第4話
「やっと帰ってきましたか工場長!」
部下の一人が、なぜか澄ました顔で――まるで手のかかる後輩への態度だ――俺に話しかけてくる。
「いやな、ちょっとした地雷を持って帰ってきてな……すまんけどあと追加で一週間はここに来れないかもしれん」
ここは俺の工場、その工場長室だ。
こいつは初期からいる部下で、名前は健吾。なぜか妙に馴れ馴れしい。それこそ距離感が後輩みたいな感じだな。しかし不思議と嫌な気分にならない。だから咎めることはしていない。
「えぇー? ちょっと詳しく聞かせてくださいよ!」
「全く……頼むから他言無用でいてくれよ? 噂になったら命に関わる」
「命って、そんなにやばい話なんですか!? 心の準備が……!」
「じゃあ聞くのやめるか?」
「いいえ聞かせてください!!」
こいつはいちいち反応が面白い。こんなんだが有能だし、友人としても、部下としても最高のやつだ。若いのによくやってくれる。
「まずは一週間前……あ、俺の弟については話したっけ?」
「あぁ、なんとなく聞いてますね。ヤンチャでやばい奴だとか……」
「そこまで言ってない……って言いたいけど、あながち間違いじゃないのが怖いとこだ」
と、こんな調子で話すこと十数分強。
百面相みたいに顔をコロコロ変えながら反応する健吾にはずっと笑わされていた。そして出てきた最終的な感想は――
「それ虐待とかですよ! ぜってーやばいことに巻き込まれてます!」
という、事態をよく把握しているような、軽んじているような、曖昧な解答だった。
俺としては絶対にそんな軽いことじゃないという確信がある。あいつが抱える問題で軽かったことがない。これは俺の人生全てから導き出される演算結果だ。何人にも否定されてたまるものか。
その話の後は仕事の引き継ぎなど、俺がいなくてもどうにかなるようにしておいた。別に俺は大企業の社長とかではないので、それくらいの無理は通る。というか、俺だって別に仕事をすべて放棄すると言いたいわけじゃない。家でどうにかなるものは家でやるつもりだ。幸いデジタル環境は構築済み。親父の発明のお陰で簡単にやることが――正確にはAIが資料のデジタル化をやった――できたのだ。今でも頭が上がらない。
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