3話 嫌だ嫌だ

「はぁあ……」


 俺は現在、ため息を吐きながら足を動かしている。ため息を吐く理由、それはとある教室に向かっているからだ。普通の教室に行くなら、少し緊張するくらいで済む。


 しかし向かっている先がこの学園のトップたちが集められた特異クラスだからだ。幸いにも師匠様が隣にいるので少しは楽だ。しかしながら流れてる噂を聞くに確実に見下されバカにされている。


 この間ぶつかったときバカにしてきた生徒もその特異クラスの一人だ。そのため体が自然と行くのを拒んでしまう。それに、教壇に立つのも初めてなため、緊張で足までも震えてしまう。


「初めて教壇に立つけれども生徒たちはどんな反応をするのかな。やっぱりコネで入った、イコール、実力がないイメージだからブーイングとか飛んできたり……しかも教室は特異クラス。聞いた限りではベテラン教授でも骨が折れるらしいし、やって行けるかな」


 俺は心の中で思っている不安を師匠様に言った。師匠は俺の不安を察したのか、顔を見ながら真面目に答えてくれた。



「安心せい、お前は今までとった弟子の中でも一番の実力者だ。それを超えるものなど居ないと言っていい。断言する。そして星座契約者としての自覚を持て!自信をもつんだ。それにお前は何のために星座と契約した?」


「それはみんなの希望の星になるためです」


「そうだな?星座契約者として、みんなの希望の星になるため胸を張るんだ。そのために今まで血を吐くような努力をしたのは知っておる。

 

しかし、まずはここの生徒たちに舐められている現状をどうにかするのがお前のするべきことでは無いのか?噂を聞いた限りここの生徒たちは舐め腐っておる。そういう奴らは自分よりも弱いやつの言いなりなんてプライドが許さないからな。ともかく胸を張れ、自信を持つんだ」


「師匠様……」



 さすが師匠様といったところだろう。人生経験も豊富なため、俺は師匠様の言葉に感銘を受けた。確かにそうだ。自分よりも弱いやつに言われても、ここの生徒たちのプライドがきっと許してはくれない。何せこの学園は超実力主義社会なのだから。

 

 先程言った師匠様の言葉を忘れないようしっかり記憶し、自信をつけるため拳を握り、身なりを整えた。まとまっていたお団子の髪をほどき、肩より少し長いくらいまでに調節した。


 そして二日前掃除して少し埃などで汚れていた服も魔法で新品同様に綺麗にした。そしてここから俺の波乱万丈な学園生活が幕を開けるのだ。



「ねえ聞いた?今日どうやらまた新しい教授が来るらしいわよ?」


「えー!ほんとに?」


「しかもねその教授ってのが例の人らしいよ」


「学校で噂のコネで入ったとか言われてる教授?!」


「そうそう!」


「今度の教授はすぐ辞めないで欲しいな。あ、そういえばアリアこの間その教授とぶつかったとか言っていたけれどどうだったの?」



 急に話を振られた私はびっくりして動揺してい、ペンを床に落としてしまった。私は慌ててそのペンを拾い、質問に答えた。


「そうねー。マナの制御がうまくいっていない半端者って感じだったわね。マナ制御が上手くいってないとオーラが漏れ出ているけれども彼はがん漏れだったわ。しかし外見を見ると頭だけは良さそうだったかな。けれども、魔法使いとしては半人前ってところだわ。多分力の差を思い知るでしょうね。私の推測をするに一週間以上入れるわけない」


「さすがアリアと言ったところだね。天才ー!」


「よ!星の契約者!」


 そう、私は星の契約者、アリア・テスタス。5歳の頃に星と契約したと話題になり、周りからは天才や、星の祝福を受け子として崇められた。

 

 期待、希望、そして天才と言われ続けた。期待を裏切らないように私は必死に努力した。その努力が現実となったのかこの学園で私の右に出る者はいない。教授だろうと生徒だろうと今まで出会った中で私に勝てたものなどいなかった。


 そして私はさらなる高みを目指してこの学園に入学した。毎日新しい刺激を求めては教授たちに喧嘩を売っているのだが、毎回私が勝ってしまうため正直学園生活は夜空が曇っているくらいつまらないものだ。


(今回も期待していたけれども、期待はずれだわ。くるなら星座契約者くらいの人が来て欲しいな。星と契約してる私とタメをはれるのは星座契約者だけ。そう思ってる。いつか現れることを願うのみね)


