしゃべりすぎてしまった。
あんな詳しい事情まで話すつもりはなかったのに、と後悔と反省が押し寄せる。
乗せられる自分も悪いのだが、彼の話術と洞察力につい興味を引かれてしまうせいでもある。実際、フィルの考察は目からうろこであったし、おそらくそうであろうと納得がいった。
そのおかげで、ずっともやもやしていた感情が収まるべきところに落ちたように感じてすっきりしてしまったのも事実だ。エリックに上手く転がされているようで少々悔しい。
だが、彼に話すことで救われているのは否めない。
上着を脱ごうとして、フィルに押し付けられたプレゼントをエリックが持ったままだったと思い出す。一瞬取りに戻ろうとしたものの、プレゼントを欲しがっていたと思われたら癪なので放っておくことにした。
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