大した奴ら
使われていない灯台に明かりを灯すため、エリヤとレヴィの即席コンビは街外れの暗い道を走っていた。
「しっかりついてこいよ」
先導するレヴィはランプを片手に走り続ける。街の外へ出て、頼りになる灯りがランプしかないことにエリヤは心細くなった。加えて、燃料缶の重さがエリヤを余計不安にさせる。
「お前こそ」
レヴィの後ろを走りながら、エリヤはレヴィの健脚に驚いていた。エリヤの知る限り、レヴィは年中サッカーボールを追いかけている子供ではなかったからだ。
「この道なら何度も通っているからね、あの灯台の管理は僕たちの仕事だから」
「博物館のか?」
「いいや、僕のじいさんのじいさんが最後の灯台守だった」
「それは初耳だよ」
「誰も興味ないからね」
レヴィはそれから黙々と走り続けた。郊外の道は街中のように舗装されていなくて、とても走りにくかった。それをレヴィは気にかけることなく、ランプを掲げて走って行く。
「ようやく着いたぞ」
灯台に続く長い坂を登り終えると、二人はその場に倒れ込んだ。
「こんなに走ったのは久しぶりだ」
「こっちこそ、こんな荷物持たせやがって」
エリヤがリュックサックを降ろして天を仰ぐと、同じく仰向けに倒れているレヴィが笑った。
「実地調査なら、もっと大荷物で山の中を行くんだぞ」
「そんなの、こんなにずっと走らないだろう?」
エリヤの返答に、レヴィはもっと笑った。
「走らないかもな。でもずっと山の中に留まったりはする。もちろん電気なんかない。僕も16歳になったら連れて行ってくれるって父さんがよく言ってた」
レヴィの言う「実地調査」が何かわからなかったが、エリヤは「博物館の予算を削減する」と言っていた父の言葉を思い出す。
「それって大事なことなのか?」
「多分。このランプだって、まだ使えるからって父さんが調査に持って行ったものだ」
「そうなのか……」
レヴィの話を聞いて、エリヤは学業でレヴィに負けて嫉妬していた自分が恥ずかしくなった。レヴィは図書館でひとり勉強を続け、いざという時に役立つ知識をすぐに引き出してくる。これは全く適わないと、エリヤは素直にレヴィの努力を賞賛する。
「すごいな、君は何でも知っていて。僕なんか全然、ダメだ」
「何を言うんだ、級長の君の方がすごいだろう?」
レヴィに言い返されて、エリヤは面食らった。
「僕の何がすごいって言うんだ?」
「さっきも言ったじゃないか。市長の息子で級長の君が、爪弾きの僕のところに真っ直ぐやってきて協力してくれって頭を下げたんだよ。こんなの、普通に考えたらあり得ないだろう?」
「そうか? 困ったときに出来る奴に協力を求めるのは普通じゃないのか?」
するとレヴィは腹を抱えて笑い始めた。
「何で!? 何がそんなにおかしいんだ!?」
「いや、傑作だよ。人間って言うのもなかなか捨てたもんじゃないな」
むっとしたエリヤが座り直すと、レヴィもエリヤに向かい合った。
「あんまりにも君がバカだからはっきり言ってやるよ。普通はね、僕みたいな変わり者には誰も近づきたくないんだ。僕ら一家がどんな思いで暮らしてきたか、君には想像できるか?」
レヴィの顔はランプに照らされていた。しかし、エリヤはレヴィの顔を見ることができなかった。
「街は次々と新しい技術を取り入れて発展していく。でも、その代わり今までお世話になってきたものを放り出していく。もしかしたらまた使うかもしれないのに、お払い箱なんてあんまりじゃないか……」
レヴィはランプを持つと、エリヤに手渡す。
「でも、君はこいつらを思い出してくれた。お払い箱になっていく僕のことも。本当に大した奴だよ、級長」
レヴィはリュックサックを手に立ち上がった。つられてエリヤも立ち上がろうとするが、心臓を何かに射貫かれたようにふらふらと身体が揺れたように感じた。レヴィの顔を見るのがやけに照れくさかった。
「はは、案外自分のことってわかんないものだな」
「ま、自分自身って一番見えないものだから」
エリヤは再度レヴィを見る。勉強だけできるいけ好かない奴だと思っていたが、今ではしっかりとこの街の将来を考えている頼もしい相棒に見えてきた。
「さて、そろそろ行こうか」
レヴィが灯台の中へ入る扉を開ける。鍵はかかっていなかった。中はがらんとして埃臭く、ランプの灯りの外側はどこまでも暗いままだった。
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