第2話

僕は早速調べてみる事にした。

サクッと国立図書館に忍び込んで過去新聞を読み漁る。

すると2年前の新聞記事にこんな見出しがあった。


『2年の沈黙を破って怪盗ナイトメア現る』


なになに?

2年間音沙汰の無かったナイトメアの予告状が芸能界のドンこと猿金って奴の所に来たんだって。


へぇ〜

そうなんだ〜

って事はナイトメアの偽物が出たって事だね。

だって僕は2年前には異世界にいたわけだし。

何より新聞に載っているブローチを見ても欲しいと思わないし。


しかし、僕の偽物か〜

……面白そう。


でも2年前か〜

残念だな〜

どんな奴か会ってみたかったな〜


まあ、仕方ないことだ。

そう諦めていた翌日。


朝刊の一面を飾った見出し。


『怪盗ナイトメア。

2年ぶりにリベンジ宣言』


なんとあのブローチを狙って怪盗ナイトメアが予告状を出したらしい。

もちろん僕じゃない。

って事は偽物君だ。


やったー。

これは偽物君に会えるかもしれないぞ。


なになに?

猿金氏が映画公開を記念してパーティーを開くんだって。


当時の関係者とか、映画に携わった人も招待しての大々的なパーティーらしい。

そこでブローチを公開するみたい。


それを狙って偽物君が予告状を出したって書いてある。


これは僕も参加しないとね。

だって僕が本物の怪盗ナイトメアなんだから。


どうやって忍び込もうかな〜

今からワクワクが止まらないよ。



まずは下調べだね。

今回は目的はサクッと盗んで終わりとかじゃないからね。

せっかくだし偽物君をじっくりと見てみたいしね。

なんとかさりげなくパーティーに参加したい。


てな訳でイベント会社のスタッフに紛れ込んで参加者名簿を盗み見することに……おや?


僕は名簿に載ってる名前に目が止まった。


善正よしまさ 由理ゆり


義姉さんだ。

僕の大好きな美人で可愛い義姉さん。


あれ?

なんで警察官の義姉さんが招待されてるんだろう?

やっぱり美人で可愛いからかな?


まあ、いいや。

パーティーに参加したら義姉さんに会えるって事だ。

もしかしたらドレス姿見れるかも。

楽しみ〜


結構な人数来るみたいだから一回入ってしまえば紛れ込むのは簡単だけど、どうせなら義姉さんのドレス姿を堂々と見たい。

これは少し苦労してでも正規ルートで侵入しなければ。


更に名簿を見ていくと、最近見た名前を見た。


『尾崎 八枝』


確か前にテレビで見た女優だったな。

身元がわかってるし、こいつを使おう。



僕が変装時に1番拘るのはキャラメイクだ。

もちろん見た目も大事だけど、魔力で体を自由自在に変形出来る僕には問題では無い。


ただ、きちんと設定を煮詰めないと会話と仕草に違和感が生まれる。

その違和感の積み重ねが変装を見破られるきっかけとなる。

たからキャラメイクはしっかりしないとね。


名前は夢野ゆめの 奏多かなた

年齢は21歳。

海外カジノで一発当てたギャンブラー。


その設定の為に2日ほどカジノに入り浸って半グレから奪った金を100倍にして来た。


そして、


『叔父さん』


僕は言霊を使って尾崎 八枝の芸能事務所の社長を呼び止める。


「君は?」


社長は怪訝そうな顔で僕を見た。

だけど気にせず話を続ける。


『僕だよ僕。

夢野 奏多』

「夢野 奏多?」

『そうそう。

子供の頃、叔父さんに教えて貰ったポーカーをきっかけにギャンブラーを名乗って海外に行ったバカな甥っ子だよ』


まだ社長は半信半疑だ。

でも僕の霊力に当てられて信じ始めている。

そこに更に追い討ちをかけて行く。


『聞いてよ叔父さん。

僕はカジノに大勝ちしたんだよ。

これも全て叔父さんが教えてくれたおかげだよ。

だから叔父さんにお礼を言いに来たんだ』

「あ、ああ。

奏多か!

久しぶりだな。

すっかり大きくなったな」


かかった。

言霊による催眠はコツを掴めば簡単。


全くの架空の人物を信じ込ませるには、敢えて突拍子も無い設定を作る。

対象が知る実在する人物に近くなると違和感ぎ生まれるからだ。


そしてあまり多くは語らない。

霊力とは魂に宿る存在の力だ。

ある程度の情報を刷り込めば、あとは本人が勝手に情報を補完する。

そことの違和感を与えないのが重要。


あと今回は親戚設定だから、見た目を社長の若い時の雰囲気に似せている。


『それで叔父さん。

ちょっとお願いがあるんだ』

「なんだ?」

『ギャンブルで一生分のお金は稼いだだけどね。

社会勉強として、いろんな仕事をやってみたいと思うんだ。

だから叔父さんの会社で働かせてよ』

「うちの会社でか?」

『そう。

もちろん使えないと思ったらすぐにクビにしていいからさ』

「ああ、じゃあ事務員にでも――」

『どうせなら芸能事務所でしか出来ない仕事がいいな。

例えば、尾崎 八枝のマネージャーとか』

「なんだ?

もしかして彼女が狙いか?」

『まあね。

なんたって僕は彼女のファンだからね。

だからいいよね?』

「わかった。

そのかわり手を出したらダメだぞ」

『はーい』


これでパーティーに潜入する第一段階はクリアだ。

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