第一章11 『常識を超えた異能の力! 冥王眼《めいおうがん》』




 それから一時間後、俺達は採掘場に到着した。周囲を見渡すと地面から突き出た鉱石が大量に存在している光景が目に映る。どうやら目的の場所まで辿り着いたようだ。

パワーストーンと呼ばれるだけあってその輝きはとても美しく輝いていた。

 幸い、あの大爆発で鉱石ごと粉々になっているものかと思ったが、火力を制限してくれていたおかげでストーンがある場所は巻き込まれておらず、傷も無かった。


「ごしゅじん様、パワーストーンがこんなに沢山!  これで依頼人に届けてあげられますね」


「そうだな。メリアのお陰だ。……助かったよ、ありがとう」


「……どういたしまして。でも、まだ依頼は終わっていないわ」


「ああ、わかってる。持ってきた袋に素材を詰めて、さっさと王都へ帰ろうぜ」



 魔法使いメリアの手伝いもあって、難なく採掘したパワーストーンを袋に詰めるとヒロアキ達は帰路につくことにしたのだが、足音と共に無数の人影がこちらへ接近して

来る気配がした。

 採掘場で依頼を受けた冒険者はヒロアキ達以外にはいないはず、なぜならこれはメリアだけが持ってきたクエスト依頼だったからだ。では他にいるのは何者なのか!?


「そこにいるのは誰だ、姿を見せろ! 気をつけて、みんな。敵の罠かもしれねえ」


 武器を構えた数人の男達が、少年と少女を取り囲む。どうやら、俺達を襲撃する為に待ち伏せていたようだ。


「山賊。こんなところで……っ。どうやら私達は跡をつけられていたようね」


「――大人しくそのアイテムを渡してもらおう。そうすれば命だけは取らないでやる」


 がっしりとした体格の男はヒロアキの前へ仁王立ちすると、腰に下げているサーベルを手に構えて威嚇するようにヒロアキ達を睨みつけてきた。


「確か、山賊の首領リカルダ。強盗殺人の罪で捕まっていたはずの凶悪犯がどうしてこんな所に……」


「きょ、凶悪犯!?」


 ヒロアキは驚愕の声を上げた。どうやら、あの大男は恐ろしい犯罪者らしい。余計な戦いを避ける為にも話し合いで解決したいが……そう上手くいくとは思えねぇ。相手は刃物を握っている危険な存在だ。


「ごしゅじん様……」


 不安げな表情を浮かべながら、リーフィアは俺の袖を掴むと、潤んだ瞳で見つめてきた。そんな目で見つめられたら、逃げるなんて選択肢は選べないじゃないか。


「大丈夫。俺が着いているから心配すんな!」


 俺達は山賊に気づかれないようにゆっくりと後退して、隙を見て逃げ出すことにしたのだが後方にも手下の山賊がいて身動きがとれない。


「状況は三対十。……数ではこちらが不利だが、この程度の相手ならば問題ないだろう。二人、下がってなさい」


 小声でメリアは二人に囁く。ここは彼女に任せるしかないようだな。盗賊達は頭に、三角形の中央に目を配したデザインのバンダナを被っており、その目には既に理性が失われているように見えた。こちらを取り囲む集団の中の男が口を開いて、


「先日、村の化け物を退治したヤツの一人に、大魔法使いがいたってウワサを耳にしたが――『冥王眼めいおうがん使いのメリア』なら納得だ」


「……あら、ご存知なんて光栄ね」


「この世界じゃ、魔術師に精通した者はみんな知っている。……魔術の才と圧倒的な実力で数多の敵を葬った一騎当千」


「――めい……おう。……あのやろう、一体なんの話をしているんだ?」


 ヒロアキは異世界に来たばかりで、少女が名の通った有名な魔法使いであることを知らなかった。何のことを指しているのか全く検討もつかない。メリアの通り名なのだろうか、その言葉の意味と正体が解る時は直ぐ……やってきた。


 山賊の親玉、リカルダと呼ばれる大男の隣にいる別の手下がニヤリと笑うと不敵な笑みを浮かべる。その途端、ヒロアキの背筋に寒気が走った。この感覚は……まさか!

