第一章17 『託された世界の命運と次の目的地』



 その後、従者の案内で広間へ向かう廊下を歩きながら三人は会話を交わしていた。


「ところで……あの王様ってどんな人なんだ。また、魔族が化けて出てきたり、攻撃を加えてきたりはしないよな!?」


「備えておくことね。イレギュラーな問題ことがない限りは――わからないわ」


「おいおい、驚かせるなよ。犯人は俺らで退治したはずだろう」


 メリアの返答に対してヒロアキは苦笑いするしかなかったが、すぐに気持ちを切り替えて前を見据えると謁見の間へと到着した。出入り口の前には正装をしたリーフィアの姿が見える。


「皆さんご無事で何よりです。それに、ごしゅじん様。お目覚めになったのですね!」


 幼女は嬉しそうに駆け寄ってくると満面な笑顔を向けてヒロアキ達を迎えてくれた。


「体調を崩したって聞いたけれど、具合いは大丈夫なのか?リーフィア」


「はい!もうすっかり元気ですよ。げんき盛り盛りです」


 ……と笑顔で返すリーフィア。そして三人は謁見の間へ入るよう促されたので一緒に中へと入って行く。


「ここが……王様がいる部屋か……」


 大きな扉を前にして緊張気味な様子で呟くとレイナが軽く微笑んで言った。


「大丈夫。国王はとても優しい方よ」


 大きな広間になっており、天井の高さは五十メートル程あり、壁一面には様々な装飾が施されている。

 部屋の中央から赤い絨毯が敷いてある先には、大きな玉座が置かれており、そこには王様と思しき人物が座していた。


「……恩人達よ。歓迎するぞ」


 威厳のある顔つきをしており、その眼力からは只者でないオーラを感じられるほどだ。しかし、偽物にやられた過去がフラッシュバックする。「失礼するぞ」と言いながら別の入り口から入ってきた案内人に続き、何人かの従者や偉そうな態度の大臣らも入ってくるのが見えた。現実でも上から物申す系の人物に苦手意識があって、無意識に避けてしまう。


「よくぞ参られた。改めて正式に、自己紹介をしよう。ワシはドラグニア国の王、ジル・ドラグニアだ」


「お招き頂き光栄でございます。国王様」


 挨拶をしながらレイナは、王様に向かって深々と頭を下げると、それに続いてメリアとヒロアキも頭を下げた。


「うむ。皆無事で何よりだ。しかし、君たちには色々と聞きたいことがあるのだが……」


 王様は険しい表情を浮かべつつ質問を投げかける。


「厄災の悪影響が出始め、世界が滅びの道へ向かいつつあるというのは知っておるな。それについても改めて話さなくてはならぬ」


 この展開は一度、ニセ王とのやり取りで見たことがあるような気がしたが、事態がややこしくなるので触れないでおこう。

 改めて、ドラグニア界が置かれている現在の状況について王様から語られた。


 大昔に世界を救った存在、大英雄によって封印されていた魔王が復活しつつあるという。大量の魔族たちは王の封印を解く為に下界へ攻め入り、その軍勢の力はドラグニア全土に広がっているのだ。


 魔界から発する暗黒の気。厄災が漏れ出し、ドラグニア界へ悪影響も出始めていた。――厄災は植物が枯れることから始まって、地上のが天候が荒れ、海や川の水が全て汚染されて飲み水には使えなくなるといった具合だ。

まだ多少の猶予があるとしても、このまま魔族達の侵攻を許せば国が滅ぶのも時間の問題になる。


 そして、厄災による影響で世界樹の力が弱まりつつあった。――万物にあふれている魔力の素『魔力レノ粒子』が枯渇している。このままでは世界の均衡が崩れて破滅するというのだ。

