第6話

自室に戻り、思い悩む王女。


これまで男性を恋い慕った経験もないし、婚姻と言われてもいまいち良く分からない。


「私はこのまま婚姻をしなければいけないの?」


そんなことを考えていた時、タンが部屋に駆け込んできた。


「慌ててどうしたの?タン」


「王女様。婚姻をされるというのは本当ですか!?」


タンは血相を変えている。


「え?なんでそんなことを知っているの?」


「それは……他の親衛隊の武官から聞きました」


王宮内はどこで誰が見聞きしているか分からないもの。


噂や情報というのはあっという間に広まってしまうものだ。


そのことは王女も理解しているが、自分に婚姻話が持ち上がったことが、もう臣下たちに知られているらしいと知り、内心溜息を吐く。


「話が広まるのは本当に早いわね。確かに、父上から婚姻の話をされたわ」


「お相手は、一体誰なのですか?」


そう問うてくるタンの表情は、何かを堪えているかのようだった。


そのことに、王女も気付く。


「信英君というそうよ。王族の方ですって……。タン、何を堪えているの?」


王女が問うと、タンは王女に体を近づけてくる。


「信英君……ですか……王女様は、その方と婚姻されるおつもりで?」


タンは徐々に間合いを詰め、息がかかるほどの距離まで顔を近づけてきた。


それに合せて、王女も後ろに避ける。


「な、何してるの、タン。私はまだそんなつもりはないわよ」

「本当ですか?本当に、他の男とは結婚をしないので?」


目を合わせてくるタンに、王女は狼狽える。


「そ、それは分からないわよ。いつかはするかもだけど……」


「私は、あなたが他の男のものになるなんて、許せません」


タンが真っ直ぐに見つめてくるので、王女はますます焦ってしまう。


「どうしたのよ、タン。本当に最近おかしいわよ」


「そうですね。私は王女様のせいでおかしいようです」


タンは王女を抱きしめた。


これは許されることではない。


国王に知られたら、処罰されるかもしれないほどだ。


でもタンは抑えきれなかった。


「やっ、やめて、タン!無礼よ?」


王女の言葉に、タンはハッとして身を離す。


「失礼いたしました……。命を持ってお詫びいたします……」


そう言うタンの顔は、悲壮な雰囲気が漂っていた。


「やだ。そこまでしなくてもいいわ。ちょっと変だなと思っただけ」


しかし王女の心にも、変化が生じてきていたのだ。


最近や今日のタンの言動で、王女の彼に対する感情が変わってきていた。

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