第5話 いけっミニモジャ男!
非日常の学校生活初日は概ね順調に進んでいた。そう、白モジャが一定周期で発光したり、魚人がエラで呼吸している事に気がついたりした以外は本当にうまくいっていたのだ。しかし、平穏はそう長くは続かなかった。
それは午後の道徳の授業、今回の担当をしていた隣クラスの担任の先生が発した言葉から始まった。
「では、多様性を大切にするためには何が大事かを班を作って話合ってください」
タイムリーな話題だと思いながらも、最初はさして焦っていなかった。班は近くの人と組むため、幻覚の人と一緒になる事は無いからだ。しかし、班を作る上で問題が出てきた。
「せんせー、こっちの班3人休んでまーす」
そう、こんな日に限って欠席した人が多かったのだ。後はまぁ、人の多い班から・・・という流れである。
「誰からやる?」
「じゃあ私からで」
目の前の発光モジャ男が司会役を務め、厳つい鬼が一番手に立候補する。対して俺は、幻覚をすぐ近くで見ているために全く考えがまとまらなかった。
「・・・高橋くん、聞いてる?」
「あっ、ごめんぼーっとしてた」
「他の人の意見書いた方が良いよ?ほら見せてあげるから」
「ありがとう」
いつの間にか他の人の番は終わっていたようだ。鬼に感謝しながら内容に目を通すと、どれも似たり寄ったりの無難な意見だったので自分も似たような事を言って終わらせた。
しかし何というか、化物の姿から一般的な女子の声が来ると凄く混乱する。これはギャップ萌えがあるかもややも?
「あ、見せてくれてありがとう」
凄く申し訳ないが、手渡しでは無く机に置いて返す。なにせ、元の姿と鬼の大きさが違い過ぎて手渡しだと確実に俺の手を通過するのだ。貸してもらう時は幻覚の腕からプリントがはみ出ていたので避けれたが、渡す側となればそうはいかない。
こういう細かい事も注意しなければならないだろう。
その後は、未だ全員が意見を言い切っていない班があったので暫く待つ事になった。
どうせ近くに居るのならとモジャ男くんを観察していると、大量の毛の中で何かが動いている事に気がつく。ノミみたいなものか?
結果によっては距離を取らなければと思いながら、目を凝らして良く見る。
モジャ男くんの毛色と違って若干黒い色をしたソレは、今頭部の一部に集まっていた。
「あ・・・」
「取るよ」
「大丈夫、そこまで遠くないし」
もっと近寄るためにワザと消しゴムをモジャ男くんの方向に落とす。
帰り際に近づいてよく見てみると、ソレは小さいモジャ男くんの様な形をしていて、とび跳ねた毛先を押さえつけているようだった。そんなタイプもあるのか・・・意外と可愛い。
使役しているのか、それとも子分的な存在なのか・・・もし幻覚が使役出来るのなら、自分も何か手伝ってもらう事も出来るのかも知れない。
本人に直接聞ければ良いのだが、確実に頭がおかしくなったと言われるか、気付かれたと思われて何かしらの行動に出るかするだろう。そもそも本人が幻覚の事を自覚しているかすら分かって無いのに関わるべきではないよな。情報は無い無いづくしだ。
鬼、モジャ男と来たら卯月・・では無く魚人に目を向ける。比較的表情豊かな人だと記憶しているのだが、今は死んだ目にテカテカする肌で全く何を考えているのか読めない。水中じゃ無いのにエラで大丈夫なのか?そもそも息する必要が無いのだろうか。
何にせよ定期的に観察出来る幻覚であるこの三人は、俺の疑問の解決に役だってくれるだろう。
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