第一章13 『まさかの裏切り、押し寄せる現実という名前の怪物』
――中に入ると侍従の一人が出迎えてくれた。その後すぐに王の待つ部屋へ案内される。
豪華な装飾が施された扉が開かれ、中へ入るように促される。部屋の中に入ると玉座に座っている王の姿があった。
「よく来てくれた。あれが例の少年とやらか、貴様が活躍したウワサはきいておる。山賊どもを退治したそうだな」
威厳に満ちた風貌をしており、白くて長い顎髭を生やしている年老いた王様は圧倒的な存在感を放っている。RPGやアニメで最初に出てくる冠を被った国王のイメージそのままの姿で。
「お初にお目にかかります、国王様。ミアケ・ヒロアキと申します。この度はどのようなご用件でしょうか」
この場合、ファーストコンタクトで第一印象が決まると言っても過言ではない。日本の漫画やアニメで何回も見慣れている。もし間違った言葉遣いや、汚い身なりで来ようものなら追い出されるか何らかの罪に問われて、即ゲームオーバー。
あいにく元いた世界ではバイトの面接やら、仕事も受けたりもした事だってある為、マナーは予習済みだ。
「紹介がまだだったな。ワシが国王、ジル・ドラグニアだ。貴様を呼んだのはほかでもない……」
緊張しながらもヒロアキが尋ねると王は目を細めて言う。他に王様の護衛をしている西洋風の鎧を着た剣士と魔法使い二人がヒロアキよりも先に王家の広間にいた。
鎧を着た護衛の兵士に用意させたであろう目の前にあった二人分の客人用の椅子に座るように促され、素直に従って座ると国王が口を開く。
「――魔界に住む魔族達の動きが活発化し、何か企んでいるのではないかと噂されている。魔王が復活すれば、世界は滅んでしまう」
世界のはじまりと、国王の話を短くして説明する。
数千年も前、創造の神ガヴァンロード=ドラゴンは二つの世界を作った。日の光が降り注ぐ人間たちが暮らす地上と、神とその一族たちが住む天界。地上と天界は互いに干渉し合わないように隔絶されていたが、ある日を境にその関係が崩れてしまう。それがすべての始まりだった。
魔族という存在が現れ、地上を邪悪な力で脅かし始める。……神々だけが統治する世界に意を反し、魔王は侵略を企て、軍勢を率いて神たちへ戦争を仕掛けたのだ。
一方的な暴力による攻撃を始めた魔王を良しとしない人間側とドラゴン達は協力関係を結んで同盟を結成。
大きな戦争が始まった。――魔族対ドラゴン。両者の戦いは熾烈を極め、死闘の末、人間の戦士が魔王を封印。地上へ帰還した戦士は世界を救った勇者として、大英雄と呼ばれ人々から伝説として語り継がれる存在へ、そして現在に至るという。
「はるか昔に、大英雄と呼ばれる勇者が施した魔王の封印の栓が緩んでしまっている。近年さらに魔王が封印されている魔界の地から無数の魔獣の集団が地上へと現れて、村や町を襲撃するという報告がある」
「……魔王が復活するかもしれないと?」
「うむ。その通りだ。世界を破滅へ向かわせる厄災の脅威が迫ってきているのかもしれない。今は討伐隊を編成して対応しているが、いずれは我々だけで対処しきれなくなるだろう」
頬に手を着いて国王は深刻そうな表情をして言う。だが、最近になって魔界からやって来た魔物たちが力を蓄え、何らかの野望を企てているのではないか? という疑惑が浮上したようだ。
その調査と可能であれば魔王の復活を阻止してほしいとのことだ。……しかし、なぜ俺なんだ。 他にも強くて適任者はいると思うのだが――、
「一刻も早く魔王の厄災を阻止して魔族共をどうにかしなければいけませんね……」
「そういうことになる。だが、そなた一人に任せるつもりはない」
不安なヒロアキの疑問を見透かしたようにこう続ける。国王は意味深な言葉を残して立ち上がった。そして近くにいた魔法使いの一人に目で合図を送る。すると、その魔法使いが顔を隠しているフードを脱いだ。
現れた顔を見て、ヒロアキは驚愕する。それは見覚えのある顔だったからだ。まさかここで会うとは思いもしなかったが――、
「君は、メリア・リヴィエール」
「……どうも」
素っ気ない返事でメリアは軽く会釈して挨拶をした。ヒロアキが異世界を彷徨っている道中で遭遇した魔法使い。もとい、ツンツン少女である。
「すると……隣に立っているのは剣士の――レイナか」
「やっほー! ヒロアキ。ついさっきぶりだね。元気だった?」
相変わらず、彼女の口調は明るく元気一杯だ。思わずこっちも釣られて笑ってしまうような明るい性格をしている。しかし、彼女達はいつもと違う格好の正装をしていた為、気が付くのが遅れてしまった。
