第4話

さて第二段階だ。

尾崎 八枝のマネージャーとしてパーティーに参加する為には、彼女の信頼を手に入れる必要がある。


その為のファーストコンタクトは大事。


僕はきっちりスーツを着こなして尾崎 八枝に挨拶に行く。


「はじめまして。

今日から八枝のマネージャーになった夢野 奏多だよ。

よろしくね」


僕の挨拶に八枝はキョトンとして固まった。


「どうしたの?」

「い、いや。

初対面なのにフランクだし。

呼び捨てだし。

そもそもマネージャーの言葉遣いとは思えないし」


僕は手帳を取り出してメモをする。


「漫才師なのに咄嗟のツッコミは苦手」

「誰が漫才師やねん!」

「ツッコミのキレはいい。

ボケ担当を求める」

「募集してないわ!」

「流石本職」

「女優って言ってるでしょうが!」

「おー」


僕は思わず拍手を送った。


「拍手すな!

ってあれ?」


八枝は何か不思議そうな顔をした。


「どうしたの?」

「いや。

このやり取り懐かしいなと思って。

昔、こんなやり取りした友達が――」

「昔ボケ担当がいたが、解散したもよう」

「だから漫才師じゃないって!」

「今は?」

「今も昔も女優だって言ってるでしょうが!」


僕はボールペンを赤字に変えてメモする。


「昔の相方を探して漫才師としても売り出す」

「赤字で書くな!」


素晴らしい。

こんな細かいボケも拾うなんて。

拍手喝采だね。


「おー」

「だから拍手すな!」


やっぱり時間がある時に昔の相方を探そうっと。



人気女優ってだけあって彼女のスケジュールは過密だった。

移動中に睡眠と食事をとるのが当たり前。

時には信号1つで遅刻するんじゃないかと思う程のスケジュールだ。


そんな中でも八枝は完璧に仕事をこなしていた。

でも、こんなのは間違い無く体を壊す。


だから少し仕事を整理する事にした。

こんなに売れっ子なんだから消耗するのは勿体ない。

せめて食事と睡眠だけはしっかり取れるようにしとかないとね。


「なんか奏多君がマネージャーになってから体の調子がいいのよね」


車の後部座席に座っている八枝がポツリと言い出した。

僕は気にせず車を走らせる。


「ねえ、聞こえてる?」

「聞こえて無いよ」

「聞こえてるやん!」

「今日も体調良さそうだね」

「ツッコミで体調確認すな!」

「おー」

「拍手すな!

ってか、運転中に両手放すな!」


八枝は深いため息を吐いた。


「本当に不思議よね。

むしろ奏多君と一緒にいる方が体力使ってるはずなのに」

「僕のスケジュール管理の賜物だね」

「謙遜しないのね」

「紛れも無い事実だからね」

「だけどそれだけじゃないのよね。

奏多君といると疲れが取れる気がするの」

「それは……」

「それは?」


僕が魔力と霊力と気力を使って回復させてるから。

もちろんこっそりとだけどね。

だってパーティーまでに倒れられたら困るじゃん。


「本職の力が発揮されてストレス発散出来てるからだよ」

「誰が本職漫才師やねん!」

「お?自覚あったんだ」

「あんたのせいでしょうが!」

「おー」

「だからハンドルから手を放すな!」


口では否定してるけど、僕は凄く生き生きしてるように見えた。


「ねえ、今日の予定はもう無いのよね?」

「そうだよ」

「奏多君の予定も?」

「そうだね。

八枝を自宅に送ったらお終い」

「なら、ちょっと寄って欲しい所があるの」

「嫌だ」

「そう言わないでよ」

「だって、僕は八枝を自宅に送るまでが仕事なんだよ。

寄り道したら仕事増えるじゃん」

「そうかも知れないけどさ。

今から帰ってご飯用意するの面倒なのよ。

どっかでご飯を食べて帰りたいのよ」

「帰ってから行ったら?」

「面倒でしょ」

「出前頼んだら?」

「知らない人を自宅に呼びたく無いのよね」

「じゃあ自分で作ったら?」

「だからそれが面倒だって言ってるでしょうが!」

「出前頼んだら?」

「ループしてるって!

ああ、もう!

一緒に晩御飯しよって言ってるの!

わかりなさいよ!」

「えー、めんどい」

「美味しいお店知ってるわよ」

「え?本当に?」

「ええ。

ご馳走するわよ」

「じゃあ行く」


美味しいお店を知ってるのか〜

ならばついていこう。

美味しく無かったら承知しないからな。

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