第9話

「王女様。そんなに私がお気に召しませんか?」


「そういうわけではありませんが、婚姻の件はなかったことにしてくださいませ」


王女はタンに「戻るわよ」と言い、ツカツカと便殿に戻っていった。


その後を信英君も追った。


便殿に戻ると、王女はすぐに国王に信英君との件を断る。


「純輝、なぜ断るのだ」


「分かりません。でも、今は婚姻をする気がないのです」


王女の言葉に、国王は困り果てた顔をした。


国王としても、娘である純輝王女の婚姻は悩ましいところなのだろう。


「すまん、信英君。純輝との婚姻はもう少し待ってくれ」


王女としては、待ってもらったとしても婚姻をするつもりはない。


けれど、この場を切り抜けなければならなかった。


「いいえ、とんでもございません。私としましては、王女様にもっと私のことを知っていただき、落ち着いてからでも良いと思っております」


笑みを浮かべる信英君に、国王は「そうかそうか」と言って頷く。


ひとまずこの時には、婚姻の話はまとまらなかった。


居室に戻ると、タンが王女に尋ねる。


「王女様。あの方とはどうなったなだすか?」


便殿に戻った後、タンは外で待機していた。


そのため、王女と信英君がどうなったのか、分からなかったのだ。


「信英君様のこと?お断りしたわよ。まぁ、あちらは諦めてないようだけど」


「なぜ、断ったのです?」


「それは、私の求めている人ではないと思ったからよ」


王女がそう言うと、タンは少し驚いたかと思うと、嬉しそうな表情に変わる。


「それでいいのです。王女様は私が生涯お守りいたしますから……」


「タン?生涯だなんて……一生私に仕えるつもり?」


「そのつもりですが……いけませんか?」


そう言うタンの顔は真面目だった。

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