「なんと、おぬし達は知り合いであったのか。ならば話が早い」
三人の様子を見てジル国王が尋ねる。そういえば王様はまだ、レイナとメリアの関係性について知らなかったのか……そのことを思い出したヒロアキは説明することにした――、
クエストに向かう途中で彼女らと遭遇した経緯と俺が助けてもらったことも。そして俺が転生したことも、
「そうか、お主も苦労したのだな」
「はい……、俺は何者かの手によって別の世界からドラグニアへ転生させられて来たんです」
同情の言葉を王様はヒロアキにかけてくれた。彼女達とは偶然出会っただけと思っていたのだが、どうやら違うようだ。
この展開から察するに国王直々の頼みということだろうか?しかし何故、王家に仕えるはずの騎士団や討伐隊ではなく冒険者――しかも腕利きの魔術師を寄越してきたのか? そんな疑問を抱きつつも話は本題へ、
「魔王が封印された術の緩みを直す為、魔界へ赴く必要がある。ワシは事情があってこの場を離れることが出来ない。そこで、ヒロアキに頼みがある」
「俺にできることなら協力しますけど、冒険者に登録したばかりなので余り期待はしないでもらえると……」
自信の無い曇った表情でヒロアキが答えると国王は満足そうな笑みを浮かべた後……こう続けた。
「この者達と共に魔王討伐の旅に行ってもらいたい」
「御言葉ですが国王様。いやいやいやいやいや、無理ですってば! 俺なんかじゃ絶対無理ですって!!」
急用で呼ばれたからてっきり、プロ級の実力者である彼女らの後方支援役かお供かと思っていたのに。まさかのヒロアキが前線だって?無理に決まっている。ドラグニア世界の人なら余裕かもしれないが、日本からやってきた一般人が超人だらけのヤツらについて来れるワケないだろ。
「山賊を退治してみせたという力を見込んで頭を下げているというのに――貴様は、国王であるワシの顔に泥を塗るつもりか?」
「い、いいえ……その」
国王の眼光が鋭くなり、ヒロアキは背筋がゾクッとするような感覚に襲われた。凄まじい威圧感だ。ヒロアキは反射的に断りの言葉を口にしようとして口を開くも声が出てこない。圧倒的なプレッシャーを前にして言葉を発することができなかったのだ。すると見かねたレイナが、
「――お任せください。ジル陛下。ご期待に応え、必ずや暗黒の世界に光をもたらしてみせます。そのご依頼引き受けさせて下さい」
レイナは即答した。ヒロアキはその早さに目を白黒させていたが、国王は満足したのか不敵に笑みを浮かべるだけだった。
「うむ。では任せたぞ」
「承知いたしました」
すると国王の態度に変化があったのか威圧的な雰囲気が和らいできた気がした。ほっと胸を撫で下ろしていると国王が話を戻す――、
「もう一人、幼い半獣の仲間を外で待たせているのではないかな? 迎えに行ってあげなさい。……伝えたい要件は以上だ。連戦続きで疲れているだろう、客室をワシが用意させた。今日は休んでゆくといい」
「ありがとうございます」
「……ご厚意に感謝します。王様」
「あ、あざす」
国王からの計らいにより、客室で休むことになった。……しかし、なぜだろうか。 あの王様は……どこかヒロアキに対して強い警戒心を持っているようだった。
(いや、俺の考えすぎだよな……)
そんな疑問を抱きながらもヒロアキは広間を後にして待たせているリーフィアの元へ向かった。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
王様の大広間での謁見を終わらせた後、ヒロアキとリーフィアは王様の手下のローブを着た男に、用意された客室部屋へ案内された。
落ち着いた雰囲気の広い部屋で高級感あふれる内装が施されており、ふかふかなベッドが二つ用意されている。大の字になって寝転んでも十分すぎる広さだ。さすが王家のおもてなしといったところか、有り難い限りである。
今後どうするかを決めるために、みんな一箇所へ集まって話合うことになった。
「さて、みんな揃ったな」
他の者達を見渡してヒロアキは言った。レイナとメリアは木製の椅子に腰掛けており、リーフィアはベッドの上に座っていて、それぞれ思い思いの場所に座っている状態だ。
「こうして皆で集まって話たりするのは初めてだったよね!」
「……確かにそうね」
レイナが明るい調子で言うとメリアは頷く。……こうしてみると、意外にも性格が正反対な二人だな。そんな印象を受ける。
しかし時は一刻を争う。世界に破壊と滅亡をもたらす「厄災」を阻止して、魔王の復活を防がなければならないからだ。
