第一章3 『転生された異世界の名は、ドラグニア』
「名前はたしか……ヒロアキ、だったかな。君が僕たちのグループに加入してくれて助かったよ」
「こちらこそ、恩に着る」
ブロンズランクの冒険者の四人組に誘われて一時的に仲間に加えてもらったヒロアキは、共にクエストへ参加させてもらえることになった。
冒険者たちが依頼されたという「クエスト」の内容は以下の通りだ。
どうやら村のおじいさんからダンジョンの洞窟へ行って風邪に効く薬草を取ってきて欲しいといった内容のものであるらしい。
「なあ、ダンジョンへ向かう前にこの世界のことについて教えてくれないか?」
「私たちのお願いを引き受けてくれたものね。わかったわ」
魔法使いのお姉さんの話を纏めると、
この異世界の名前は『ドラグニア』かつて大昔に、巨大な竜が起こした戦争からそう呼ばれたらしい。
そして、この異世界には魔法が存在するらしい……ドラグニアにある世界樹と、その樹きから発生する『レノ』と呼ばれる空気中には見えないこの世界独自の、元素に含まれるエネルギーを使用する事によって、詠唱を唱えると魔法という非科学的な異能な力が使えるようになるという事を教えてもらった。
数ある各国の王が統べる国の中で俺がいるのは、
王都エリクト王国という場所だ。
リーダー格のアッシュが俺に話しかけてきて、
「もし、ヒロアキが僕たちに協力してくれたら依頼された報酬の1/3を君に渡すことを約束するよ」
「マジでか! 金欠でどうしようかと思っていたところだ」
ヒロアキの声を聞き逃さなかったアッシュは、にやり顔をしながら答える。
魔法が存在していること、この世界のことを教えてもらう代わりにダンジョンへ行く間の護衛を頼まれることになった。
この世界にはレベルという概念がありレベルが上がると身体能力が向上し、ステータスも上昇していくらしい。
そのことから冒険者たちは自分の実力にあったクエストを受け、日々の生活を送っているそうだ。
また魔物や魔獣と呼ばれる生物が存在するらしく、それらは人間を襲うために人里へ降りてきているようだ。
冒険者たちはそれら魔物や魔獣を狩って生計を立てているらしく、生活していくのは大変だがそれ以上の見返りがあるらしい。なので冒険者たちは日々命を懸けて戦っているそうだ。
ふと、疑問を抱いた回復術師の少女がヒロアキにとあることを尋ねる、
「ヒロアキさんは、どうして王都に?何かご用事でしょうか」
「異世界召喚って知ってる? 誰だか知らないけれど突然、何者かに転生させられちゃってさ。意識を失って、気づいたらここに来ていたってわけ」
四人の冒険者たちは俺の言っている事がなんなのか理解できてない様子で、お互いの顔を見合っている。
まあ突然、異世界に転生させられたとか変なことを言っている奴が居たら無理もないだろう。
冒険者たちが困っている様子だったのでヒロアキはクエストの内容を聞いてみることにした。ダンジョンでの依頼内容は薬草の採取らしく、今いる場所も森の近くにある洞窟らしいが魔物の群れがいて近づくことができないそうだ。
「あなたがどこの誰であろうと私は気にしないわ。せっかく彼が協力してくれるって言ってくれてるもの、喜んで歓迎するわよ」
「そうですね、戦力は多いに越したことはないでしょうし」
四人組の冒険者たちは依頼された薬草を採取しに行くため、一人でぽつんとしているヒロアキへ声を掛けたという経緯だった。
魔法使いのお姉さんと弓使いの男は好意的に出迎え、ヒロアキを歓迎してくれている。
「ヒロアキは何かスキルを習得していたりはしているのか?」
「いいや、冒険者登録をした時ステータスの一覧には何も表示されてなかった。使えるのかどうかも俺にはさっぱり分からなくて」
「スキルについてはレベルが上昇すればいずれ開放されるだろうから心配要らないよ。君は初心者だ、後ろから援護してくれるだけで十分だよ」
アッシュがそう答えると、ヒロアキはパーティとしてついて行くことに決めた。なんという器の広い冒険者たちだろうか、こういうのを冒険者の手本にしたい。
この世界で生きていくために冒険者になったはいいが、一人で魔物の群れの中に突っ込むのはさすがに勇気がいるし、この四人組の冒険者たちなら信用できそうだと思ったからだ。それに金欠で困っていたところなので、クエスト報酬をもらえるというのだから断る理由もない。
「ふふっ、初心者の坊やさん。かわいいわね。そんなに緊張しなくてもいいのよー?お姉さんが手とり足取り教えてあげるから」
「え…ええ、じゃあ今度時間がある時に是非お願いします」
魔法使いの女性はヒロアキの事を気に入ったようで、 いやらしい手つきで手とり足取り教えてあ・げ・る。と言い寄ってきた。
美人なお姉さんにスキンシップをされてドキマギするヒロアキだったが、豊満な胸の谷間が視界に入ってしまい目を奪われてしまう。
そんな他愛のないやり取りも交えつつも、こうしてヒロアキは異世界で最初に出会った人たちと共に森の奥にある洞窟へと向かうことにしたのだった。
道中、辺りを見渡すと草原にLv4の一角うさぎの群れが現れた。
即座に剣を抜き構えるアッシュ。魔法使いの女性は片手を突き出し呪文のようなものを唱える。
すると小さな火の玉が出現し、群れの中に潜む一角うさぎの一体へと命中して倒した。重ねて弓使いの男が矢を射る追撃、尖った矢の先端に付けられた鏃が二体目の敵へヒット!
