第4話 素晴らしき友情(棒)

 見る度に心がゴリゴリと削れて身体が逃げようとする特大のデメリットがあるが、卯月との行動はそれに見合うメリットもあった。


「おお〜壮観だな」

「えっ何が何が?」

「ほら、あそこに大量のハトが」

「まじやん、あのおじちゃんまた餌やってるのかよ。注意されたって聞いたんだけど」



 卯月が進む度に幻覚どもが退く。まるでモーゼの様だ。少なからずイライラさせられた俺としては爽快感がある。


 その後は今までが何だったのかと言うほどあっさりと学校まで着き、卯月無しの登校が考えられない程だ。毒を以て毒を制するとはこの事か、と。


「卯月、明日も絶対に一緒に行こうな!(目を背けながら)」

「え、ええ?そりゃ願っても無い事だけど・・・」


 いや、俺はなんて素晴らしい友人を持ったのだろう。


 外見どころか種族の壁すら超える友情を胸に、出来るだけ卯月の前にいくようにしながら歩いた。まぁ、これは差別とかではなくてしょうがない事だ。理性じゃ無くて本能が拒絶する。現に今だって震えそうな足を押さえているのだ。


ーーー


 幻覚によって体格が大きく見える生徒達を素早く、かつ自然に避けながら教室を目指す。

 疑問に思っていた、卯月パワーの生徒達への影響はない様だ。まぁ今までずっと同じ学校にいたから予想してはいたのだが、逃げた幻覚と生徒達の違いは何だろうか?学校周りでも逃げる奴はいたし、慣れとかそう言う事では無い気はするのだが。やはり実体を持っている奴は特別なのだろうか?今度卯月を小鳥を元にしてる幻覚に近づけてみよう。

 メモ帳を取り出して書き留めておく。自分一人で解明するなら小さな積み重ねが重要だろう。

 

 メモ内容を卯月に見られないようにしながら歩き教室に着いた。自分の席の周りには・・・いない。大きい幻覚がいたら黒板が見えないので良かった。次の席替えでは目が悪いと申告して前にしてもらう事にしよう。


 教科書や筆記用具をカバンから出しながら、幻覚の見えるクラスメイトを確認しておく。魚人の田中くんに鬼の佐藤さん、そして白い毛がもじゃもじゃの工藤くんか・・・卯月を含めて4人いるようだった。

 こうしてじっくり観察していると、幻覚部分が壁や机にめり込んでいるのが分かる。それはまるでゲームのバグみたいで、何とも背筋の凍るものだった。

 



「おっす、みんな準備出来てるかー」


 しばらくぼへーっとしていたが、軽い挨拶に野太い声が聞こえてきたのですぐさま扉の方向へ目を向ける。おそらく担任の竹中先生だろう。

 卯月の件もあってもう少し慎重にすればと後悔したが、幸い先生は普段通りの姿をしていた。どうやら授業に関して心配する必要は無さそうだ。それに、二者面談の事も考えてヒヤヒヤしていたので本当に嬉しい。


 安心して顔を戻すと、視界の端にぽっかりと、黒いと言うか漆黒という言葉が似合う姿を捉えた。あまり意識し過ぎないよう、眼鏡を外して見ないようにする。 

 何処かに寺生まれのTくん、いないだろうか?是非ともお祓いしてもらいたい。卯月に勝てる未来は見えないが・・・いや、それはそれで困るな・・・


 悩みに悩んで、取らぬ狸の皮算用だと気がついてやめた。それにこんなにも幻覚がいるのだから、祓える人だって諦めているのだろう。

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