「まず、これを見てくれ」
ヒロアキがテーブルの上に取り出したのは一枚の紙切れ。王家の刻印が記されており、王様から渡された本物の依頼書である。その内容を確認したほか三人の表情が変わり始める。
「まさか本当にジル王、直々に頼まれるなんて……」
驚いた様子でメリアが言った。猫人族のリーフィアも唖然としているようだ。それもそうだろう、小さな仕事からこなしてレベルアップする計画だったのに、異世界に転生させられて初の大仕事が世界の滅亡を阻止してくれだなんて――直接頼まれたヒロアキが一番に驚いているのだから、
「ルーキーランクの冒険者の俺に任せるにしては重すぎる仕事じゃねーかな。重い……重すぎる」
これは現実だ。夢ではないし、新手のドッキリでもない。ジル国王様、直々の依頼なのだ。断ることなどできるはずもないだろう。世界が滅びを迎えるか否かは少年、ミアケ・ヒロアキとその仲間達に託されたといっても過言ではない。
今夜にでも直ぐに魔王討伐の旅に出かけなくてはならず、出立の準備もいるだろう。
「これからどうするか――急に言われたんで何も準備してないぞ」
「その点に関しては問題ない。……こういった集団で活動する場合に備えて、装備品や旅をする為に必要な道中の食料は私が事前に揃えておいたわ」
用意周到だな。メリアは頭脳明晰で頭の回転が早く、上級の魔術にも長けている。流石は、プロの魔法使いといったところだろう。もうパーティーのリーダーは彼女でいいんじゃあないか? ヒロアキは感心すると同時に大事なモノを失いそうになった。
「おぉ、流石だな」
なにらや「当然よ」とでも言いたげな顔でそっぽを向くメリアだが、褒められてまんざらでもない様子である。その様子を見ていたレイナがクスッと笑った後、
懐から何枚かの紙を取り出すとテーブルの上に並べ始める。……それは各国の地名や大陸が描かれた旅に必要な、ドラグニアの世界地図だった。
「じゃじゃーん! 見てみて? あたしが事前に調べておいたんだ」
「助かるよ。ありがとうレイナ」
「えへへー、 どういたしましてっ!」
嬉しそうに笑うレイナを見て思わずドキッとしてしまうヒロアキ。少女のたわわな大きい胸が上下に揺れ動き、思わず視線がそちらにいってしまう。………可愛いなこの娘。
そんなことを考えていると、「ゴホンッ」と咳払いをするメリアの鋭い視線に気づき、慌てて視線を逸らすヒロアキだった。
「で、具体的には何をすればいいんだ?」
「皆さん、この地図に書かれている「ヘルクダール王国」というのはどうでしょうか? 距離的にこの場所から遠すぎないですし、情報を集めてからでも良いかと思います」
リーフィアが広げられた地図を指差して言った。ヘルクダール王国というのは、今いる場所の隣に位置する文学に特化した国らしい。
「でかした、リーフィア。まずはそこへ向かおう」
現在ヒロアキ達がいる王都、ドラグニア王国は大陸の中心に位置する大きな国だそうだ。ちなみに、この世界の地形は大きく分けて七つのエリアに分かれているらしい。
中央にある王都を中心にして、東西南北それぞれ一つずつ独立した国々がある。魔族達が振りまいている厄災の影響で各地の治安が悪化しているらしく、各国は警戒を強めているとのことだ。
「……私は別に構わないわ」
「学びの国、ヘルクダール王国か。そこに行けば何か情報を得られるかもしれないな」
「じゃあ準備万端ってことで。早速出発しよう!」
「え? 今から行くのか」
「そだよ。善は急げっていうし!」
どうして異世界人であるレイナが日本のことわざを知ってるのだろう。引っかかる部分もあったが、世界は厄災に蝕まれていて急がなくてはいけない為、気にしない事にした。
……しかし、本当に疲れたな。今日はゆっくり休もう。
そう思いベッドに横になった瞬間だった――。
突然、部屋の扉が勢いよく開いたかと思うと何者かが飛び込んでくる。 何事かと思い飛び起きるとそこには王様に仕えているローブ男の姿があった。男は息を切らしており、かなり慌てている様子であった。そして開口一番にこう言ったのだ。
「――来い、ミアケ・ヒロアキ。お前を陛下がお呼びだ」
「……は?」
「俺だけが呼ばれるって……どういう事っすか!?」
「いいから黙って来い。さもなくば逆らった罪でお前の首を切り落としてもかまわんのだぞ」
唐突な申し出に戸惑うヒロアキ。傍で見ていたレイナ達も驚いている様子だった。すると、その様子を見ていたメリアが口を開く、
「……怪しい。なにやら嫌な予感がするわね」
