第一章2 『はじめての仲間』


 ――しばらく歩いていると徒歩五分ほどの場所にある建物の奥、冒険者ギルドらしき施設へ入っていく男が二人、女性が二人の、四人組の若い男女を見かけた。


 一人で入るのはボッチみたいで恥ずかしかったので、さり気なく流れるようにヒロアキもギルドへ向かって入ると依頼を受け付ているカウンターへ向かう。


 ギルド


 依頼を請け負いクエストをこなして賃金を稼ぐ、さまざまな冒険者が集う場所。


「おお、漫画で見たことある建造物だ」


 この世界のお金は硬貨が多種あり、硬貨の種類は主に銅・銀・金の三種類。


 銅貨一枚=100ロギーは百円相当


 銀貨一枚=500ロギーは五百円玉相当


 金貨一枚=1ロギーは、一万円 と同じ価値があって生きてゆく上で欠かすことのできない貴重な品だ。


 とりあえず冒険者登録をする為に受付嬢に声をかける。


「あのー、すみません。用があってお伺いしたいのですが」

「はーい!」


 受け付の女性は清楚な感じの美女。


 綺麗な青い髪と瞳が特徴で、 ヒロアキはドキッとする。はじめての体験で少年にとっては新鮮に映った。


 しかし、見とれている場合ではないと思い用件を話し出す。


 ギルドで冒険者登録をしに来た事を告げると、 受付嬢はカードのような物を取り出しヒロアキに差し出した。


 そのカードをヒロアキは手に取ると、 名前・性別・年齢・種族・レベルが書かれていた。

 そして、受付嬢から説明を受ける。


 この冒険者プレートには自身のステータスを数値化してくれるものらしい。

 つまりレベルやスキル、魔法や武器など自分の能力を数字で見れるという。


「次の方。何かお困りになられましたか?」


「えっと……ギルドに来たのは初めてで、冒険者の登録をするにはどうしたらいいですか」


「そうですね。冒険者の証しであるプレートを作成いたしますのでこちらの用紙にお名前と趣味、特技などを記入してください」


 冒険者プレート


 クエストを受けるために必要なアイテム。


 冒険者だということを知ってもらうための名刺や資格みたいなもの。冒険者は階級制で高いランクの依頼を受けるほど冒険者ランクが上昇していくシステムになっている。


 もちろん、難しい難易度の高いクエストほどその報酬も高くなっていく。


 俺、ミアケ・ヒロアキはひきこもりでコミュ障の何の取り柄もない、学校でも誰かとまともに話した回数も少ない普通の男。


 趣味は読書。人に自慢できるような大したことも何も無いごく普通の男だが、元居た世界では運動部に所属していたので体力には自信があった。


「もう、手続きが済んだら正式に冒険者になるのか。早いな」


 冒険者プレートを作成している間に依頼の受注も済ませておくと良いと言われたので、何にしようか頭を悩ませていると、近くのテーブルで先ほどギルドへ入っていく時に見かけた四人組の冒険者に声をかけられた。


「ねぇ、君もしかしてクエストを受けるのは初めて? もし良かったらこれからダンジョンへ行くんだけど人手が足りなくて困っていたんだ。一緒に来ないか?」


 片手剣を担いだ青年だった。

 年齢はヒロアキの二つ上ぐらいで赤く染まった短髪に、中世的な顔立ちの整った容姿をしている。


「自己紹介が遅れてごめん。俺の名はアッシュ。きみは?」


「ヒロアキっす」


「この世界ドラグニアでは見慣れない格好をしているけれど、珍しいな」


 男の冒険者がヒロアキにそう告げると、続いて女の冒険者も話に加わる。


「あら、お可愛いボウヤね。もしかして新入りさん?」

「はい」


 男の隣りにいた魔法使いらしき、露出度のかなり高い格好の美人な容姿のお姉さんが続けて、


「依頼人のおじいさんに洞窟へ行って薬草を取ってきてくれって、頼まれちゃってね。これから向かうダンジョンは魔物の群れがうろついていて近づけなくて……。あなたが良ければ私たちと組まないかしら」


 魔法使い冒険者のお姉さんは、こちらに握手を求めてきた。女の子から手を握られたのは何年ぶりだろうか小学生?いやもっと前、幼稚園や保育園生以来だった。


 ちなみにお姉さん冒険者は茶髪の女性で、アッシュと名乗った男と同じぐらいの年齢に見える。突然のことで戸惑いを隠せなかったが、差し伸べられた手を握り握手をする。


「い……いえ、ぜんぜん構いませんよ。俺、暇ですから」


「じゃあ決まりだな!他の仲間を呼んでくるよ」

「えっ、ちょっ……」


 恥ずかしくなったヒロアキは少し歩くのがぎこちなくなってしまい動きが変になってないかキョドってしまいそうになった。


 普段はこんな事はないヒロアキ。なんか言葉が変だ。イントネーションとか変な感じになっていたか?カッコつけた様な感じになってなかっただろうか?


 ここに来て陰の者特有のコミュ障が出てないか不安になってきた。


「お待たせ、仲間を連れてきたよ」


 アッシュと名乗った青年はパーティーリーダーらしく、ヒロアキを誘った青年に他のメンバーは視線を送ると、残る二人もそれぞれ自己紹介を始めた。


「私は回復術担当のユーディーと申します。よ…宜しくお願い致します」


「あなたが新入りの、ミアケさんですか。どうもよろしく」


 若いサブ男っぽい見た目の方が弓使いのロン。


少女の方は僧侶兼回復職のサポート役である回復術士のユーディー・クラネルという。全部で四人組の冒険者だった。


「ど、ども皆様。改めまして仲間に入れさせて貰いやす、ヒロアキです!」


 物事が上手く出来すぎていやしないだろうか?と心の中でそう、つぶやく。


 ――しかし同時に嬉しい気持ちでもあったのだ。なぜなら見知らぬ土地、右も左もわからない異世界に呼ばれて最初に通じ合えた『はじめてのなかま』のような気がしたから。


 四人は全員レベル5以上ある冒険者で、ダンジョンに潜ってモンスターを倒すことで報酬を得ている集団らしい。


「お話し中の所、申し訳ありません。ヒロアキ様の冒険者プレートが出来上がりました」


 四人組の冒険者たちと雑談しているとプレートが完成したようで受け付嬢が持ってきてくれた。



 冒険者ランクの階級は一番下からルーキー、ブロンズ。シルバー、ゴールド、プラチナ、マスター。と現在のLvに応じて棲み分けされている。


 Lvを上げて冒険者ランクの階級と、ステータスを上昇させれば職業に応じたスキルが開放されて転職が可能になる。初期クラスということで、俺はルーキーからのスタートとなった。


「こちらをお受け取り下さい。冒険者ルーキーになられた方へ、ほんの少しばかりの贈り物です」


 受け付嬢さんから冒険者を証明するプレートと銅貨と銀貨が数枚入った巾着袋……、


 一緒に皮で出来た鎧と盾が手渡された。


「きっとあなた様の旅に役立つと思います」


「はい、ありがとうございます! 有効に使わせてもらいます」


 ヒロアキは出立の支度を済ませ、ギルドを出て草原へと踏み出す。四人組の冒険者と一時的にチームを組んでダンジョンへ向かう事となった。


 はじめての異世界での探索にヒロアキは、テンションが上がって心が踊った。


 各自の紹介と雑談の後、ヒロアキとその四人がこれからダンジョンへ向かう途中だ。


「はじめての異世界での活動か……ワクワクしてきた」




 ……しかしこれが、あんな最悪な結末になろうとは。まだ俺は知る由もなかった――


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