刃渡り何十センチはあるだろう、長刀を手にした敵の男が背後からリーフィアへ振り下ろす。


「あ、危ない!リーフィア」


 ヒロアキはリーフィアを庇うようにして抱き寄せ、間一髪のところで少女を守った。


「……チッ。ガキを仕留めそこねた」


 リーフィアは突然の事に戸惑いを見せたが、すぐに状況を把握したのかヒロアキのシャツを掴みながら固唾を飲んで見守っていた。山賊達が手にしている武器には殺傷能力の高いモノが握られている。


「大丈夫……リーフィア、ケガはしてないか」


「ありがとうございます。ごしゅじん様……」


 不安げな表情をしているリーフィアを心配するヒロアキ。そんな二人を見て、盗賊リカルダはなめずりして、薄気味悪い笑みを浮かべると、


「一匹、ガキを連れているそこの男。……てめぇ、あの魔女の仲間だってのに互いの情報も知らず一緒にいたのか?よほど信用がないとみえるぜ」

「な、何が言いたい!」


 核心をついた山賊の言葉にヒロアキは、つい口がどもってしまう。なぜなら本当に魔法使いからは文字通り、信用されて無いからだ。


「信頼や連携の取れていないチームほど壊れやすく脆いモンはねぇ……。政治、スポーツ、職場。それは、どの分野にも言える。つまり、今のてめぇらを嬲り殺すのは容易いということだ」


 合図をリカルダがした瞬間、後ろにいた部下の男達が一斉に動き出す。その動きに迷いは無く、訓練された軍隊のような洗練された動きだった。四方から迫る盗賊達に対してヒロアキとリーフィアは身構える。

 一方、メリアは余裕な表情を浮かべている。まるでこの展開を予想していたかのように反撃――、


「う……ぐ」


「魔法使いは遠距離型の攻撃が得意なんじゃ……近距離攻撃が出来るハズが――」


「が、は……っ」


 目にも留まらぬ速さで敵の間合いへ移動してみせると、手刀や回し蹴りを繰り出して次々と手下の山賊を倒していく。洗練されたメリアの華麗な動きに盗賊達は翻弄されていた。


「冥王眼の使い手。ほう、ついに拝めるとはな」


「……そちらから先に手を出した以上、覚悟は出来ているんでしょうね」


 風で乱れた長い髪を片手で整え顔を上げる魔法使いの少女。目をカッと見開き、山賊達を鋭い眼光で睨み付けるとその威圧感に山賊の手下達はたじろいだ。


「なんだアレは……。メリアの眼の色が。か、変わった――!?」


 メリアの両眼が、本来の綺麗なブルーの瞳から黄金色に変わって輝いて見える。ヒロアキは、その神秘的な瞳に目が離せなかった。


「その黄金の瞳。……そこの魔女。てめぇ、もしや、伝説の大魔法使いリヴィエールの血を引く魔術師か」


「……いかにも。――『冥王眼めいおうがん』それは、スキルや魔法とは異なる特殊な力。冥王眼はスピード、パワー、発動した者の身体能力を引き出し、極限以上に向上させることができる。私はその使い手だ」


「まさか魔法以外にもそんな力が……。メリアに……」


「あの小娘、どうやらハッタリではないらしいな。――その使い手は火・水・闇・光・風・雷の六属性の魔術すべてを扱うことが可能になるという。冥王眼めいおうがんは、冒険者のランクやLvを上げただけでは、取得することはできない。特別な種族の血を引く、伝承者のみに扱うことが許された秘術だ」