「マジか」
険しい顔つきでそう呟くとヒロアキの腕を引っ張った。そして耳元で囁くように言ったのだ。
「万が一に備えて『別の場所へワープさせる魔法』の術式を貴方へ組み込んだわ。一度しか効力は発揮しない。頭の中で思い描いた場所や人物の元へ飛ぶことが出来るの、いざという時は逃げなさい」
「ありがとう」
しかし、なぜ自分が呼ばれたのか?その理由が全く分からないまま広間へ再び向かうことになったのだ。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
開かれた扉の先、目の前には豪華な装飾が施された王座があり、その手前に置かれている椅子に腰掛けているジル・ドラグニア王の姿がある。周囲には数人の騎士達がおり、厳重に警備しているようだ。そんな中、ヒロアキは緊張した様子で立ち王様へ挨拶をして話を聞いた。
「なぜワシが貴様だけを呼び出したか分かるか? 心辺りがあるだろう。正直に言え」
「なんのことでしょう」
突然の問いかけに戸惑うヒロアキ。なんのことやら全く見当もつかないといった表情を浮かべていた。しかし、その態度を見た王様は苛立ちを隠せない様子だ。
「――ウソを吐いて白を切り通せば逃げられるだろう。そういう魂胆なのだな。……なんと汚い心の人間か。まぁよい、単刀直入に言おう」
「そんなつもりじゃ……」
そして、国王様は鋭い眼光で睨みつけると問い詰めるような口調で言ったのだ――、
「貴様。契約した猫人族の奴隷を連れ歩いていたではないか! この王国で奴隷は重罪というのは知っているな」
「いや、あれは……」
驚きのあまりヒロアキは言葉を失ってしまった。まさかあのギルドで揉めた際の出来事を見られていたとは……。
確かにあの時、冒険者は大勢いたし利用者の中に王直属の兵士が紛れており、見られていても不思議ではないのかもしれない。もしかしたら『レイナがかけてくれた、物質を透明化させる魔法の効果が切れてしまったのか』疑問を抱きながらも必死に言い訳を考えるが言葉が出てこない。
そんな様子を見ていた王様は再び口を開いた。
「見るがいい。何より、これが動かぬ証拠だ!!」
王様が勢いよく差し出したのはリーフィアに取り付けられていた鉄の首輪と鎖だった。
「どうして王様がそれを……」
「昼間、外で待機させていた臣下の者に『奴隷契約を強制解除させる魔法』をかけるよう命じておいた。よってあの半獣の小娘は、もう誰の所有物でも奴隷でもない――」
「リーフィアは解放されたんだろう。ならこの話は……」
本当であれば、もうリーフィアは縛られておらず、所有物ではないということになる。人に掛けられる魔法があるなら解除できる魔法もあるという考えに辿り着くのは当たり前だ。
契約は破棄されたという事で問題はないはず――。ヒロアキの『罪』自体も抹消される。だがしかし……その考えはすぐに打ち砕かれることとなったのだ。
玉座の肘置きを握り拳で強く叩くと、王様は恐ろしい眼光でヒロアキを睨みつけ、
「他国へ売りつける目的で、貴様が人間を拐ってきたのだろう?自分は転生されたなどと、記憶喪失のフリをしながら嘘を吐いて」
「違う!俺は困っていた彼女を悪いヤツから助けてあげただけ――」
すかさずヒロアキは慌てて否定し、弁明したのだが、信じてもらえなかったようだ。
その甘い少年の考えを打ち砕くように、ジル王は冷酷な口調で――、
「そういう問題ではない! やってはダメなことだから規則や法律というものがあるのだ。間違ったことを言っているか? それを貴様は破った。今は『違法』であり、許されない行為だ」
……確かにそうだ。この世界のルールや価値観は、ヒロアキのいた世界とは違うのだから仕方がないのかもしれない。
「それでも、俺のした行動すべてが間違っていたとは思えません」
「
「お言葉を返すようですが国王様……」
たぶん、悪いのは俺の方だ。それは十分にわかってる。しかし、大人しく引き下がるわけにはいかなかった。これ以上、リーフィアや仲間が侮辱されるのを黙っているわけにはいかない。
「――恐怖で他者を支配するやり方は奴隷を従えてる者と同じです。権力を振りかざす独裁政治では、いつか国は滅びますよ」
しばらく沈黙が続いた後、少年の言葉を聞いて周囲の騎士達は騒然とし始めた。中には剣を抜いて今にも襲いかかってきそうな者もいる。だが、王様だけは動じることなく静かにヒロアキを見据えて、
「話にならん。貴様のような
次の瞬間、王様の隣に立っていた騎士達が一斉に飛びかかってきたのだ!