 世界樹から生み出される魔力レノ粒子は、命の源でもあり、魔法を使うにも必要不可欠なものである。すべて無くなれば人を始め、様々な生物が滅んでしまうだろう。


「――というのが事のあらましじゃ。今現在、魔族がドラグニア界へ侵攻し始めている」


「はい。それは存じ上げております。しかし何故、その事を我々に?」


 王様の言葉にメリアは疑問を投げかけると、 王様は真剣な眼差しで答える。


「君たちには、これから起こる厄災の被害と魔王ふっかつを食い止めてもらいたいのだ」


 眉間にシワを寄せて王様は深刻そうな表情でヒロアキ達一行に視線を送る。王様の発言を聞いた広間に集まっている官僚や大臣達の間からはざわめきが起こった。


「断固反対する!」

「どんな者かもわからぬ田舎者たちに世界の命運を託せというのか」

「世界が崩壊するかもしれない危機なのですよ!!」


 騒ぎ立てる大臣たち。

 しかし、王様は片手を前に掲げてそれを制し、大臣らを一喝して黙らせ、


「命を救ってくれた恩人でもあるのだ。この者たちを侮辱するということは、ワシの顔に泥を塗りたくる行為と同義だと思って発言せよ!」


 その一言で広間は静まり返り、皆が黙ってしまった。

王様の気迫にはそれだけの説得力があったのだろう「国王様がそう仰られるのなら……」と渋々ながら引き下がる大臣たち。


「すまぬな。少しばかり熱くなってしもうた……」


「いえ、構いませんよ」


 ヒロアキの言葉に怒り心頭の様子で睨む者もいたが、メリアとレイナによって止めに入る。そして王様は話を続けた。


「異世界からやって来た異邦人。ミアケ・ヒロアキ。どうか……魔王の魔の手からドラグニアを救ってほしい! 引き受けてくれるな?」


「任せてください。暗黒に閉ざされたこの世界を俺が――」


「おお、引き受けてくれるのか」


 言葉を途中で遮る様に、後ろからレイナが声を被せて、


「もちろんです! 国王様。必ずやドラグニアを救ってぇ見せましょう♪」


「……ってちょっと待て。レイナ。それ俺が言うセリフだってば!?」


 とレイナは鼻を鳴らして自信満々に答えた。

 彼の決め台詞を奪ってしまった事に対して、ヒロアキの方を一瞬振り返って「ごめんね」と可愛く舌を出してウインクをするレイナ。

 そして王様はヒロアキに向き直ると、


「君たちには世界を救ってもらう代わりに、ワシに出来ることであれば何でもするつもりだ」


「では、何か貰えませんか?」


「そうだな。うむ――」


王様は大臣たちを見渡す。すると、一人の若い研究者らしき人が手を挙げたので、彼に発言権を与えた。

そして、その若い男はヒロアキに向かってこう告げる。


「この度は国王様を助けていただきありがとうございます。貴方様がいなければ王国は今頃どうなっていたことか……。そこで一つ提案なのですが……我々に協力していただけるのであれば報酬として何か差し上げようと思うのですがいかがでしょうか? 国王様」


そいつの提案に、王様は驚いた表情を見せる。


「――文学の国、『ヘルクダール王国』へ寄りたいと申しておったそうじゃな。魔術を学ぶ為の学校がある。そこへ入学して魔法の基礎を学んでみてはどうか?」


 思いも寄らぬ王様の提案にヒロアキとレイナは顔を見合わせ、


「はい!  是非お願いします」


 ヒロアキが返事をすると、王様は満足そうに頷く。そして、今度はメリアに向かって言葉をかけた。


「メリア殿。おぬしは確か――魔術の名門、『リヴィエール家』の現当主であったな」


「……はい。ご存知頂いており光栄です」


「そうか。おぬしの家には以前、迷惑を掛けてしまったな」


「滅相もございません……国王様」


 申し訳なさそうに王様へメリアは頭を下げる。のをヒロアキは黙って眺めていた。ヒロアキに話す時と目上の人で対応の差に大きな違いがあり「いつもの煽りや、毒舌ではなく意外とマナーがしっかりしてんだなぁ」と驚かされた。


「――ゴホン。話しが逸れてしまったな。全員に新しい装備と地図を渡そう。ミアケ・ヒロアキ殿の入学の手続きはワシがしておく」


「それはどういうことだ?」


「私とレイナは既に、在学中の生徒なのよ。今はワケあって休学していたけれど……」


「え、二人共そうだったの!?」


 ヒロアキは驚きを隠せない様子で二人を見つめる。異世界とあっちの世界じゃ時間の流れは違うのかもしれない。もし仮に、三百六十五日が一年だとするならば彼女たちの見た目や体型的に中学三年生ぐらいということになる。


