第3話

それから数日後、王女の居室に世子(セジャ)がやってきた。


王の世継ぎである世子は王女の弟であり、現在16歳。


本名をイ・ヨクといった。


「姉上。お元気でしたか」


「えぇ。世子様もお変わりないですか?」


王女が世子と会うのは久しぶりだ。


姉と弟とはいえ、暮らす建物は離れているし会う機会はあまり多くない。


「はい。でも、勉学が忙しくて大変です」


現在の世子は、いずれ国王になるための教育を受けている真っ最中だ。


世子自身も国王になることは自覚しているが、その日常は厳しいものらしい。


こうした二人のやり取りをジッと見つめているのが、タンだった。


何かものを言いたげに見つめているタンの視線を、王女らは気付いていない。


机を隔てながらでも仲良く話す二人に、傍らに控えるタンの心中は穏やかではなかった。


部屋にはちょうど菓子があり、王女は世子に「食べましょう」と誘う。


「はい、姉上」と答える世子に、王女は菓子を一つ取り世子の口に近付ける。



「ほら、口を開けて?」


少し戸惑いながらも、世子は口を開けて菓子を食べたのだった。


するとタンが王女に近付き、手を広げて防御しようとする。


「なりません、王女様!」


「どうしたの?タン」


「だ、男性の口に食べ物を運ぶなど……」


タンの顔はいささか赤くなっているように見える。


「別にいいじゃない。世子様は私の弟よ?」


「し、しかし……男性には変わりないわけで……」


「何言っているのよ。可笑しなタンね」


王女はあまり気にしていないようだ。


タンはその後も、王女と世子のやり取りを憮然とした表情で見つめているのだった。

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