咄嵯に回避しようとしたが間に合わず、四方八方から槍が飛んでくる。ヒロアキは、そのまま拘束されてしまった。
必死に抵抗を試みるもののビクともしない。万事休すかと諦めた時だった――、
「ヒロアキ。こっちだよ!」
「……早く来なさい」
「ご無事ですか、ごしゅじん様」
部屋の扉が勢いよく開いたかと思うと何者かが飛び込んでくる。
何事かと思い振り向くとそこには同じ客室にいたはずのメリア、リーフィア、レイナが助けに来てくれたようだ。 身バレ対策なのか全員がローブで姿や顔を覆っているという徹底ぶりである。
「巻き込んでしまって、ごめん」
「説明はあと! 無事に脱出できてからにしてちょうだい」
魔法で霧を撒いて周囲の視界を遮断するレイナ。敵がこちらの姿を見失ったその隙に、メリアはヒロアキの腕を掴むなり走り出した。
氷の弾丸を射出してガラス窓を割り、全員が外へに飛び出す。そのまま王城の外へと連れ出されると人気のない場所まで移動してきたのである。そこでようやく一息つくことができた。
「城内は混乱していて、私達の面はバレて無かったわね。男の貴方だけを除いては……。ここまで来れば大丈夫でしょう」
「ありがとうメリア。助かったよ」
「……別に、助けたつもりはないわ」
相変わらず素直じゃないなと思いつつもヒロアキは感謝の言葉を述べる。王城から少し離れた場所にいる。周囲には人影はなく静かなものだ。どうやら上手く撒くことができたらしい。だが油断はできないだろう。いつ追手が来るかわからない状況だ。一刻も早くこの場を離れなければ、
「反逆罪は重い罪に課せられるんだよ? 王様に逆らうなんて、ヒロアキってば以外と根性あるね!」
レイナは感心した様子で言ってきた。ヒロアキ自身でも意外だったかもしれない。しかし、あの時に感じた違和感だけはどうしても放っておけなかったのだ。あの場で反論せずに黙っていれば良かったのかもしれないが、後悔したくはない。
頭で考えるよりも先に身体が動いてしまった。そんな様子を見ていたメリアは溜息混じりに『やれやれ』と言った声が聞こえる。どうやら呆れられてしまったらしい。
「それ何のフォローにもなってないんですが、レイナさん……」
「何年も前にお会いした時のジル国王とは別人だったような気がしたような――気の所為かな?」
「レイナは何度も国王に会ったりしていたことがあるのか」
「う、うん。王宮の会議に同席させて貰ったこともあるし、何度か話したことはあるけど……。――少なくとも、私が知ってるジル国王は誠実で温厚な方だったんだけどなぁ」
ドラグニアや異世界の事に関して過去に何があって、国王がどんな人物だったのか、ヒロアキには何もわからない。
――が、レイナの話によるとほか二人も同様らしく、以前の人物像とだいぶ食い違っており、腑に落ちない様子だったのだ。確かに三人が違和感を覚えるのも無理はないだろう。
温和でだれにでも優しい王様だったらしい。
もしそうならば今までの行動と矛盾が生じることになるからだ。ならば一体どういうことなのか、考えれば考えるほど分からなくなってくる。
「モンスターに魔法で操られでもしたのかもしれません」
「……確かに、その可能性はあるわね。でも仮にそうだとしたら誰がそんなことを」
「なら、魔法の扱える他の誰かがいたとか。例えば側近の人……かなぁ」
「そんな人がいたら流石に気付くと思うのですが」
三人が話し合っている間もヒロアキは考え込んでいた。もし仮に何者かが国王を操っていたとしたら、それは誰なのか。そして目的とは――。
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