第21話 赤目と黒魔法の秘密


 帰宅後、ピフラはすぐに書庫へと赴いた。

 神話や歴史書の類を漁り、乾燥した羊皮紙を次々に捲っていく。

 探しているのは他でもない「赤目」についての文献である。そして見つけた蔵書『イヴィテュール帝国記』にはこう記されていた。


 『イヴィテュール帝国記』

 かつて、隣国イヴィテュール帝国には悪魔が蔓延っていた。悪魔とは魔界に住まう「悪」が具現化した生き物を指す。

 魔界は人間界と隔絶されている。

 世界のことわりが悪魔の脅威から人間を守るため、両世界間に結界を張ったからである。その「理の結界」が、永らく世界の秩序を保ってきた。

 しかし、たった1つの抜け道があった。

 『魔法士との契約』である。

 魔法士達は己の私利私欲のため、しばしば悪魔との契約を交わした。

 魔法士は悪魔と契約することで膨大な黒魔力を手に入れ、悪魔は魔法士を媒介として人間界へ渡ったのである。

 その時、悪魔を受け入れた呪われし土地がこのイヴィテュール帝国だ。

 事態が終息したのはXXX年『聖女の浄化』が魔王を葬った時のこと。

 人間界から魔王が消滅し悪魔が消えたことで、黒魔法士は力を失い鳴りを潜めた。

 理は同じ過ちが人間界で繰り返されないよう、禁忌を犯した黒魔法士に罪の印を残した。

 

 それこそが『赤目』である。

 

 赤目はその魔力量に逕庭けいていはあれど、必ず黒魔力を持つ。

 故に、赤目の人間は見つけ次第屠らねばならない。

 奴らは今も闇に潜み、魔王蘇生のために捧げる贄を探しているのだから。 ──XX手稿より

 

(──悪魔は人を媒介する。約200年前に聖女のおかげで魔王が消滅して国に平和が訪れた。でも現存の黒魔法士……つまり赤目は、魔王復活のために生贄を探しているってことよね?)


 悪魔、黒魔法師──魔王。

 どれを取っても現実味がない。この手記でさえ、歴史書というよりお伽話に思える自分がいる。

 赤目の由縁についても「これはフィクションだ」と否定したい。いや、以前なら迷わずしたはずだ。

 少なくとも、昼間ウォラクと話す前ならば。

 ピフラは昼間のウォラクとの会話を思い出す。


『パーピル……というのは何ですか?』

『黒魔法士が使役する化け物の総称です。パーピルは元はただの人間ですが、使役されると主人の思うがままに動く化け物になるのです。いわば傀儡ですね』

『元は……ただの人間……?』

『おや、心当たりがおありで?』

 

 昼間のチャペルでの時間。赤目の事情を知るウォラクに、ピフラはマルタの事件を打ち明けた。

 ウォラクも赤目、つまり黒魔法士の子孫である。

 歴史書に基けばウォラクもまた"生贄を探す黒魔法士"という位置付けだが、しかし彼は信用に足る人間だと思った。

 悪意があれば赤目の秘密や悪魔や人間の使役等、黒魔法士の手の内を明かすはずがないからだ。

 そして、ウォラクの知識とマルタの事件を照らし合わせると1つの仮説が立った。

 『マルタは何者かに使役されたパーピルだった』という説である。

(あの夜のマルタは、欲望に魂と肉体を乗っ取られわたしを襲った。つまり、何者かによって使役されていた? それなら彼女が化け物に急変した説明がつく)

 しかし、一体どのように使役魔法をかけられたのだろう。

 ウォラクは言った。『使役魔法は、魔法をかける対象の人間に接触しなければならない』のだと。

 それを聞き、ピフラの脳裏にある恐ろしい思考がよぎった。

 あの時、マルタに確実に接触出来る黒魔法士が、"赤目"がいたではないか。

 

 ──ガルムだ。


 

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ヤンデレ設定の義弟を手塩にかけたら、シスコン大魔法士に育ちました!? 三月よる @3tsukiyoru

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