第15話 期待以上の成果

 式典の十日後、フィルはカイたちと共に、魔物討伐遠征に向かっていった。


 漫画では、ここからが物語終盤にあたる。なんとか魔物を倒して第一王子の策略を知り、帰還したカイたちは第一王子を打ち倒す。

 これでめでたしめでたし……と思ったところに闇堕ちしたフィルと敵対することになり、彼を倒してようやく物語はエンディングを迎える。


 でも、カイの胸にもハイデマリーの胸にも小さなしこりを残したビターエンドには、ならない。ならないように、私は努力してきた。


 そうして……遠征に出発して数ヶ月後、カイ一行は無事に帰ってきた。彼らは第一王子が送り込んでいたスパイを捕まえるだけでなく兄王子に関する諸々の黒い情報を掴んでいたらしく、帰還したその日のうちに王城は包囲されて第一王子は捕まった。


 ……漫画の展開よりも、カイたちにとって有利に動いている。それは間違いなく、漫画終盤では闇堕ち完了しており遠征でもほとんど姿を見せなかったフィルがカイの味方になったからだろう。


 味方が一人いるかいないかで、ここまで物事の進み具合が変わる。

 それくらい、カイにとってのフィルは大きな存在だったし、フィルが優秀な側近だったということだろう。


 漫画でのカイも、優秀な部下でありかけがえのない友でもあったフィルを、ずっとそばに置いておきたかったと思っていたんじゃないかな。









 弟であるカイを遠征中に始末しようとしただけでなく、他にも後ろ暗いことをやっていた第一王子一派は、あっという間に粛清を受けた。

 病床についていた国王は息子たちの間に起きたことを知ると己のふがいなさを嘆き、カイに王位を譲って隠居することを発表した。


 そうして慌ただしく迎えた、新国王の即位式典と栄典授与式。かつて出征式典が執り行われたというホールで行われたその式に、私もひっそりと出席させてもらえることになった。


 本来なら王侯貴族でもない私が出席できるはずもないのだけど、「おまえにも世話になったからな」という赤ハリセンボン殿下の厚意により、会場の隅っこに列席できることになったのだ。


 式典に参加できるという知らせには、両親も驚いていた。父でさえ出られない式典に、魔法師団でカイとフィルの面倒を見たからとかいう理由で娘が出席できるなんてどういうことだ、って感じだった。


 でも二人とも気合いを入れて、私を飾り立ててくれた。いつもは魔法師団の制服や作業用のローブばかり着て休みの日にもだらだらしていることの多い娘を飾れるからか、やたら高価なドレスや靴などを買い与えられた。


 母は「式典でかわいいあなたを見初めてくれる人がいればいいわね」なんてことを言って父と「シアは誰にもやらん!」みたいなやりとりをしていた。


 ……なお、両親にはフィルから告白されたことを言っていない。可能性は限りなくゼロに近いけれどフィルが戻ってこないことや、彼が遠征中に気移りすることも考えられたからだ。


 そんなフィルとも、ちっとも会えていない。彼らが無事に戻ってきたことは知っているけれど、平民出身の下級騎士から一気に、「遠征でカイ殿下を支えた優秀な参謀騎士」にジョブチェンジしていたフィルはあちこちから引っ張りだこだったようで、会いに行くこともできなかったのだ。


 どうやら、遠征先で第一王子のスパイをいち早く見つけて拷問し情報を吐かせたのも、第一王子のやばい情報を集めたのも、彼だったらしい。


 フィル……にこやかな好青年だと思っていたけれど、すごいやり手だったようだ。

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