 サラマンダーを倒した時は、ダダ者ではないと思ってはいたが……彼女はその時の三分の一の実力も出していなかったなんて……。


「メリア。お前、そんなスゴい力を今まで隠し持っていたのか!?」


 ヒロアキは少女の話を聞いて、驚愕した。

 冥王眼めいおうがんという瞳に宿る能力、魔法とはまったく異なる力が存在するなんて……。

 しかし、その力を今まで隠し通してきたということは何か深い理由があるのだろうか――。


 山賊達の方へメリアは向き直ると杖を構える。敵の集団の中でボス格であろうリカルダが口を開く、


「――冥王眼めいおうがんを宿した者は他にも、隠された能力が付与されているそうだ。それこそが最も恐ろしい力だというウワサをきいたことがある」


「――――」


 気の抜けない、重苦しい空気。初めて体験する人間同士の戦場、命の取り合いにヒロアキは圧倒されている。リカルダが手下の山賊達に号令をかけると、手下の男達は再び武器を手に取りメリアに攻撃を仕掛けてきた。


 だが、盗賊達の攻撃はことごとくかわされてしまう。その素早さはまるで獲物を狙う獰猛な肉食動物のようだ。


「くそ……っ!なんでサーベル刃が掠りもしねぇ。格闘術が出来る魔術師なんてきいたことないぞ」


 真の力を覚醒させたメリアに、取り囲む山賊達は次々となぎ倒されてゆく。その格闘術はまるで舞っているかのように美しく、そして動きに無駄がない。まさに圧巻の光景だった。


「……舐められたものね。現代の魔術師が「魔法」しか扱えないとでも思ったのかしら、価値観のアップデートをしたほうがいいわよ」


 深いため息をつくと、鋭い視線を敵へ向ける。山賊達の攻撃を全てかわし、手首と肘のスナップを使っての裏拳。連続した蹴りで反撃してみせると、 ほぼ無傷で取り囲むすべての手下を倒してみせた。


「メリア。す……すげぇー」


 頭脳明晰で頭の回転が早く、その理知的な振る舞い。

 あれだけ激しい戦いを繰り広げながら、相手を煽り返すだけのメリアの高い戦闘センスに翻弄される山賊達。

 大人数で徒党を組んでもメリアにはまるで歯が立たないようだった。


「――ったく。情けない奴らだ」


 いつまで経っても、たったザコ三匹を殺せない手下の山賊達に痺れを切らした棟梁のリカルダが前へ出る。


※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


 山賊の棟梁、リカルダは魔法少女の前に仁王立ちすると不敵な笑みを浮かべた。その威圧感にヒロアキとリーフィアは恐れおののく。

 この大男、部下を束ねているだけあって只者じゃない。メリアもそれを肌で感じ取ったのか警戒している様子だった。

そして――、


「ここまで接近すりゃ、飛び道具の魔術も自慢の蹴りもできないだろ?調子に乗るなよクソガキ」


 猛スピードで間合いを詰めて突進するとメリアが魔法を発動する前にリカルダは、サーベルを素早く振り下ろす。

 しかし、その攻撃は空を切った。メリアは回避行動を続けたまま移動し続けて、攻撃が当たるかどうか一歩手前まで間隔を空けて相手と距離を保つ。


「……残念、惜しかったわね」


「そいつはどうかな――」


 ヤツの狙いはサーベルに注意を向けさせる事だった。

 長身から繰り出されるリカルダ渾身の蹴りが少女の腹部へヒットする。


 衝撃によって、小さな体は後方に吹き飛ばされるが……  受け身をとって上手く体勢を立て直すと、何事もなかったかのように無表情で立っていた。

 あの巨体から繰り出された蹴りをまともに食らったにも関わらず、ダメージはあまり無いようだ。


「フェイントをかけて一発ダウンを取ったつもり?……もし、これで全力だとしたら賊の程度が知れるわ」


「―――っ」


 攻撃に転じようとした棟梁のリカルダだったが身体に電撃が走る。立ち眩みのように視界が歪んだと同時に鼻血が滴り落ちたのに気が付く。


「……鼻血。なんだと、攻撃されたのか?」


 ……どうやらメリアはギリギリ攻撃をかわしていたようで、攻撃をかわして出来た隙を狙って魔法を詠唱。氷の飛礫つぶてを飛ばしてヤツを攻撃した!


