22話【体育祭】


「ねっみぃ」


 そんなことを呟きながらわたしは学長の話を聞いている。どうやら今回の議題は今から一ヶ月後に行われる体育祭についてだ。この学園では年に一度の体育祭が秋に開かれる。


どのクラスも必死に勝利をつかみ取ろうと念入りに準備をするのだ。そして体育祭で優勝したものにはとあるものが贈呈されるとか…わたしには興味のない事だが。



「今年の種目は魔法オンリーのトーナメント戦と魔法の使用を禁止した普通の競技も入れたいと思います。ルールは………意見のある方は挙手を」


 学長の声が会議室に響く。しかし誰も意見のある人なんていない。学長に逆らってしまったらそれが最後。教頭やおばさんのベテラン教師たちのいじめの目標にされてしまうのだ。だからこそ誰も逆らえないらしい。


「それで今回の審判と進行を誰に任せようかなんだが」


 そんな時ヴィデア教授が手を真っ直ぐと上げた。わたしは自然と嫌な予感がする。この1ヶ月間ヴィデア教授からは雑務や仕事を押し付けられていたために今回も何かを押し付けてくるだろうと。


「今回の審判はアリエス教授に任せてみてはいかがでしょう?彼女は魔法も巧みに扱えますし、身体能力も文句ありません。それに若いので経験も積んでおいて置いた方が良いかと」


そう私に目線を合わせながらいった。その目は確実にバカにした目だ。つまるところ嫌がらせだ。この教授からの嫌がらせは本当にしつこくウザイったらありゃしない。


「そうだな。今回はアリエス教授に任せよう。アリエス教授分からないことがあればヴィデア教授にきくんじゃ」


 私は内心叫びたかった。しかしもう決まったも同然だったために私が発言するすきなどなかった。


「アリエス教授それで良いか?」


 学長のその問いにわたしはイライラを押えながら笑顔で


「承知しました」


と答えるしかなかった。


「これにて会議は終了とする。

皆お疲れ様だった」


「お疲れ様でした!」


 教授一同が一斉に言うのだった。わたしは重荷が一気に外れたため、とても楽になった。本当に会議は嫌いだ。そんな時コツコツと誰かがこちらから歩いてくる音がする。


音のする方に向くとそこには短い白髪をしており、緑色のローブに灰色の服をした50代くらいのおばさんと、白髭を長く生やしており、全体的に黒服の70代くらいの教授がやってきた。


「お前さんがアリエス教授か。王侯貴族様の推薦でこの学園に来たと言われているが、お前さんみたいな若造はどうせすぐ死に絶える。せめて体育祭までにやれる事をやっておくんだな」


 そういい、どこか行ってしまった。私は言われた意味が一切分からず頭の上に疑問符を浮かべるしかない。


(なんだったんだ?あいつら)


 わたしは2人の後ろ姿を見届けるのだった。





「アリアっち聞いた?

    次の体育祭で新競技が出るらしいよ」


「そうなんだー」


 興奮しながら言ってきたヒマリアにわたしはペンを走らせながら適当に聞き流した。体育祭なんざ正直どうでもいい。わたしはいまの目標に向けてがむしゃらに知識をつける。それが今のわたしにできることだ。


「どうやら優勝者にはとあるものが贈呈されるらしいよ」


「とあるもの?」


 ヒマリアのその言葉に首を傾げた。とても抽象的すぎてなにがなんだかわからない。


「とあるものだよ」


「だからなんなの!!」


 私はイライラしてなのかペンを思いっきり机に叩き、声を大にして問い返した。


「とあるものしか手紙には書いてないんだよ。だなら私も何か気になるの!だから一緒に優勝しに行かない?」


 そう言われた私は少しだけ気になってしまう。内心やるかやらないか迷っていたが、迷った時はやると決めていたのでやることにした。



「わかったよやればいいんでしょ」


「そうそう、その意気だよ。で新競技についてこれから説明するね。どうやら新競技は魔法オンリーのトーナメント戦みたい。どんどん勝ち上がって最終的にボスを倒せば優勝みたい」



「ボス?」


「そうボス」



わたしはボスの正体が気になり、彼女に問いただした。



「ちなみにボスって誰なの?」


「それが当日まで分からないみたい。このプリントにも書いてあるんだけれども【ボスは当日までの秘密だぞい☆】ってね」



 私はその文面を見ただけで何となく正体がわかった気がする。語尾に星マークをつける人なんてこの学園で一人しかいない。



「あの人か……」


「アリアっちはわかったの?」



 彼女は首を傾げそう言った。どうやら本当に分からないみたいだ。わたしはボスの正体を黙っていることにした。


「わたしもやっぱり分からないや」


「どっちやねん!」 


 そんな鋭いツッコミが入る。

「ひとつ言えるのは私たちよりも強いひとだろうな」

「それはそうね」そう相槌を打つのだった。


 

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