「――今のが魔法か」
はじめて見る光景にヒロアキは驚く。ゲームやアニメなどで観たことのある動きだったから分かるのだが、これが異世界なのかと感心する。
生き残った一角うさぎたちは慌てふためき、一目散に駆け出し逃げて行った。
魔法使いが打ち出した魔術のそれは、ゲームやアニメで何回も見ていた光景、それが実際にこの目でこうして見れる日が来ようとは……発生した時の効果音、放出されたエネルギーが弾ける瞬間その全てがゲーム以上にリアルだった。ファンタジーでしかなかった初めての現象に感動した。
息の合った連携に下から二番目のブロンズプレートの冒険者と言えど、かなりの実力者の持ち主であることがわかる。
おそらく長い時間一緒に活動してきた間柄だろうか。お互いを信頼して背中を預けている様子だった。
「異世界の戦闘マジすげえ……アニメで見たことある場面そのまんまだ」
「ヒロアキに覚えておいてほしい。冒険者になってすぐの初心者がよくやりがちなのは魔力のエネルギー残量を確認せず使ってしまうことだ」
「そうなのか?」
世界樹から発生する『レノ』と呼ばれる空気中には見えないこの世界独自の、元素に含まれるエネルギーを使用する事によって、魔法を使用することが可能になる。
当然、魔力は無尽蔵に使える訳ではなく現在の冒険者ランクや使用者のLvに応じて魔法を使える回数が異なるのだ。
Lvが高く冒険者のランクが上がって高ければ高いほど、それに比例して高威力の上位魔法での攻撃やサポートする補助の魔法が開放される仕組みになっているらしい。
「プラチナプレートよりさらに上の道を極めた冒険者は神の人。
「目標はプラチナランクで、それよりも上位に到達することが冒険者たちの最大の目的ってワケか」
「御名答」
あざやなチームプレイに俺は見惚れていると木の枝か何かで切ってしまったのだろうか……足首の辺りが少し出血していた。
「痛てッ……気がつかなかった」
「ヒロアキさん、待ってください。感染症などにかかってしまうと大変なので、私の
傷口の近くへ回復術師の少女は掌をかざすと、光る緑色の粒子が周囲に浮かぶ。それは痛みなどはなくむしろ、温かささえ感じた。
「――もう動いて大丈夫ですよ」
「なんだこれ、傷口があっという間に塞がったぞ」
怪我と言うには大した傷ではなかったのだが――
傷を治療する時っていうのは消毒液を使って傷口を絆創膏で塞ぐくらいの手順が必要なものだと思ってた。
これは日本での治療での一般的な仕方。だが、ここは異世界ドラグニア。日本での技術や常識は超えて……もはやヒロアキにとって超常現象の域、傷口はものの数秒で治ってしまった。
しばらく歩いていると、草原から少し外れた場所に洞窟が見えてきた。この薄暗い洞窟はダンジョンの入口へ繋がっており、そこでクエストを達成するための薬草を採取するのが目的だ。
中へ入ると、ひんやりとした空気に包まれ薄暗くて視界が悪い。
アッシュの話では、ここは地下迷宮と呼ばれる場所であり、地上にある森とはまた違った雰囲気があるそうだ。
魔物も生息しており危険なので注意が必要だという。
「……」
隊のリーダーはポーチから一本のロウソクを取り出すと、魔法を使って人差し指から小さな火を出現させるとロウに火を灯して明かりの代わりになる道具を作った。
そこは大きく岩が削り取られ通路のようになっている。地下迷宮への入り口だ。ヒロアキたちが歩むたび、それはミシミシと音を立てており今にも崩落しそうな雰囲気を出している。
これはまずいと思ったアッシュは先頭に立ちながら道の先にある空洞へと先導し進んでいくと――そこには薬草が生えていた。
洞窟、ダンジョンにしてはヤケに静かに感じる。ロールプレイングゲームだったら一角獣とか吸血コウモリが襲いかかってくるイベントが発生するタイミングじゃないか、
「皆さん、お目当ての薬草がありましたよ」
収集クエストにしては簡単すぎる。まるで初心者ステージ。魔物や動物の気配すら感じない、ヒロアキだけが異様な何かズレの違和感を感じていた。
どうやらここが目的の場所のようだ。
冒険者たちは採取した薬草を袋に詰めて、それを俺が背負っていたリュックサックの中に入れる。
「ちょろいな。思っていたよりも案外かんたんじゃないか」