「何をされたのか、ようやく気が付いたようね。遅かったじゃない。けれど命の駆け引きで、その数秒が致命傷に繋がることもあるのよ」


 一方、メリアは顔色一つ変えず涼しげな表情を浮かべて挑発している。『あの小娘、わざと攻撃を受けてカウンターを狙っていたというのか。蹴りを入れられるあの限られた時間でそこまで計算しての反撃。……なんて女だ。魔法も格闘術も達人の域に達していやがる――!』


 たかが、ガキと思っていた人物はリカルダの想像していた以上に高レベルな実力を備えていたことに気が付いた。


「……つまらないわ。もう終わりなの」


「――撤回しよう。てめぇを侮っていた」


 自身の影を媒介にしてリカルダは人のカタチをしている黒い分身を出現させた。


「……これは、影分身を作り出す魔法。賊風情が魔法を使えたなんて驚いたわ」


 それぞれの分身が、別々の動きをしながらメリアに襲いかかるが、彼女は顔色一つ変えずに、 難なく攻撃をかわしてみせた。その動きは流れるようにスムーズで無駄がない。

 大量の分身が邪魔をしてリカルダの位置を見失ってしまう。


「おいおい、どうした?オレはまだ半分しかパワーを出してねぇぞ」


「――――っ!?」


 敵の声がする方向を察知した途端、拳の強烈な一撃がメリアを襲う。右ストレートは少女の腹部へ命中。鈍い音が響き、それと同時に彼女の身体がくの字に曲がる。


「クリティカルヒットぉ!急所をもろにくらっちゃあ、てめぇも耐えられまい……」


 勢いをつけた突進に体重の負荷を乗せ、魔力を込めたリカルダの拳は岩壁を粉砕するほどの威力でメリアのからだが耐え切れず後方へと吹き飛んでしまった。


「く……っ」


「――魔力の源である『レノ』を身体の一点に集めることで技の威力を増幅させることもできる。こんな風になァ」


 ゴロゴロと転がって行くメリアを見て、ヒロアキとリーフィアは思わず目を覆った。

 青ざめた表情でその光景を眺めていると、メリアがゆっくりと立ち上がる。


「やはり、この程度か……」


「その衝撃波は全身へ伝わる。骨の六本は砕けて動けんはず――」


 わざと感情を逆撫でる挑発的なセリフで相手の先制を誘ったメリアは、攻撃の動作を見てから密かに魔力を練り始めていた。

 どの箇所へ拳を繰り出してくるのかを予測し、その裏で魔力で生成した盾を仕込んで、リカルダの攻撃するタイミングに合わせて魔法で防御していたというわけだ。


「……遅いわね。そんなスローな動きで魔術師の目を欺けるとでも思ったのかしら」


「衝撃を盾を使って分散させ、致命傷を避けたってことか。このメスガキ、小賢しい真似をしやがる!」


 再び、大量の分身がメリアへ向かって迫ってくる。リカルダの分身の数は十体以上だったが、彼女は恐れる素振りさえ見せないでいる。……どうするつもりなんだ!?

