第6話 結局食べれなかった・・・
朝食を食べようとした時もそうであったが、幻覚というのは生物・非生物に問わず現れる物らしい。平等だ。
給食当番中、食缶に広がる光景を見ながらそう現実逃避した。とは言っても、配る係を与えられている自分に拒否権は無い。
幻覚が入っていても食べて良いのではないか、いつかは妥協していくべき点だ。そう自分に言い聞かせてオボンを取る。
食缶はご飯、小食缶、中食缶、大食缶の順に並べられており、配膳係が流れてきた配る係のオボンにご飯やら何やらを載せていく。
幸い、自分はある程度選り好み出来る立場にある。幻覚の入っている食器は避けられる可能性が高い。
そうこう考えていると、遂にご飯食器が自分の持っているオボンに置かれた。良く見てみるも何も無く、あの食缶内でランニングしている幻覚どもは入っていないようだ。
そう安心したのも束の間、米粒の一つが段々と黒く染まってミミズ型の幻覚が纏わり付いた。今まで幾つもの幻覚を見てきたが、無から発生する瞬間を見るのは初めてだ。
「何かを基点として生まれるのか?それが全てじゃ無いにしても、基点とした物が分解・分割されても幻覚は残るのだったら発生源として有力な物の一つになるだろうが・・・」
いや、物の大小なんて関係無いのだろう。となれば空気中のチリや酸素分子なんかでも発生するだろうし、そもそも肉眼では見えないだけで細菌サイズの幻覚もいそうだ。
「もうちょい速くしてくれない?」
マッシュヘアーに瓶底メガネという、今時早々見ないファッションをしている望月くんに注意されてしまった。
「ごめん、考え事をしていて・・・」
「授業中もそんな感じだったし、好きな子でもできたのでは?」
「いや、それは無い」
即答すると、望月くんもそれは予想していたのかそのまま話を続ける。
「じゃあ何?君がそんなに気にする事って」
「うーむ、どうこう出来るものじゃなくてなぁ・・・」
「ちょっとだけで良いからさ、な?」
しつこい。しかし、立場が逆だったら俺も気になるだろうし文句は言えない。
「あーほら、一気に視野が広がった感じ?」
広がったというか、深くなったと言う方が正しいだろうか?表現しづらい。
「どういう事?俺の封印されし邪眼が・・・とか言い出しそう」
封印されていたかはともかく、目に関連しているのは合っている。
「まあ、直ぐに慣れていつも通りになるから気にしないで良いよ」
話している間に幻覚付きの食器を貰ったので、これは他の人の場所に置いておこう。
出来れば望月くんの運んでいるオボンをくれないだろうか?今のところ幻覚は一体も見えない。
「ほーん、まぁカレーの前にはそんな事どうでも良いな!宮崎、ちょっと多めによそってくれよー」
「駄目だ」
そう、よりにもよって今日の給食はカレーなのだ。本来ならご飯を大盛りにしておかわりまでするのだが、カレーの海に溺れるおっさんを見ているとそんな気にはなれない。
題名を付けるとすれば「飽食」だろうか、風刺画にありそうだ。
「あ、そこのニンジンも掬ってくれない?ありがとう」
「おいおい、何で俺が駄目で高橋は良いんだよ!不平等はんたーい!」
「はっはっは、これが人徳ってやつさ」
溺れていたおじさんも掬ってもらった。もうこれらが他の人に行くのは決定しているし、次に自分の所へ幻覚が来る可能性は少しでも減らした方がいい。
幻覚は見えるから被害を受けるのであって、見えない人からしたら居ようが居まいが関係無いのである。だから、俺の行いが少し酷い様に見えるのは間違いだ。
カレーで思い出すのはなんだが、望月くんのあだ名は「クソ野郎」という。全校朝礼で頭に鳥の糞が落ちた出来事が原因だ。もちろん最初は本人も嫌がっていたが、そのあだ名で知り合った人もそこそこいるらしく、今は気に入っているらしい。
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