 私は星に祈りを捧げた。その瞬間扉が思いっきり開く音がした。


 扉を見るとそこには、肩よりも長い白髪で赤オレンジの瞳を持つ女性が。ローブや服装を見るにこの間ぶつかった人と同じで間違えない。つまり新しい教授だ。しかしこの間とは違い束ねていた髪はストレートでたらしており、瞳の色も性別も違う。


 まるでその姿は強者と言っても過言ではない。私は好奇心に駆られ教授のマナをひっそりと探って見ることにした。私は魔法バックから特殊な青色の水晶玉を取り出し、光を教授に当てた。そうすると光は水晶玉を通り教授のマナを反射してまた水晶玉に戻ってくる。あとは星が答えてくれるのを待つこれだけだ。光が白に近ければ近いほど強い。


結果はどうなるのか私はワクワクしながら水晶玉を見つめた。が、水晶玉は一向に光らない。マナを持っている人間でも微弱に光るが、水晶玉が光らない。つまりあの教授は魔法が使えないということになる。私は空いた口が塞がらなかったのであった。


 

 教室の扉の前。外からもわかるくらい生徒たちは会話をしている。そんな中俺は初めてのことが多く緊張しすぎて扉の前をぐるぐる回っていた。扉を開けようにも自分の中の不安が募ってなかなか勇気が出ない。


師匠様の方を見ても師匠様は何も返事はくれやしない。俺は覚悟を決め、とりあえず魔法で髪をストレートにしてから艶を出し、星座契約者の真の姿に心も体も入れ替えた。髪色は白のままだが先端が少し赤オレンジに染まっている。瞳の色は黒から赤オレンジに染まっていた。

 

 いつ見ても、触っても我ながら見惚れてしまう、とても美しい容姿だ。私は師匠様に、にこやかと笑顔を送り手を振った。師匠様は優しく微笑み、手を振り返した。私はワクワクを抑え切れず思いっきり扉を開けることにした。さっきまで重かった扉が嘘みたいに軽い。


 扉を開けた私は堂々と胸を張って教壇まで向かった。生徒たちが一斉に私の方を見ている。(ふん、私の美しさに魅了されたのかしら)そう考えていた。


 が、その途端、星の契約者の気配に気がついた。その証拠にそいつから私の体内マナを覗かれている感覚を受けている。この感覚はただものではない。さすが特異クラスといったところだ。扉を開けた時点から戦いは始まっている。私は力を見せつけるのがあまり好きではないため、今は弱いふりをすることに決めた。


 ひとまずは体内のマナがバレないよう、星座の加護を施すことにした。星座の加護は星の加護よりも効果は高い。そのため星の契約をしている者からの攻撃もほぼ無意味と言える。ここからが勝負どころだ。


 私は師匠に言われたことを思い出し、拳を握り、ゆっくりコツコツと足音を鳴らしながら教壇の前まで向かった。髪をサラサラとたなびかせ、胸をしっかり張り、顎を引いた。


 この間にもいろいろな魔法で精神攻撃を受けたりしたが、そんなのを防ぐなど造作もない。教壇に登ったとき、みんなが一斉に私の方を見た。やはり、視線が痛い。私は前から決めていた内容を述べた。第一印象はとても大事なので焦らず、ゆっくりと。


「今年から新任教授としてこの特異クラスを担当することになりました、星座契約者のアリエス•アプリリスと申します。これから皆さんの授業を見ることになりますのでよろしくお願いします」


 我ながら噛まずに言えたのは完璧だったとおもう。しかし、生徒たちからの反応はイマイチだ。その証拠に教室は心臓の音が聞こえるくらい静寂に包まれている。そんな気まづい空気の中1人の生徒が口を開けた。彼女は黄色い髪を後ろで束ねており、黄色い瞳を持っている。この間ぶつかった生徒だと確信した。先ほどから体内のマナを覗いているのも彼女だ。


「教授に質問があります。今、学園中でコネで入ってきたと噂がありますが、本当ですか?」

 その途端教室が笑いの渦で包まれた。とてもじゃないけれど居心地が悪い。しかし、私は包み隠さず本当のことを述べた。


「はい、ある意味コネですが、王侯貴族様の推薦でこの学園の教授としてきました」


 火に油を注いだのか、生徒たちから罵倒の嵐をうけた。それもそうだ。こんな大した実力もないと思われてる奴があの国のトップ王侯貴族さまからの推薦を受けているということに。私自身もその事実は信じられない。そして彼女は続けて見下しながら言った。