「……もう急いで向かわなければならない為、これで失礼いたします」


「では、これにて話は終わりじゃ。外に迎えの者が待っておる。旅の道中は気を付けてな。ゆくがよい、魔王から世界を救う選ばれし者たちよ!」


「ありがとうございます」


 四人は王様に一礼すると、レイナとメリアと共に国王の広間を後にした。


※※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



 通路を通って出入り口へ向かう道中、ヒロアキとメリアは、幼いリーフィアを冒険の旅へ連れて行くかどうかについて話していた。


「私とごしゅじん様はもう、主従の関係ではなくなったというのを聞きました。それは本当でしょうか?」


 リーフィアはヒロアキに対して、少し寂しげな表情を浮かべて問いかける。


「――君に付けられていた奴隷の鎖と首輪はニセ王によって外されてしまったんだ。そもそも、俺とリーフィアは正式な契約を結んでいないから主従の関係ではないだろう?」


「では、私はこれからどうすれば――何を希望に生きていけばいいのでしょうか……」


「そうだな。君はもう自由の身だ。何も縛るものはない。これから先は自分の好きな道を選ぶといいさ」


 リーフィアは驚いた表情を浮かべるとヒロアキの顔を見つめる。

 その視線に気付いた彼はにっこりと微笑んで見せた。



「――じゃあさ、正式に契約しちゃえはいいんじゃない?」


 突然のレイナからの提案にヒロアキは首を傾げる。


「そんな簡単に出来るわけないだろうが、それに奴隷契約はこの国では違法なんだろ? やらないほうがいい。ポンポン契約できたら、闇を隠蔽している王都はヤバい国ということに……」


「さっき、ジル国王から許可貰ってきたもん! 「命を救ってくれた御礼に、特例として許そうぞ」って王様が言ってくれたよ。ヒロアキは知らないだけなんだぁー」


「な、なぬーーー!? いつ、どのタイミングで!?」


 相談も、事前に一言すら聞かされていなかったヒロアキは驚愕の声を上げる。すると、リーフィアはしばらく考え込むような仕草を見せた後、意を決したかのように口を開いた。


「……やりましょう。ごしゅじん様」


「いやいや、リーフィアを大切に育ててくれた親子さんに申し訳ないって!」


 すると、リーフィアは小走りでヒロアキの元へ駆け寄ると、彼の手を取り上目遣いで見つめてきた。


 ――な、なんだ……!? か、可愛い。


 満面の笑みでこちらを見つめている美少女がいた。その笑顔はまるで天使のようだった。お祈りするように涙目になりながらリーフィアは懇願してくる。そんな彼女を見て、ヒロアキは大きなため息をつくと軽く溜息をついた後にこう言った。


「はぁ……全く――分かったよ。危ないと思ったらすぐに中止するからな」


 渋々ヒロアキは了承する。


 そしてリーフィアは自分で上着の裾をたくし上げると、腰の少し下あたりまでスカートと下着を降ろす。鼠径部が露出して少女の白く、綺麗な肌が露わになる。獣の耳と尻尾を震わせ、リーフィアは顔を真っ赤に染めながら恥ずかしそうにしていた。


「俺は魔法を扱うことができない。わからないから、魔術系統に詳しいメリアに任せてもいいか? やり方を教えてほしい」


「……なんで私が!? ――っもう仕方ないわね。私がサポートするから貴方は目をつぶって何もしないこと、いい? 絶対に目を開けるんじゃないわよ」


 とりあえずメリアの指示に従い作業を進めてゆく。

 ヒロアキは、目を瞑って大事な場所を見ないように努力する。リーフィアの鼠径部の線に手を当てて魔力を流し込む。モゾモゾと悶えだして紅潮がより強くなり、少女の息遣いも激しく荒くなっているようだった。


 すると彼女の下腹部に淫紋に似ている模様が浮かんでくる。魔法陣が浮かび上がった後、その光は消えた。

 それは契約紋だった。ただし奴隷としての契約ではなく対等な仲間としての正しい契約を結ばなければならないだろう。

 次第にリーフィアは落ち着きを取り戻し、一息ついた。


「どう?」


「……無事に終わったわ。これで奴隷契約は完了よ」


 メリアはそっとリーフィアのスカートを降ろしながら答えた。


「やっと私も、ごしゅじん様の仲間になれたのかなぁ……。あの、時々でいいので「ヒロアキさん」とお呼びしてもいいですかぁ!」


「おう、別に構わないよ。いっしょに強くなっていこうって前に約束、したからな」



 喜びを全身で表現するかのように、猫人族で半獣のリーフィアは尻尾をバタつかせる。

 こうして、ヒロアキの従者として正式に契約することになったのだった。

――――――――――――――――――――――――――


次回で第一章は完結となります。

ここまで読んでいただきまして誠にありがとうございます。


 偽王に追われていた時に、メリアからヒロアキへ

かけられた魔法を使った描写が無いとのご指摘がありましたが、作品の最後の最後で

伏線回収するのでお楽しみに。

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