第11話

パーティーの翌日。

猿金のおっさんとイケメン警視が逮捕された。


義姉さんが僕からのプレゼントを元に証拠を集めたからだ。


2人共、一切の抵抗をせずに大人しく捕まった。

しかし2人共容疑を否認。

どんな決定的な証拠を突きつけられてもどこ吹く風だ。


猿金のおっさんは自分の権力を使えば全て揉み消せると本気で思っているのだろう。

現にそれが可能なだけの権力を持っている。


そして猿金のおっさんと繋がっているイケメン警視も、自分が有罪になると猿金のおっさんが困るから助けるとわかっていた。


そんな事は警察もわかっていた。

わかっていて尚、義姉さんは反対を押し切って逮捕した。

自らのキャリアを賭けて。


やっぱり義姉さんはいつも正しい。

そんな義姉さんを取り調べ中ずっといやらしい目で見ている2人を僕は当然許さない。


「あの女刑事。

いい女だ。

拘留期間もあと一日。

ここから出たら私を誤認逮捕した事を謝罪しに呼んでやるか。

そこでたっぷりわからせてやる」

「なんだ。

ここから出たいのか?」


獄中でニヤニヤしながら独り言を言う猿金のおっさんの前に僕は現れた。


「お、お前は!?

ナイトメア!?」

「いかにも。

随分と久しぶりだな」

「お、おい!

誰か来い!

侵入者だぞ!」


猿金のおっさんは牢屋の外に向かって叫ぶが、魔力で音を遮断する結界を張っているから誰にも聞こえていない。


「無駄だよ。

俺は本物の悪夢だ。

お前が用意した偽者とは違う」

「な、なんのことだ?」

「しらばくれるな。

2年前、俺が姿を表さなくなったのをいい事にトロイノに金を払い偽者を用意。

あえてブローチを盗むのを失敗させて、自らの力を誇示した。

その裏で違法に行った賭けで自分に全ベット。

偽者に賭けたプレイヤーから莫大な資金を巻き上げた」

「黙れ!

元はと言えばお前が私の物を奪ったからだろうが!

お前の所為で私は失墜する所だったんだ!」

「だから当て付けに俺の名を利用したと?」

「そうだ!

何か文句あるか!」

「文句など無いさ。

悪党は利用するに限る。

俺もお前を利用している」

「私を利用だと?」

「随分とため込んでいたようだな。

おかげで俺の懐も潤ったよ」

「貴様!

また私の物を!」

「隠し場所ぐらい変えたらどうだ?」


僕の言葉に猿金のおっさんはほんの一瞬だけ安堵の表情を見せた。

だけど、その表情は次の僕の一言で凍りつく。


「いくら囮と言えど、手抜き過ぎはしないか?」

「まさか……」

「お前の愛人もビックリだろうな。

朝起きたら家ごと無くなって野宿していたら」

「貴様!」


こいつは過去に僕が奪いに行った秘密の地下室に囮のお宝を置いて。

本命を愛人である八枝の母親を住まわせている、町外れの一軒家に黙って隠していた。

八枝の母親は知らず知らずのうちに番人にさせられていたって事だ。


だけど僕が全部貰った。

ついでに一軒家も消しちゃった。


「また私から奪うと言うのか!!」

「そうだとも。

今度は徹底的にな。

ちなみにお前が帰る家ももう無い」

「ふざけるな!」

「ふざけてなどいないさ。

俺はいつでも真剣に奪っている」


僕は猿金のおっさんの姿に変身して見せる。


「慌てて愛人の口座に逃した金も回収済みだ。

この格好で行けば素直に渡してくれたぞ。

なかなか従順な愛人だな。

残念なのは俺の趣味では無かったって事だな」

「そ、そんな……

バカな……」


猿金は膝から崩れ落ちる。


「許さんぞナイトメア。

ここから出たら覚えておけ。

私は必ず返り咲く。

そして貴様を――」

「ここから出れるのか?」


僕は猿金のおっさんの言葉を遮る。


「当たり前だ。

私を誰だと思っている」

「そんなに死にたいのか?」

「なんだと?」


僕は魔力で生成したナイフを投げる。

そのナイフが猿金のおっさんに突き刺さる。

が、何事も無くナイフは消えた。


「なにをした?」

「呪いだよ」

「呪いだと?」

『シャバに出たら死ぬ呪い』


僕は言霊を浴びせる。

それと同時にに猿金のおっさんは途轍も無く苦しみ出した。


「苦しいだろ?

これはデモンストレーションだ」


叫び声を上げながらのたうち回る。

それをしばらく見下ろしてから指を鳴らした。


苦しみから解放された猿金のおっさんの表情は恐怖がこべりついていた。


『一歩でも出てみろ。

今の苦しみ以上の苦しみがお前を襲う。

それが24時間続いてからお前は死ぬ。

もしお前が罪を認めて刑期を満了したら解いてやろう。

言っておくが、保釈も仮釈放も認めない。

俺を欺く事も出来ない事は充分理解出来てるだろ?

ちなみに罪を認めるなら早い方がいいぞ。

認めるまで発作が一定間隔で起きるからな』


猿金のおっさんはガタガタ震えていたが、僕の言葉を聞くとすぐに外に向かって叫んだ。


「誰か!

誰か来てくれ!

私は罪を認める!

全て洗いざらい話す!

頼む!

頼むから早く刑事を読んでくれ!」


結界は解いておいたからすぐに刑務官が来るだろう。

これで義姉さんも報われるはずだ。


良かったね。

義姉さんが関わって無かったらお前なんて今すぐ消し去っていたよ。


残りの人生刑務所で暮らすといいよ。

罪を償って刑期を終えたら……

呪いが解いてやるってのは嘘だけどね。


「グッド・ナイト・メア」


僕は音も無く闇に消えた。

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