第10話

「待って。そんなこと簡単に言うもんじゃないわ」


「簡単ではありません。私の命が尽きるまで、あなたのお傍を離れる気はございません」


タンの言葉に、王女は「いずれは私も婚姻するかもしれないのよ?」と言う。


するとタンは「私が王女様の夫となります」と躊躇なく言うのだ。


「ちょ、ちょっと待って。冗談を言わないで」


王女が焦りを見せると、タンが王女を見つめる目に熱を帯びた。


「私は本気です。冗談などではありません」


タンの熱い眼差しに屈した王女は、「外の空気を吸ってくるわ」と言って部屋を出た。


さきほど便殿に行ってきたばかりなのに……。


タンも「お待ちください」と言って王女の後を追おうとしたが、王女から「一人でいいわ」と言われたため、後を追うのを止めた。




後日、何と信英君は世子の座を狙って王女に近付いたことが判明した。


長く王宮にいなかった信英君は、王女と婚姻をすることで王宮に住み、王室内での地位を高めることを画策。


その上で、世子から世継ぎの座を奪おうとしたのだ。


信英君は、世子に代わり次の国王になろうとしていた。


このことが発覚したのは、信英君の一族が属してきた派閥と敵対する派閥の重臣が、国王に伝えたことが理由だ。


信英君を信じ切っていた国王は、相当な衝撃を受けた。


元々国王は、信英君の一族も属した派閥を遠ざける傾向にある。


信英君が王宮外で暮らしていたのも、そのせいだ。


しかしその派閥が反乱を起こすわけでもなかったので、次第に雪解けしていった形である。


それによって、国王は信英君を王女の婚姻相手にしようと考えたのだった。

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