第17話

それからしばらく経った頃、タンは国王の護衛で王宮を離れることになった。


本来はタンは王女付きのため、国王の護衛はしなくても良い。


しかし今回は、国王が行幸に行くといい、人数の補充のため招集されたのだ。


「タン、どうしても行かなければダメ?」


「王様のご命令ですから、一週間などすぐですよ。良い子で待っていてください」


「分かったわ」


しゅんとした王女の顔が、タンの心を揺さぶる。


けれど、王命なのだから仕方がない。


「そんな顔をしないでください。行きたくなくなってしまいます」


「無事に帰ってきてね」


タンは王女の額に唇を触れさせ、「行ってまいります」と言い部屋を出ていった。


タンが不在の間、王女の心にはぽっかりと穴が開いたような感じがした。


傍にいなかったときがほとんどなかったので、いるのが当たり前のような存在になっていたのだ。


いなければ、それだけタンへの想いが加速していく。


少しの間だけだというのに、王女はタンに会いたくて堪らない。


そんな王女の様子に、ユ尚宮は薄々気付いていたが、触れないようにしていた。


三日後、タンは無事に戻ってきた。


「ただ今戻りました」


タンの姿を見ると、王女は彼に走り寄り抱き付く。


「タン、会いたかったわ……」


王女の言葉に、タンも優しく王女の背中に腕を回す。


「私もです、王女様……」


「あなたがいないのが、こんなに寂しいなんて思わなかった……」


「私もです。旅がとても長く感じられました」


二人はどちらともなく唇を重ねた。


「実は、王女様にお渡ししたいものがあります」


「え!?何かしら」


王女は自分の席に座る。


机の向かいに腰を下ろしたタンは、懐から何かを取り出し机に置いた。


「タン……これって……」


タンが机に置いたのは、翡翠の指輪だった。

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