「油断しないで!」
松明を持ったアッシュが歩みを止める。
どうやら魔物と遭遇したようだ。岩陰から現れたのは狼、ダークウルフの群れだ。だがその数は五匹もいる。
アッシュは剣を抜き戦闘態勢に入った、他の三人もそれぞれ武器を構えて戦闘に備える。
俺も何か手伝えることはないかと思い、行動へ移してみるも四人の冒険者の動きについていくだけでもやっとだった。その時、ヒロアキはうっかり仕掛けられていたトラップを踏んでしまう。
「……きゃーーっ!」
暗いダンジョン内に回復術師の女性の叫ぶ声が響いた。
先にロウソクを持って先行していたリーダー格の剣士の男性が叫び声に反応して振り返るとそこには言葉に出来ない光景があった。
黒い頭をした狼の姿をした魔物が群れを成して集団で現れ、鋭い眼光でターゲットに狙いを定めると、最後の列にいた回復術師の女性目掛けて一斉に襲いかかってくる。
「だ、誰か助けて!」
「………。 グガガガガガーーーーッ!!」
耳の鼓膜が裂けるほどの、この世の生物とは思えない様なゲームでしか聞いた事のなかった魔物の雄叫びが空気を震わせながら鳴り響く。
その瞬間、刃物の様に尖った恐ろしい狼の牙が回復術師の女性の肩や腕、背中へ向かって噛みつく。
ダンジョンの奥地だというのにヒロアキが感じた違和感の正体、冒険者達がいともたやすく侵入出来た訳、それこそが罠だった。
狼の魔物たちは四人の冒険者よりもLvが一段階も差があった。知能が高い生き物で、数百メートルも離れているヒロアキと冒険者の一団や、人間たちのニオイや音で感知し、トラップを仕掛けていたのだ。
「仲間を離せーー!」
襲いかかる魔物に向かってアッシュは飛び蹴りを喰らわす。他の三人は弓や魔術で応戦しているものの、狼の俊敏な動きに手も足も出ずにいた。
肝心のヒロアキはというと……何も出来ずに立ちすくむだけ。
「ぐ……が、助けて」
襲われた少女から血しぶきが飛び、片方の肩から下は切り落とされて無くなっている。
すぐ弓使いの男が彼女を救出しようと武器を構えた時には、既に回復術師は息絶え絶命していた。
状況は最悪だ。すでに服は切り裂かれており、腕や足には噛み傷があり血が滴り落ちている。このままでは全滅してしまうだろう。
「そ、そんな」
日本にも生息しているカラスという生き物は頭が良いため一度見た人間の顔を覚えていると言うが、それと同じ様に過去に何人もの冒険者たちがダンジョンを訪れていたため人間がどういった種族なのかを理解し、ニオイや足音を脳内に記憶して狼の魔物はそれらを正確に覚えていた。回復術師を一番に狙ったのも、与えたダメージを回復されないようにするためだった。
「お、おい!みんな!しっかりしろ。正気を、意識を保たないと全員死ぬことになる」
「い……イヤ、回復術師ちゃんが………。なんでなの?、何でこんなことにならなくなるちゃいけないのよ」
「残念だけど置いて行くしかない……来た道を戻って引き返しましょう。急いで下さい!」
絶対絶命の状況下。
悲しんでいる暇は彼らにはない、次は自分達が恐ろしい牙の手に掛かって殺されてしまうからだ。
目も背けたくなるほど無惨と化した回復術師の女性の残骸に狼の魔物が気を取られているわずかな隙に、ヒロアキと生き残った三人の冒険者たちは死にものぐるいで暗いダンジョン内を走って引き返した。
ヒロアキ少年は恐怖した。
ファンタジー小説やゲームでしか見たことのない出来事が本当に目の前で起こっているという確かな現実。これはフィクション作品やゲームなんかじゃない! 現実なんだ、しっかりしろ。そう俺は自分に言い聞かせるように押し潰されそうな気持ちを抑えて心の中で叫んだ。
今まで生きてきた人生で味わったことのない、圧倒的な恐怖に震えが止まらない。
「ちくしょう!何でいつも俺の人生は空回りで逆のことばっかり起きるんだよ!良いことなんてない」
結婚して家族を持ったり、まだやり残したことがたくさんある。
死にたくない、死にたくない。死にたくない!ヒロアキは三人の後を傷だらけになりながら追いかけて走り続けた………。
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