第5話

超美味しい。

このステーキ美味しすぎる。


僕は悪党が故に欲求に忠実なんだ。

特に三大欲求の一つである食事にはうるさいんだ。


何せ一生の内に食事の回数は限られている。

その一つも失敗したく無い。


良かったね。

美味しいお店と言われて美味しく無かったら僕は激おこだったよ。


お口直しに八枝を食べてたかもね。


「おかわり」


僕がステーキをおかわりすると八枝は目を丸くして驚いた。


「奏多君って私の中学生時代の友達に本当にそっくり」

「ふーん」

「興味無さそうね」

「興味無いよ」

「そう言う所もそっくりね」

「ふーん」

「ねえ、奏多君は私のマネージャーなのよね?」

「そうだよ。

今更何言ってるの?」

「それならもっと私の事興味持ってもいいんじょない?」

「別に仕事に支障は無いよ」

「でも、仕事のパートナーとしてある程度の距離は詰めとくべきかと思うわよ」

「適切な距離だと思うよ」

「……」


八枝が何か言いたげに僕を見つめる。

僕はそれを無視してステーキを頬張る。


超美味しい。


「奏多君って友達いないでしょ?」

「いないよ」

「中学生時代の同級生って覚えてる?」

「誰一人覚えて無いよ」

「本当に何もかもそっくりね」

「もしかしてその子って……」

「そ、そんな邪推するような仲じゃ――」

「元相方?」

「誰が漫才師やねん!

普通ここは元彼?とか聞く所でしょうが!」

「な〜んだ」

「なんでここで興味無くすのよ!」

「別に君の恋バナとか興味無いし」

「なんで相方かどうかは興味あるのよ!」

「おー」

「拍手すな!」


八枝はなんか疲れたように大きなため息を吐いた。


「本当にあいつと喋ってるみたい。

あいつは中学生の時、3年間同じクラスだったんだけどね。

なのに――」

「その話長い?」

「いいじゃない。

ちょっとは話聞いてよ」

「えー。

でもステーキ無くなっちゃうし」

「おかわりしていいわよ」

「じゃあおかわり」


僕はルンルン気分でおかわりを注文した。

次は違う部位にしようっと。


「それでね。

そいつなんだけど。

中学生の時3年間同じクラスだったのに、私の名前どころか顔すら覚えて無かったのよ。

信じられないでしょ」

「なんで?」


僕は首を傾げた。

なにが信じられないんだろう?


「だってクラスメイトだったのよ」

「八枝は今までのクラスメイト全員覚えてるの?」

「それは……

全員は覚えて無いけど……」

「なら仕方ないよね?」

「でも3年間も一緒だったのよ」

「そんな事言ったって、興味無い物は100年経っても覚えられないよ。

逆にそんな奴を良く友達って言えるね」

「それは、その……

ちゃんとお話ししたのは卒業してからだし……」

「それなのに覚えて無いって文句言ってるの?

変なの。

逆になんで八枝はそいつの事覚えてたの?」

「それは……

多分1年で同じクラスだった奴はみんな覚えてると思うわよ。

あいつは良くも悪くも変わってたから」

「ふーん。

美味しかった」

「おかわりしていいわよ」

「じゃあおかわりする」


やったね。

次はどの部位にしようかな?


「体育祭の時にクラス対抗のムカデ競争があったのよ。

それに1番になったら担任の先生が全員に紙パックのジュース買ってくれるって言い出したのよ。

それでカースト上位の子達がやる気になって朝練や放課後に練習するって言い出したのよね」

「紙パックのジュースって、たかだか80円ぐらいの物でしょ?

そんなのでやる気になるのは勝手だけど、他人を巻き込まないで欲しいね」

「そう、それなのよ。

私も売れて無いけど、もう女優業をしてたから時間が惜しかったの。

だけど、同調圧力ってあるじゃない。

それで言えずにいたのよ。

そんな中、あいつは違うかった。

堂々と言ってのけたわ。

『時間は有限だ。

たかだか80円の為に僕の貴重な時間を奪われるなんてごめんだ』

って」


おかわりで来たステーキも超美味しい。

このお店は本当に当たりだ。

また来よう。


「あの時、教室内の空気が凍り付いたわ。

担任もやる気になった子達も説得したけど、あいつは最後まで頷かなかった。

それどころか最後には、

『じゃあ当日、僕は休むからみんなで勝手にやればいい』

とまで言ったわ。

結局空気は最悪。

練習も結局やらない空気になって、本人は本当に当日欠席するし、ムカデ競争も最下位になったわ。

それの所為か知らないけど、次の年からクラス全員参加の競技は無くなったのよね」


やっぱり肉はいいね。

食った〜って感じになるよ。


「それから担任もクラスのカースト上位の子達もあいつには少し冷たくなった気がする。

だけど本人は一切気にしていない感じだったわ。

それにね。

習い事とか部活とかを頑張ってる子達は実は密かに感謝してた。

私だってそう。

協調性が無さ過ぎるのは問題かも知れないけど、あの時のあいつは格好良かったわ」

「ご馳走様でした」

「本当に私の話に興味無いのね」

「ちゃんと話は聞いてたよ」

「本当に?」

「うん。

80円のジュース如きで動く安っぽい女じゃないわって話だよね?」

「全然違うわ!」

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