第7話

 さて――という言葉の次に、俺は「病院へ行こう」と言うつもりでいた。


 だが、それは着信音で遮られ、妨害されてしまう。一体何者が、出会え出会えと思って発信者の名前を見ると、そこには「実來」とある。


 そう。ついに二人の失踪を重く受け止め始めた証拠だ。


「二人とも、静かにしててくれ」


 急いでそれを言い残し、俺は外に出る。息を切らさない内に通話に出ると、トラの唸り声かと聞き間違えるほどの低い音が聞こえてきた。


『なぁ……あいつら、知らん?』

「いや、知らないな。もしかしてどこかに逃げたしたのか?」

『そうだよ。なぁ兄貴ィ……お前今どこにおる』


 この言い方。完全に俺を疑っている。いきなり怒鳴りつけてこないだけまだ成長しているというべきか、冷静と言うべきか。俺はそれを判断できなかった。


「今は工場の倉庫にいる」

『工場……? 新幹線はどうしたよ』

「東京には行った。けどそこの工場に顔だけ見せて家にも帰らずとんぼ返りした」

『……そうか。んじゃ』


 なぁ実來。お前、俺を侮ってるだろ。お前は犯罪を隠す演技は出来ても、自分の欲望を隠す演技は絶望的に下手なんだよ。少なくとも、俺は看破できる。

 だから最後の「んじゃ」は、気持ち悪く感じた。捻れて歪んでるみたいだった。


「さて」


 俺は再び言い直し、二人に目的地を告げる。


「病院へ行く。恐らく居場所がバレてる」

「そ、そうなんですか!? 今とんでもない大嘘ついてましたけど……」

「GPSの線を疑ったけど……この場合は人間道具だろうな。あれがそこまで高性能だなんて思ってなかったのは計算外だ」


 舌打ちをしながらも、二人を車に乗せて移動を開始する。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る