沸騰する祭×去らない熱

四谷軒

01 理性の祭典 Fête de la Raison

 革命暦第二年。

 霧月ブリュメール

 ノートルダム寺院あらため、「理性の神殿Temple de la Raison」にて。

 その祭典――「理性の祭典Fête de la Raison」は挙行された。


「狂信は今や……正義と真理に決定的に席を譲った!」


 そのかけ声と共に、白いうすもののドレス、青い外套マントを身につけ、赤い帽子ボンネットを頭に乗せた女性が、玉座で黒檀の槍をかかげる。


「今後司祭は存在せず、自然が人類に教えた神以外に神は存在しないであろう!」


 同時に女性――「自由と理性」という女神――立ち上がった。

 女性の周囲を、やはり三色トリコロールの帯を締めた、ローマ風のうすもののドレスをまとった少女たちが舞い踊る。

 舞台の上のそれを見た人々も、興奮して踊り出す。

 今や、ノートルダム寺院、否、「理性の神殿」は揺れんばかりだ。

 そう、場は沸騰していた――未曽有の祭典に。

 あのバスティーユ監獄襲撃より始まるフランス革命――その熱は去らず、冷めやらず、まだまだ人々を熱狂させていた。


「おお……これこそ自由だ! 理性だ! 素晴らしいボン! 今こそ……今こそ、市民は宗教を超克した!」


 当年とって三十六才になるジャック・ルネ・エベールは、自ら催した「理性の祭典」が大成功を収めたことに満足し、快哉を叫んだ。

 かたわらにいたアントワーヌ・フランソワ・モモロの肩を叩き、「見ろ、君の細君の神々しいを!」と喜色満面の笑みを浮かべた。

 モモロの妻、ソフィーは、実はこの祭典の主役である「自由と理性」の女神を演じていた。

 しかも、「挑発的に」衣装を身につけていたと伝えられているため、おそらくその衣装は、同時代のテレーズ・カバリュスのような、透けているものだったのであろう。


「ふっふふ、もいいだろう……見ろ、ここにいる人々も、そして『デュシェーヌ親父』の読者たちも、そういうのを楽しみとしている!」


 モモロはあいまいな笑みを浮かべて誤魔化したが、実はかなり不快そうであった。

 お前がやれと言ったんだろう、と言いたげな眼差しだった。

 「デュシェーヌ親父」とはエベールの発行している新聞の名前であり、ちなみにエベールのあだなはそのまま「デュシェーヌ親父」である。

 エベールはこの「デュシェーヌ親父」において王党派や政敵を口汚く攻撃し、人気を博して来た。



 その最たるものが――王妃マリー・アントワネットへの革命裁判である。

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