第16話 うちの子すごいでしょう!?
さて、着飾った私は父同伴で馬車に乗って王城前まで送ってもらった。
「朝帰りはしないように!」と口を酸っぱくする父を適当にあしらって、ホールに向かう。出征式典では門前払いを食らったホールだけど、カイから送られた招待状を見せるとすんなりと入れてもらった。なんだか、一気に偉い人になった気分だ。
広大なホールには入れたけれど、私の席は用意されていない。賓客たちが豪華な椅子席に案内される傍ら、私たち一般出席者は立ったまま式典を見守ることになる。
そういうことで、隅っこではあるけれど玉座のまわりはばっちり見える場所を確保した。
出席者たちが集まったところで、カイとハイデマリーが入場した。
おお……二人とも、豪華な衣装だ。カイの赤ハリセンボン頭はブラシではもうどうにもならない強度を誇るようでそのままだけど、今はそれすら神々しく見える。
彼に寄り添うハイデマリーは、女神のように美しい。二人が並んで登場したときから分かっていたように、玉座に座って即位を宣言し大臣から王冠を授けられたカイは、ハイデマリーを妃に迎えることを報告した。
これに反対する者はいなくて、わっと拍手が巻き起こる。私も負けじと拍手した。
これぞまさに漫画の再現だけど、漫画ではフィルを殺した後ということもあり寂しそうに笑っていた二人が今は、堂々と微笑んでいる。
……私は、漫画の展開を変えられた。
ビターエンドではなくて、被害を最小限に抑えたハッピーエンドを迎えられた。
私がこの世界にモブとして転生してきた意味は、あったんだ……。
「それではこれより、カイ陛下による栄典授与を行う」
ころりとした体型の大臣が告げた。
栄典授与……魔物討伐遠征で活躍した人たちに勲章などを与えるようだ。となると、参謀騎士として八面六臂の働きをしたというフィルも呼ばれるはず!
案の定、カイが真っ先に名を呼んだのはフィルだった。貴族でもない平民上がりの騎士が壇上に上がるとざわめきが起こったけれど、私は斜めに見えるフィルの姿につい見入ってしまった。
これまでは下級騎士の革の鎧姿であることが多かったフィルが、白銀色の鎧を着ている。たなびくマントは深い青色で、シャンデリアの明かりを受けた青黒髪と相まってむちゃくちゃ絵になっている。フィル、銀色や青色が似合うな……。
「我が友、フィリベルト・クレール。君のおかげで私たちは勝利を掴むことができた。そして私が非力な王子であった頃から私を支えてくれた君に、男爵位並びに王国騎士団長の地位を授与する」
「ありがたき幸せ。これからも陛下をお支えいたします」
いつもの雑な口調から一転して重々しいカイの言葉にフィルは朗々と告げ、カイから受け取った式典用の宝剣を腰に下げた。
どうやらこれが国における騎士として最高の名誉らしく、最初は戸惑いがちだった出席者たちから拍手が起こった。
……だが一番大きな拍手をしているのは間違いなく、この私だ!
あの子(の自尊心)は私が育てました! うちの子すごいでしょう!?
会場の隅っこで後方ママ面鼻高々な気持ちでいると、カイが小さく首を傾げた。
「……それにしても、君は昔から無欲な男だった。他に望むものはないのか?」
「私が一番ほしいものはございますが、それは陛下のお力によっていただけるものではございません」
フィルがそう答えたため皆、おや、という気持ちで彼を見守る。私の位置からははっきりとは見えないけれど……フィルの声音が少し楽しそうに聞こえて、ついどきっとしてしまった。
「そうか。だが、私にできることがあれば何でも言えばいい」
「……では、私が私の望んだ妻を迎えることをお許しください」
フィルがそう言った途端、まわりにいた貴族令嬢たちがさっと頬を赤らめてそわそわし始めたのが分かった。
……え、ええと。なんだかいきなりすごいことを言い始めたから、会場がまたざわつき始めたけど……まさかのまさか、これって、私のこと?
私、告白はされたけれど結婚とかなんて初耳だよ?
えっ、まさかこの場で私を呼び出して公開プロポーズしたりするの!? それはやめてよ、フィル! 返事はするって言ったけど、それだけはやめて!
私、ドッキリは苦手だから!!
私が壁に張りつくように身を縮めたり、フィルの言葉にときめく令嬢たちがいたりする中、カイが手を挙げて皆を静まらせた。
「そうだな……君も結婚するなら、是非とも今後も夫婦で仲よくしたいものだ。好きな女性と生涯を共にするとよかろう」
「ありがとうございます、陛下」
それだけ言い、フィルは一礼してカイたちの前から下がった。
……あ、あああ! よかった、この場でのプロポーズじゃなかったのね! さすがにそれをされたらここから逃げ出しただろうから、フィルの判断に感謝だ。
……近くにいるご令嬢が「わたくしのことかも!?」と興奮している様子なのは気になるけれど、ひとまず公開処刑を食らうことは避けられたので、それだけは安心できたのだった。
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