 ヒロアキは固唾を飲んで見守っていたが、次の瞬間。メリアは目にも留まらぬスピードで本体の敵へ向かっていった。

 分身の猛攻を掻い潜ると、すれ違いざまに短剣を振り下ろす。リカルダが反撃しようと振り返るも遅く、強烈な斬撃が炸裂。

 一撃を食らったリカルダは膝から崩れ落ちる。剣についた血をメリアは振り払うと、ヒロアキ達の元へ戻ってきた。


 その圧倒的な力の差を見せつけられた手下の山賊達はすでに戦意を喪失していた。

 ……この少女には勝てない。そう悟ったのだ。


「勝負は……まだ終わってない。図に乗ってんじゃあねぇぞガキ共がァ!」


 召喚した数十体の分身を使って攻撃すればいいのに、何故かリカルダは、分身の魔法をすべて解除する。

 立ち上がったリカルダは別の物体へ視線を向け「まさか……」ヒロアキの嫌な予感はサイアクの形で的中することとなる。


 勝てないと悟ったリカルダは対象を魔法使いの少女から変更する。それはリーフィアだった。

 移動するスピードの加速効果を付与する魔法を両の足に纏ったリカルダは怒号を上げながら、幼女の方へ突進していく。気が付いたメリアも同時に走り出したが一足遅く間に合わない。


 このままだと、何倍も体格差のあるリーフィアがヤツの一撃を食らったら殺されてしまう。その結果は誰の目から見ても確実だ。ヒロアキは、その光景がイメージして血の気が引いていくのを感じた。「やばい、助けないと」だが、足がすくんで動けない。


 おぞましい殺気に満ちた双眸に睨まれた瞬間、動けなくなってしまう。まるで蛇に睨まれた蛙のようだ。自分がなんとも情けない「このままじゃリーフィアが……」ガクガクと恐怖で震える足に力を入れる。

 何もできない自分に絶望するヒロアキ。けれど、近くにいてリーフィアを守ってあげられるのは自分しかいない。もう打つ手が無いと思われたその時だった――、


「ま、間に合え――!」


両手を広げてヒロアキは、山賊リカルダの前に立ち塞がる。ドンという破裂音に似た音が響く。


「ごしゅ……じん様。ち、血が……」


 パンチを食らってヒロアキの額からは真っ赤な鮮血が流れる。


「小僧、なぜ庇う。一人で逃げ出していれば、痛い思いをしないでいいものを。……勇気と無謀の意味をはき違えてやがんじゃねえのか?常識で考えろ」


「押し付けんなよ。――自分で選んだ未来みちに後悔したくねぇ!」


 元々、コミュ障だったからうまくは言えない。

 ほんのちょっと踏み出すだけ、その半歩の勇気ある行動で絶望的な場面もひっくり返すことがあるのだと、悪い結果や未来は自分で選んで変えることが出来るんだとヒロアキは言いたかった。

 正直……血は出てるし、ものすごく痛い。だが、そんな痛みを気にしている暇はない。ヒロアキは真っ直ぐとした目でリカルダと対峙する。

 しかし、相手は武器を持っているのに対し自分は丸腰だ。


 最悪な事態を回避し、間一髪の所でリーフィアは守られた。


 筋肉質な太い腕から繰り出される強烈な一撃に、殴られる直前の意識がぶっ飛ぶほどの威力だった。腰や両足で踏ん張り気合いで耐える……。だが、リーフィアの方を見ると彼女には傷一切付いてないのが見えた。よかった……これでもう大丈夫……だ――。 途切れそうになる意識の中、ヒロアキは失わないように耐えた。後ろからリーフィアの呼ぶ声が耳に残る。


 その数秒が反撃の時間を稼いだ。少年に気を取られたリカルダは背後からの攻撃に気が付かない。

 強烈なメリアの回し蹴りがリカルダの顔面に炸裂!


