第8話

デザートがこんなに美味しいのに会場のみんなあんまり手をつけて無い。

みんな挨拶に忙しいみたい。


大変だね。

僕にはわかんないや。


勿体ないから僕がいっぱい食べちゃおっと。

しかし八枝は何処行ったのかな?

好きそうなデザートいっぱいあるのに。


仕方ない。

持って行ってあげるか。


僕はサクッと数種類皿に取り分ける。

魔力感知で八枝を探したら奥の控え室にいた。


なんでそんな所にいるんだ?

迷子かな?


部屋の近くまで行くと不穏な会話が聞こえて来た。


なんか巻き込まれてるし。

ご丁寧に鍵までかかってるし。

僕には関係無いけど。


「八枝が好きそうなデザートいっぱいあるよ。

早く食べないと無くなっちゃうよ」


僕は扉を開ける。

するとみんなの視線が僕に集まる。


「お取り込み中?」


僕の顔をボッーと見てた八枝がハッとした顔になって猿金を突き飛ばした。

そして僕の所に走って来て抱きついて来た。


「助けて」

「おいおい。

人聞きが悪い。

私は一切強要はしていない。

嫌なら出て行けばいい」

「だって。

じゃあ会場に戻ろうか」


僕が八枝に聞くと小さく頷く。

そんな僕らを見る猿金はニヤニヤを辞めない。


「おい小僧。

お前の顔も覚えたからな。

パーティーが終わるまでは待っててやる。

二人共これからの事を考えて選択するんだな。

ハッハッハッハッハ」


僕が八枝を連れて部屋を出ようとしたら勝ち誇ったように猿金は笑った。

僕は振り向いてから聞いてみた。


「怪盗ナイトメアに狙われてるのに、よくこんな事してられるね」

「怪盗ナイトメアがなんだ?

私から奪える物なら奪ってみろ。

今度も返り討ちにしてやるわ」


僕は八枝のドレスのファスナーを上げてあげてから部屋の扉を閉めた。



会場に戻る途中の廊下で八枝は急に座り込んでしまった。


「どうしたの?

お腹空いたの?

デザートあるよ。

食べる?」


僕が尋ねると僕の胸に飛び込んでまるで子供の様に泣き出してしまった。


「ごめんなさい。

ごめんなさい」

「何を謝ってるの?

変なの」

「だって私の所為であなたにまで迷惑をかけてしまった」

「迷惑?

なにが?」

「私、やっぱり戻る」

「八枝はあのおっさんに抱かれたいの?」

「そんな事無い!

だけど、だけど、このままじゃ私だけで無く奏多君まで」

「あのさ。

別に僕は自己犠牲ってのが大っ嫌いなんだ。

だって何処まで行ってもやる側の自己満足じゃんか。

僕は八枝の積み上げて来た物を背負わされるのなんてごめんだよ」

「その積み上げて来た物も幻想だった」


八枝は完全に打ちのめされたように力無く言った。


「幻想?

何が幻想なの?

現実に八枝は立派な女優じゃないか」

「それも猿金が作り上げた幻想。

私の実力なんかじゃ無かった」

「それ、誰が決めたの?」

「だって猿金が――」

「くだらないね。

結局人気なんて誰が何て言うかの事でしょ?

もちろんその為の才能や努力はマストだよ。

でも、後は運。

それなのに何を泣く事があるの?

むしろラッキーじゃないか。

なんか勝手に発信してくれたんでしょ?

思惑はどうであれ、八枝は運も勝ち取ったんだ」

「でも、それも終わっちゃう。

何もかもが無駄になっちゃう。

結局私は何も出来なかった。

お母さんの無念を晴らしたかったら。

お母さんが間違って無いって証明したかった。

それなのに……

もう、何の為に頑張って来たのかわからない」

「は?

そんなの自分の為に決まってるじゃないか。

他に何があるの?

努力って必ず報われるわけじゃ無いんだよ。

むしろ報われない事の方が多い。

だけど努力しないと必ず報われない。

タチの悪い物なんだ。

八枝のお母さんは残念ながら努力する道から降りたんだ。

でもそれが君に何の関係があるの?

君が目指す道を降りる理由になるの?

ならないよね?

もちろん降りるのは自由だけどさ。

それで八枝は満足出来るの?」


八枝は何も言わない。

だけど微かに首を横に振った気がした。


「なら答えは簡単じゃん。

それをあいつが邪魔しても進むだけ。

それに。

いざとなったら僕が何とかしてあげるよ」

「奏多君が?」


八枝が顔を離して僕の顔を見た。


「うん。

君に合うボケ担当見つけてくるよ」


八枝はポカーンとした顔をした。

そして少ししてから


「だから漫才師じゃないって言ってるでしょうが!」


いつもよりは少し元気が無い。

だけどキレッキレのツッコミだった。


ああ、なんか急に思い出したよ。

僕は彼女に会った事あるんだ。

中学卒業してすぐに。

ほんの短い間だけだったけどね。


僕の事を友達だって言っちゃう変わった女の子。

だけど、真っ直ぐ自分の夢にむかって進む女の子。

その女の子は今、真っ直ぐと前を向いてパーティー会場に戻って行く。

さっきまで泣いていたのが嘘の様に。

流石名女優だ。

その姿はとても美しく芸術のよう。


この美しい芸術を汚すと言うのなら僕は許さない。

それが僕の悪党の美学。


八枝が会場に戻って少しして、会場の電気が全て消える。

今度はステージの照明も全て。


いよいよ始まるんだ本日のメインイベント。

このパーティーも大詰めだ。


さあ突き進もうでは無いか。

悪夢のフィナーレに向かって。

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