第3話

警視庁内。

善正 由理警部は扉をノックしてから部屋の中に入った。


「お呼びでしょうか。

轟警視」


由理は部屋の中にいた男性に敬礼をした。


その男性はとどろき かける

30手前で警視まで登り詰めた超エリートである。

更には超イケメン。

正に非の打ち所がないが無い男って感じだ。


「由理君。

今度ある猿金氏のパーティーにナイトメアの予告状が来ているのはご存知かな?」

「はい。

存じています」

「当然我々警察も警備するのだが、パーティー会場に入っていいのは二人だけど言われている。

そしてその内の一人は君をご指名だ」

「私ですか?

何故?」

「猿金氏は2年前にナイトメアからブローチを守り切る事に貢献した君にせめてものお礼になればと言っておられる」

「いえ。

私は職務を真っ当しただけですから」

「君は相変わらず真っ直ぐだな。

なんにせよ、ナイトメア逮捕の為に私と共にパーティーに参加する事。

わかったね」

「了解致しました」

「ときに由理君」

「なんでしょう?」

「パーティーに参加する為のドレスは持っているかい?」

「そんなに上等な物はありませんが……」

「猿金氏から場に相応しい格好で来るように言われてるいる。

持ち合わせが無ければあちら側で用意するとも。

かく言う私もそんな上等な物は持っていないから、今から猿金氏の言う店に行くつもりだ。

由理君も準備したまえ」

「はい。

了解です」



待夜まちや監督。

本当にパーティー行かないんですか?」


完成した映画を作業場で見直していた待夜の元にカメラマンの田中が招待状を持って来た。


しかし待夜の返事はそっけなかった。


「行かん」

「でも、監督が行かないとカッコ付きませんよ」

「こんな完成度の映画でパーティーなど恥ずかしくて行けんわ」


待夜まちや とおる

幼き頃に映画に魅せられて学生時代から自作映画を撮り始め、今や世界に名を轟かす名監督となった男。


生粋の映画バカである。

それだけに拘りが強い。

それゆえに待夜は今回の映画に納得していなかった。


「何が気に食わないんですか?

実力派の演者を集めて演技には何の問題もなし。

CGの出来も完璧。

ネット上の前評判もすこぶるいいじゃないですか」

「これだよ!これ!」


待夜はナイトメアのシーンを見ながらに声を大にして言った。


「田中君。

これを見て何も思わんかね?」

「CG技術が凄いなぁとしか」

「こんなのナイトメアでは無い!」


待夜は力説し始める。


「私は昔この目でナイトメアを見た!

あの時の感動は初めて映画を観た時に匹敵する!

神出鬼没どころの話では無い!

人智を越える力!

科学では説明出来ない不可思議な現象!

自分の無力さを痛感する程の絶望感!

まるで映画から出て来たかのようだった!

それがこれを見ろ!

なんの恐ろしさも感じられない。

程度の低い手品を見せつけられているみたいだ。

こんなの本物のナイトメアでは無い!」

「それは映画ですから本物では無いですよ」

「そう言う事を言っている訳では無い!

この脚本に出てくるナイトメア。

いや、2年前に現れたナイトメアが偽者だと言っているんだ。

あれほどの圧倒的な力を持つナイトメアが失敗などするはずが無い」

「もしかしてそれで脚本家と揉めていたんですか?」

「そうだ。

この脚本ではナイトメアの人智を超えた力を表現出来ない」

「それ表現したらナイトメアはブローチを盗んで終わりってなりません?」

「そうだ」

「それはダメでしょ。

だって事実、失敗してる訳だし」

「だからあいつは偽物に違いない」

「そう思うなら仕事受けなきゃ良かったのに」

「断りたかったさ。

だが、昔からの付き合いで断れなかったんだ」


待夜は無念そうな声で唸った。


「なら、最後まで仕事しましょうよ。

パーティー参加も仕事みたいな物でしょ?」

「嫌だ。

私は行かん!」

「そんな子供じゃないんですから」


待夜は拗ねてスマホを見始めた。

諦めて作業場を出ようとした田中を待夜が呼び止める。


「待つんだ田中君」

「なんですか?」

「私は参加する」

「は?」

「パーティーに参加すると言っている」

「なんなんですか一体」

「これを見たまえ」


待夜は田中にスマホを見せる。

そこにはネットニュースの見出し。


『ナイトメア再び。

リベンジ予告状!』


「田中君。

君はカメラを持って行きたまえ」

「嫌ですよ。

重たい」

「金は出す。

最新式のスマホに機種変するんだ。

今時のスマホのカメラ機能は優れている」

「監督が自分で撮ったらいいじゃないですか」

「何を言っている!

田中君ほど素晴らしい画を私が撮れる訳ないじゃないか!」

「わかりましたよ」


田中はめんどくさそうに答えるも、悪い気はしてなかった。

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