 無防備な状態でくらった一撃は絶大な破壊力で、脳を揺さぶる。そしてメリアの攻撃はまだ終わらない。賊の正面へ移動し、懐へ潜り込むと、続けて拳のラッシュを繰り出す。


「………っ」


 殴打による拳の連続の嵐。あまりの超反応にリカルダは為す術無く、ただサンドバッグに成り下がっているだけだった。

 重い一撃。まるで鉄球で殴られているかのような衝撃がリカルダを襲う。そして最後の一撃が腹部へ直撃すると、棟梁リカルダはそのまま片膝を着いて地面に倒れこんだ。


「わかったでしょう? 勝負はついたわ。これ以上の抵抗はやめて大人しく立ち去りなさい」


「うるせぇ、いいから殺せ。賊の長として恥を晒して生き続けるつもりはねぇ……」


「ダメージを与えるだけで十分よ。どう決めるかは勝者が決める。それに、動けない相手の命まで奪ったりするほど落ちてはないわ」


 舌打ちをリカルダはすると、しばらく黙り込んでしまった。そして山賊たちに攻撃の意思が無いことを確認するとメリアは仲間たちのいる場所へ歩き出す。


「何故……とどめを刺さねぇ。何が望みだ」


「一つ聞きたい、私たちを襲った目的は? どうして、なにをしたかったの」


 メリアは振り返り、鋭い目つきでリカルダを睨む。その金色に輝く瞳には、強い憎悪や怒りを宿しているようにヒロアキは感じた。

 彼女は油断した素振りを見せていない。いつでも動けるように警戒心を強めている。その姿に観念したのか、リカルダはゆっくりと口を開くとゆっくりと語り始めた。

まるで自分の罪を自白するかのように――、


「大罪で牢屋に捕まっていた時に、オレ達の脱獄を支援してくれるという男がいた。そいつに言われたんだ「黄金の眼を持つ魔法使いを襲え。そうすれば自由の身にしてやる」……ってな」


「その謎の男から冥王眼めいおうがんのことについて教えて貰ったのか」


「あぁ、そうだ。この辺りで有名な冒険者の噂は聞いていたからな」


 不意を突いて反撃しようとしてやるようにも、リカルダが嘘を言っているようには見えない。


「……それで?  私たちを襲った理由はわかったけれど、脱走を手引きした男は何者なの。名前や容姿は」


「それはわからない。が、男は妙なことを話していたよ。――我らの名は『武天魔アマネセル』世界を破壊し、天を司る者だとね」


「メリアさん。もしかして何かの団体名でしょうか。我ら、ということは他にもいるのかもしれません」


 山賊の話を聞いたリーフィアは、険しい顔つきで考え始める。そんな緊迫した状況下でメリアが口を開いて、


「……この写真に写っている男に見覚えはないかしら」


 懐からメリアは一枚の写真を取り出し、山賊に見せる。その写真には長身で白髪の若い青年が写っていた。

 リカルダはその写真をジッと見つめると、目を見開き驚愕する。そして絞り出すような声を上げた。


「こいつだ、間違いねぇ。この男の命令でお前らを襲ったんだ。――そして、戦っている時のお前と同じ黄金の瞳をしていた」


「……そう。もういいわ」


 満足したようでメリアは懐に写真をしまう。異世界の住人ではないヒロアキには、何のことについて話しているのかちんぷんかんぷんで全くわからない。


「なぁ、メリア。教えてくれよ。その写真に写ってた人物と何がどうなんだ。メリアのご家族なの?それとも知ってる人?山賊にいったい何について質問してたんだ」


 少年の質問に対してメリアは「……他人に語りたくはなかったのだけれど、仕方ないわね」と口にして、少し考えた後こう答えた。



「――私の仲間を殺した武装組織『アマネセル』に復讐する為に、ヤツらの行方を追いながら冒険者をやっていた」


 初めて彼女と出会った時、昔に世界を渡り歩いて各地を旅していたと聞いたことがあった。つい最近になって王都へ戻ってきたという。


「要するに殺された人の仇討ちってことか……」


 普段のクールな表情からは、メリアがどんな感情を抱いているのか言葉だけでは読み取ることはできない。それは一体どれくらい辛いことなのだろうか。その怒りや苦しみは誰にも計り知れない、



 ――少女の戦う理由を知ったヒロアキは驚きを隠せないでいた。


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