「あんたみたいな底辺の雑魚が王侯貴族様の推薦をもらったですって?見栄を張るのはやめていただきたい。」


 やはり生徒たちは私の言ってることを信じてくれないようだ。やはり見た目のせいなのか?歳のせいなのか?色々原因を考えていた。そうして釈明するために一つの案にたどり着いた。


「嘘だと思うなら学園長に聞いてみてはいかがですかね?学園長ならきっと知ってると思いますよ」

「あなたがそう言うと思いまして学園長先生に聞きましたよ。けれども学園長は何も知らないって仰ってましたけれど?」


 彼女は高圧的な態度でそう述べた。私はその言葉を信じられなかった。王侯貴族様に推薦でされたのは間違いない事実だ。その証拠としてこの今着ている服は王侯貴族様が直々にプレゼントしてくれた物だから。しかしこの学園長はそれをなかったことのように包み隠しているようだ。


 生徒だけはなく学園自体も腐っているように感じてきた。本当にこれがこの国トップの学園なのか疑問を抱いてもおかしくはない。ひとまず今のまま舐められていては私の気分も最悪なので少し対抗してみることにした。


「どうしたら信じてくれますか?」

「そうですね。王侯貴族様が推薦してくださったってことはきっと星座契約者だと思いました。それに加えて、あなたは先程自らの口で星座契約者と仰いましたが、はっきり言ってあなたみたいな底辺の雑魚が星座契約者な訳ありませんよね?なら証明してみてください。あ、証明する手段なんてありませんよね。すみません」


 そう嘲笑しながら言った生徒だが、完全な煽りでしかない。しかし今はこの喧嘩を買わないことにした。


「つまり星座契約者を証明できればいいと言うわけですね」

「あんたみたいな底辺がそんなことできるわけありませんよ」


 私の中で何かが切れる音がした。たちが悪く丁寧に何回も罵倒や煽りを受けていては黙ってもいられない。数回程度なら我慢できていたが今はマナのオーラを抑えるので必死だ。弱いふりをすると決めたが作戦変更だ。傲慢なやつには1回痛い目に合わせた方がいい。


「それじゃみなさんの目の前で星座契約者である証拠を見せたいと思います。私の契約星座を顕現させてみますね」

 私はにこやかにいった。

 「そんなの出来るわけないよ」

 「そもそも星座と契約してるなんて絶対嘘嘘」

 「アリアの前で見栄を張るのはやめましょう教授」


 生徒たちはそんなこと出来るわけないと確信してるのか言いたい放題いい、ゲラゲラと笑いながらっている。しかし私はなにふり構わず指パッチンをした。

 

 そうした瞬間この教室だけが暗闇に包まれた。それはまるで月も出てない新月の夜みたいに。私は空中に術式を展開し、契約星座である牡羊座を顕現させたのだ。

 

 普通星座や星と契約していても顕現させるのは不可能に等しい。何せそんな術式は未だこの世に存在しないと思われていたからだ。しかしながら私の師匠様はその術式を作ってしまった。不可能を可能にしてしまうさすがといったところだ。だが、この術式も完璧ではなく、全員が見られるという訳では無い。


 極一部の人間のみが見ることができる。星座契約者と、星と契約している者のみ。つまり今これを見られるのは……この間ぶつかってきた彼女のみだ。


他の生徒たちはいきなり暗闇に包まれて困惑している。が、彼女だけは違うようだ。ずっと上にある何かを目で追いかけているのだ。彼女だけにしか見えない綺麗な夜空。その中を黄金の羊が走り回っているのだ。


何回も回ったあと、私の頭の上にいき、周りを走りっているのだ。その信じられない光景に彼女だけ口をあけていた。そして私はマナの残量が残り半分になったため、指パッチンをし、教室に光を与えた。

 

少しの時間だったが暗いところからいきなり明るいところに戻っまたのか、みんな目が痛いようだ。そんなのお構い無しに私は生徒達にいった。


「こんな感じに私は星座契約者ということがわかりましたか?信じられないのも無理はありません。ですがいつか分かるはずです。まずは相手の本質を見通す能力をしっかりつけておきましょう。」


 私は生徒たちにそう述べてから、ものに八つ当たりするように教室の扉を思いっきり閉めるのであった。



ー【あとがき】ー

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