第6話 推しを褒めよ!
フィルとカイが魔法師団に来るようになって、しばらく経った。
彼らは騎士団での訓練もあるからうちに来るのは二、三日に一度くらいで、滞在できるのも二時間程度だけど、私はなるべく顔を出して主にフィルの様子を見るようにしている。
なおカイの方は順調に光魔法を習得しているけれど、とんでもない落とし穴があった。
「アレクシア、聞いた? またカイ殿下が倒れたそうよ」
「……ああ、それで休憩室の方がバタバタしていたのね」
魔法石に魔力を流し込む作業をしていたときに同僚が教えてくれたので、気になっていたことの理由が判明した。
赤ハリセンボン頭殿下は熱血漢でやる気に満ちているのが魅力だけど、少々お馬鹿で向こう見ずなのが欠点だ。それは魔法の練習においても同じで、魔力を一気に放出しすぎて倒れることがしばしばある。
しばらく休めばけろっと復活するのだけれど、初めて彼が倒れた日には魔法師団は阿鼻叫喚の騒ぎになった。ああ、そういえば漫画でもよく倒れてたっけ……とのんびりできるのは私だけで、師団長なんて「王子殿下を死なせてしまった!?」と責任を取って首をくくる直前までいっていた。
ではフィルの様子を見に行くかね、とちょうど仕上がった魔法石を「炎属性」の箱に入れて、伸びをひとつ。
そうして練習場所に行くとやはりというか、そこはがらんとしていた。さすがにカイが倒れたのだから、フィルも付き添っているのかな。
でもしばらくするとドアが開き、フィルが戻ってきた。彼は私がいるのを見て驚いたようだけど、ふわりと微笑んだ。
「こんにちは、アレクシアさん」
「こんにちは、フィル。殿下がまた倒れたって聞いたけれど、大丈夫そうだった?」
「まあ、これも五回目ですからね。わざわざ城の方に伝えるほどでもないし、しばらく放っておいても問題ないでしょう」
フィルはあっさりと言う。
カイの友人である彼だけど、わりと物事に対してクールだ。それはカイに対する態度についても同じで、初めてカイが倒れたときには悲鳴を上げて駆け寄っていたけれど、今ではこうなっちゃった。
まあ、フィルがこういうタイプだからカイの相棒として成り立つのだろうね。
「ああ、それよりも……アレクシアさん。そこに座ってもらっていいですか?」
「ええ」
空いている椅子を指定されたのでそこに腰を下ろすと、フィルはその正面の椅子に座った。そして彼は両手を胸の高さで構え、目を閉じて集中し……青白い光と共に小さな氷の粒を生み出した。
「まあっ! フィル、とうとう氷を作り出せるようになったのね!」
思わず手を叩くと、フィルは照れたように笑った。
「はい、ついさっき。今の僕ではこの大きさが限界ですが……」
「いいえ、これも立派な成長よ! あーあ、フィルが初めて氷を出せるようになるところ、見たかったわぁ」
「ご安心ください。そのときには指導担当がいましたが、僕が最初に氷を見せたいのはアレクシアさんだから見ないでほしいと言うと、顔を背けてくれました。だから、初めてをお見せしたのは正真正銘あなたです」
「そ、そうなんだ」
フィルの担当は、私より少し年上の男性魔法使いだけど……フィル、そんなことを言ったのね。あの人、気難しいことで有名だけどよく説得できたな。
「でも、透き通っていてきれいな氷だわ。夏の暑い日にフィルがいてくれると、助かりそうね」
彼の手の中できらきら輝く氷の結晶をのぞき込みながら言うと、頭上でフィルが咳払いする音が聞こえた。
「その……いずれもっと大きな氷を扱えるようになりますから、暑いときにはいつでも僕を呼んでください。むしろ、どんなの暑くても他の人は呼ばないでほしいです」
「あら、それじゃあ予約しちゃおうかしら。フィルの練習にもなるからね」
顔を上げて笑顔を向けると、フィルは唇の端に穏やかな笑みを浮かべていた。
「もちろんです。……それじゃあ逆に、冬の寒い日はアレクシアさんの炎で温まりたいです」
「ええ、いいわよ。私、魔力は多い方だしこれでもコントロール力には自信があるからね」
それに、便利な魔法具もたくさんある。
炎属性を使った魔法具として、こたつもどきの机や着火の危険のない暖炉、IHクッキングヒーターみたいなコンロがある。私なら、そういったものにいつでも魔法石の魔力チャージができる。
「寒いときは、いつでも呼んでね。あ、それに食べ物を焼いたりお風呂を沸かしたりもできるから、一家に一人炎属性魔法使い、なんて言われるのよ」
「へえ……なるほど。それじゃあ、アレクシアさんはいいお嫁さんになりそうですね」
フィルが笑顔でそんなことを言うので、おおっ、と思ってしまった。
彼はこういうキザなことを言うタイプじゃないと思っていたけれど、それは私の思い込みだったようだ。
「もしそうなら嬉しいわ。……ああ、そろそろ行かないと」
「分かりました。お付き合いくださり、ありがとうございました」
「こちらこそ、あなたの初めての魔法を見せてくれてありがとう。これからも自分のペースで頑張ってね」
椅子から立ち上がってエールを送ると、フィルは笑顔でうなずいた。
……うんうん、いい感じだ。
これからもこうやって、彼を褒め褒めしていこう!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます