第22話 決意の旅立ち
時は遡り、ランズベルト邸を出発したリディアナは、男装をして呼び名をリンディと改めた。
身を守るために女性であることを隠すため、旅の間は男装し続けることにした。
旅は医師であるトマスが薬学の研究で弟子の二人を連れて世界中を旅しているという設定にした。
生まれてはじめての旅では、理想と現実の乖離を目の当たりにし、いかに自分が恵まれた環境に置かれていたかを思い知らされた。
「早く来い! 船に乗り遅れる!」
「待って! 熱がある子を見捨てるなんてできない!」
リディアナの腕の中で、路地孤児が苦しそう抱かれていた。せめて病院に連れて行きたいと言ったらアルバートに止められた。
「いい加減にしろ! 時間がないんだぞ!」
ランズベルト邸を後にし、馬で駆けること二日。追っ手が来る前に王都脱出は成功した。
しかしエルドラント侯爵が脱獄したという噂を一つ前の町で耳にし、三人は乗船を急いでいた。
足取りをつかまれないために一度辺境の港町から海へ出ることにした。
小さな港町は治安が悪く、子供が盗みや物乞いをしていた。明らかに親ではなさそうな大人に無理やり働かされている子供が至る所で目につく。
ここは本当にフェルデリファなのか?
王都を抜ければ整備の行き届いていない貧しい町もあった。悪党が蔓延る治安の悪い町もあった。
しかしここは数倍酷い。
親に捨てられたり拐われたりした子供は、大人の都合で物のような扱いを受け、逃げ出せたとしても戸籍のない子供は仕事もつけず、飢えに耐えながら路上で生活を強いられ、病に倒れても助けてもらえない。
仲間の子供が集まってきて、ぐったりする少年をリディアナの腕から無理やり奪っていく。
「余計なことすんな! 医者なんかにかかれるか!」
着ている服は冬が来るというのに薄着だ。靴もぼろぼろで左右違う。
子供達は警戒を強めて睨んでいた。その瞳にあるのは怒り。大人に、社会に、この世の全てを憎んでいる目だった。
「そいつを助けるならここで降りろ。お前を置いて俺達は先へ進む」
目の前に困った人が現れるたび立ち止まるリディアナ。アルバートは何度も咎めて先に進めと促した。
「目の前に困っている人がいるのに見捨てろと!?」
「全ての人間を救えると思っているのならとんだ思い違いだ。俺達の力では目の前の人を救うのでせいぜいだ。でもあの方は違う。問題となる根本を変え、制度を作る地位と力がある。あの方を救う事で多くの民が救われるんだ。今俺達がやるべきは目先の感情で立ち止まることじゃない」
アルバートの正論に消す言葉のないリディアナに、トマスが間に入って言葉をかけた。
「リンディ。本来の目的に支障がなければ思う通りに行動していい。しかし今は時間が無い。わかるね?」
「……」
リディアナが黙って頷くと、トマスが頭を撫でて子供達の方へと近寄った。
「私は医者だ。薬を置いていくから飲ませなさい」
トマスが医者と知り、警戒しながらも薬を受け取って素直に頷く子供達。リディアナにした時と同じ様に頭を撫でて立ち上がった。
「急ごう」
父の姿に今まで自分は何を学んできたのだろうと泣きたくなった。
医者である父はリディアナ以上にこの無力感と歯がゆさを幾度となく味わったことだろう。悔しい想いをして尚諦めず前を向いてきたのだ。
子供のように我侭を言って皆の覚悟を台無しにしようとした自分を恥じた。
その場から逃げるように、船着場へと向かった。
***
リディアナの後に続いたアルバートは、隣のトマスに謝った。
「君が謝る必要はない」
「……ここは昔から治安が悪かったんです。国外から無法者が不法に入国していました。領主や自治区長は王弟派で前からきな臭い噂があったのです」
「バルサに報告しておこう。しかし私達が出来るのはここまでだ」
「……はい」
「立ち止まりそうになる足を必死に進めているのは何もあの子だけじゃない」
慰めるようにアルバートの肩をぽんと叩いて、トマスはリディアナを追いかけた。拳を強く握っていた腕が強張っていた。
「……八つ当たりもいいとこだ」
あれは自分に言い聞かせた言葉だ。
後でリディアナに謝ろう。
手を開いてからもう一度強く握ると、先に進む仲間の元へと急いだ。
***
「さっきはごめん」
リディアナは甲板で夜風に当たっているアルバートの背に声をかけた。
船には出発間際に間に合い乗船できた。そこから大きな港で大陸を巡る定期連絡船に乗り換えた。
大急ぎで駆け抜けた陸路と緊張から開放されて、横になっていたら夜になっていた。
人影もない、穏やかな波の音だけが静かに聞こえる甲板の上で、アルバートは手摺に寄りかかりながら気まずそうに言った。
「俺も言い過ぎたよ」
「いや、あれくらい強く言ってくれなきゃ分からなかったと思う」
あまかった。机上の知識だけを見て満足していた。現実はこんなにも残酷で無情であったと学んだ。
「常識を覆されたし理想を打ちのめされたわ」
「ああ。この旅で見たもの感じたものは一生忘れないし無駄にしない。帰ったら俺もお前も、やることがいっぱいあるな」
「……うん」
後悔ならいくらでもできるから、その後悔を無駄にしないためにも前を向く。
どんどん遠ざかっていく祖国フェルデリファを、アルバートと二人、見えなくなるまで目に焼き付けて甲板の上で誓った。
三人は王弟ドミンゴが外交で訪ねた国を順に追った。
野宿や空腹には耐える事は出来たが、溢れる好奇心を抑えるのには苦労した。
他国であっても理不尽な場面をみると口を挟みたくなった。
「無責任に干渉してはいけない。発展や文化には順序があり、無理やり順番を早めても良い方向に向かうとは限らない。知恵や力は使う人間が誤ればそれは毒にも薬にもなる。使う人間が成長するのを待つのも、時には必要なのだ」
トマスの忠告を二人は肝に銘じて心に留めた。
それでも目の前に困った人がいれば可能な限り三人は手を差し伸べた。
そしてアルバートの言うとおり、根本の問題を解決しなければ同じように助けを求める人が現れるのだろうと感じた。
乾いた砂の上に立ち、手の平に握った故郷から持ってきた種を見つめた。
水も建物も何もない、砂漠というそうだ。
『政治というのは一代で事が成るのではない。土台を作った者がいて、種を撒く者がいて、水をやった者がいて、花が開いて今を生きる人々に役立つ』
前にルイスが話していた「人類の宝」の解釈を思い出した。
先人達も、リディアナ達の様に歯痒い想いをしていたのだろうか。
リディアナは麻袋に入った種を行く先々で植えることにした。
その土地に生きる人々が、この種の役割や意味を知るのはもっと先かもしれない。今は目の前にいる人を救うことでいっぱいでも、いつかこの芽が育ち、大勢の人を救う力になってくれればと願った。
国から国への移動は大変な労力と時間がかかった。
それでもアルバートの情報収集力のおかげで、手がかりのない国は早々に引き上げることが出来たし、バルサの考えたルートも無駄がなく緻密に計算されたものだった。
そして、旅を始めて半年後。ようやく南にある小国ナパマで手がかりを掴むことができた。
ナパマでは近年闇ルートで出回っていた新種の毒が国の脅威となっていた。
その特徴がフェルデリファで起こった事件の毒薬と一致したことから、トマスは宰相バルサの書簡を持ってナパマ国の協力を要請し、情報の見返りに解毒薬を精製する旨交渉した。
ナパマも国の重要事案として扱っており、解毒薬を作る知識も技術も無く困っていた所に、自国よりも優れた文化を持つ者が現れた。
解毒薬を作ってくれるのならば断る理由はないと、両国の利害が一致し作業に取り掛かった。
ナパマから提供されたのは、毒薬の原料となるトカトリスという花だった。
ナパマの属国であるナンサ島に自生したこの花は、元々小さな島々を戦争で統一していったナパマ国全土に広がり、今ではどこでも見かける植物となっていた。
近年までこの花が毒草であるとは知らなかったという。ナパマの捜査で、この可憐な花が毒薬精製に使われているのまではわかった。
「この花、私の温室にありましたよ?」
鉢に植えられた赤い花を咲かせるトカトリスを見て、リディアナは何度も確認した。
「そんなわけないだろう」
「この花はフェルデリファには生息しない花だ」
可能性としては勘違いの方が高いのだが、リディアナはもう一度記憶を遡って慎重に答えた。
「どこで手に入れたんだっけ……。でも確かに私はこの花を見ました。温室の実験に南国の花も使っていたので間違いないと思います」
「しかしですね?」
それに異論を唱えたのがナパマの役人で、今回の通訳でリディアナ達に協力する者だ。
「このートカトリスは、国王様が真っ先に、危険な植物として輸出を禁止したのです。闇ルートならまだしも、正規のルートで、一般の商店に出回るのは、ないです」
片言のフェルデリファ語で答えたが、リディアナは納得できなかった。
「南国の花を集めていましたが確かあれは買ったものではなく、貰い物……で……」
「リンディ?
」
言葉が途切れたリディアナを心配そうにトマスが覗き込む。
「一応父に頼んで温室を調べてもらいます」
「城の温室に移したのでそっちを調べて。私の勘違いかも知れないが……」
そうであってほしいとリディアナは心から願った。
とりあえずこの件は一旦置いといて、当初の予定通り、三人は二手に分かれて動くことにした。
アルバートはドミンゴの足取りを追い、トマスとリディアナは解毒薬を作ることに専念する。
ナパマ国から城の一角に解毒薬精製のための研究室を設けてもらい、寝泊りのための部屋も用意してもらった。
ふかふかのベッドは有難く、気持ちよく朝まで眠れた。
トマスは毎晩先にリディアナを部屋に帰らせては、遅くまで研究室に籠った。アルバートも捜査で城に戻らない日が続いていた。
そのお陰で、アルバートが有力な情報を掴んできた。
一報を聞いて一時作業を中断し、手伝ってくれているナパマ人には退出してもらって、三人は研究室のテーブルに掛けた。
「使節団が予定よりも一週間長く滞在していたのは記録にも残っていましたが、その理由が現地の悪天候と報告されていました。ところが、当時の天気を調べると、悪天候どころか雨一滴すら降らない晴天でした」
使節団の代表だったドミンゴの報告が、全くの嘘だと判明した。
「元々ナパマは雨量が少なく一年中温暖な気候ですからね。一週間滞在を延ばした毒薬を入手したはず。集中的に調べます。」
「相手は闇ルートを使っている。無理はしないと約束してくれ」
「はい。二人が解毒薬を完成させるまでをリミットに俺なりに調べてみます」
トマスは頷きアルバートを労う。二人をテーブルに残して作業に戻った。
リディアナは関連書類にかぶりついてドミンゴと共に使節団に同行した貴族の名簿を見ていた。
「どうした?」
「ドルッセン=ドゥナベルト……」
「レイニーの父親だな。ドルッセン様は当時農務大臣の職についていたのもあり、使節団に同行したんだろう」
フェルデリファとナパマは元々農産物の交易があった。十名ほどからなる使節団は、新たな貿易である絹織物の価格交渉にきていたのだった。
「カルロス様にヤーコブ様はドミンゴの古くからの御学友だし、ドルッセン様も農務大臣であると同時にドミンゴの義弟だ。他の面々をみても割と気心の知れた者達を同行させたようだな」
使節団といっても行って帰ってくるのに一月以上かかる。気心の知れた仲間と行きたくなる気持ちもわかる。
「カルロス伯爵は、確かマリアーヌの父親ね」
「そう。カルロス様は昔、ソレス殿下の家庭教師をなさっていた。皆王族に親しい方ばかりだな」
「この中にドミンゴに加担した仲間がいると思う?」
「……無いとは言い切れない。同行者も含めて調べるつもりだ」
毒薬の入手地が分かった今、ドミンゴの共犯がこの中にいる可能性は高いかもしれない。
これ以上憶測で話し合ってもしょうがないと、二人は切りのいいところで互いの持ち場に戻った。
トカトリスから毒を抽出するには大変な手間がかかった。
毒は球根の中心にある柔らかい部分に極少量含まれ、脱脂綿などで液体を吸い込ませて絞り出す。これを繰り返して数滴を搾り取る事ができた。つまり少量の毒薬でも大量のトカトリスの花が必要となり、大量生産が出来ないことで、市場に出回るのを回避できた。
解毒薬の無い新種の毒は闇世界で重宝され、高値がついても欲しがる畜生は後を絶たない。
闇ブローカーや売人の懐には莫大な金が入り、トカトリスの毒は潤沢な資金の鉱脈だった。
負の連鎖を止めるためにも、トマスは必死に解毒薬の開発に精を出した。
季節は冬から春へ。
バルサからルイスの即位式が滞りなく行われたと報告が届いた。
フェルデリファに新たな国王が誕生し、国中が歓喜に溢れているという。
三人は祖国と若き国王の治世に祈りを捧げ、いつか祖国の土を踏む時は、国を支える臣下として戻れるよう願った。
「やはり屋敷にも城の温室にもトカトリスの花は見当たらなかったらしい」
「そんなわけないんだけどな……」
報告書には近況と共に依頼していたトカトリスの件が同封されていた。
「似たような花と勘違いしたんだろう。この話はこれで終りだな」
リディアナは納得できなかったが仕方なく頷いた。
「それで、進捗状況はどうですか?」
「こちらは順調だよ。トカトリスを根から食す動物をリンディが発見してね。動物自体に毒を中和させる作用があるのではないかと推測し調べたところ、唾液から出される成分に中和の反応が出た。これから抽出して検体で効果を調べる」
「それはよかった! こっちも凄いのを手に入れましたよ」
勿体ぶりながら二人の前に置かれた紙は――。
「ドミンゴと闇ブローカーの売買取引の記録です。やはりドミンゴは黒でした」
「すごい! 完璧な証拠じゃない!」
「どうやってこれを!?」
「まあ、ちょっと仲良くなった子に紹介してもらって、ブローカーの幹部に交渉しました。父の名を借りて脅し、話し合いの場を用意してもらいました。王族殺しの罪に彼らを問わないのと、拠点や構成員の情報をナパマに売らないという条件で、ドミンゴの契約書をもらえました。契約者がいなくなった契約書は無用ですし、あちらも死んだ者とのいざこざは勘弁したかったんでしょう。ナパマとは解毒薬を作る契約ですし、余計な情報は要らないでしょうし……」
ナパマからしたら余計な情報なわけないのだが、ぎりぎりフェルデリファが約束を違えた事にはならないだろう。
「本当に末恐ろしい」
「誉め言葉と受け取っておきます。証拠は掴んだので解毒薬の完成をお願いします。ナパマに対して良心が痛むので」
「ああ」
父はくすりと笑って、「どんどん父親に似てきてるぞ」とアルバートを揶揄った。
「父上にも報告しないと。はぁ……」
気が進まない様子のアルバートに何故かと訊ねた。
「父の名を使って闇組織と交渉したんだぞ。しかもブローカーを見逃がしたんだから小言を言われるに決まってる」
「闇組織はナパマが裁くべきだ。それよりも契約書を入手した方が大きい」
「そうだよ。ありがとうアル!」
これで父が無実だったと証明できる。リディアナも感謝すると同時に彼の凄さを再確認した。
王都で暮らしていた時も、アルバートはいつも平民の振りをして城下に繰り出していた。
本人は身分を隠した方が女の子と遊ぶのに面倒が少ないとか最低な事を言っていたが、今はそれが真実ではないと思っている。
王妃が毒殺された時も父が捕まった時も、アルバートの情報網は素早く正確だった。
それでいて王家とも深い繋がりがある。
「……」
思い浮かんだ言葉を胸の奥に秘めた。聞いたところで本当の事を話すとも思えなかったから。
それなら今まで通り、ただの遊び人でいい気がした。
「フェルデリファに報告してドミンゴの資金の流れと照合してもらいます。なんたって凄い金額ですから」
ざっと見ただけで家が3軒は買える金額だ。
「アルバート。ついでにこれも頼む」
席を立とうとしたアルバートをトマスが呼び止めた。ポケットから取り出したのは、小さな薬袋。
「ソレス殿下のお薬だ。ナパマは薬草が豊富で空いた時間で調合してみた。もしかしたら、長年悩まされていたソレス様の不調に合うかもしれん」
「……」
トマスが部屋に戻らず、研究室に籠って寝泊りしていた理由が分かった。まさかソレスの薬をつくっていたとは。
アルバートは薬を感慨深く見つめていた。
「?」
長い沈黙の後、「ありがとうございます」と搾り出すようにお礼を言った。
「トマス様。俺はあなたの医者としての生き方を尊敬します。絶対にあなたを日の光の下、堂々と歩けるよう力を尽くします」
そう言うと両手で大事そうに薬を預かり、深く頭を下げて去っていった。
「……大袈裟じゃない?」
なぜアルバートがソレスの薬にあそこまで感謝をするのだろう。
「大切な者に代わって礼をしたのだ」
「?」
「あれはいい男だな。本人同士に気がないのではどうにもできんのが、実に惜しい」
「??」
訳のわからないことを呟いたトマスは、リディアナを放って研究に戻ると、解毒薬作りに没頭した。
すっきりしない気持ちのまま、邪魔をしないよう静かにバルサからの報告に目を通す。
バルサはリディアナに里心がつかないよう配慮しているのか、エルドラント家の状況や婚約破棄の件、リディアナに対する世論の声など一切記述しなかった。
旅に出る直前、バルサに頼んで婚約破棄申請書を用意してもらい署名をしたので、恐らく婚約は破棄されているはずだ。
「……おめでとうございます」
戴冠式を終えたルイスへ、そっとお祝いを述べた。
婚約解消された身では直接会って祝いを述べる機会は既にない。
『帰った時、殿下の隣には別の女が立っているかもしれない。お前それでもいいのか?』
覚悟すると言っておきながら結婚の記述がないと安堵している自分がいる。
一体いつになれば平気になるの?
未だに情けなく痛む心に問いかけても、答えは返ってこなかった。
***
一月後、トマスは解毒薬の精製に成功した。
治験で服毒から5分以内に解毒薬を服用すれば、現時点ではあるが後遺症も無く元の元気な生活を送れるようになることが分かった。
効果を確認したナパマ国は、最大限の敬意をトマスに評し、褒賞まで与えた。
アルバートの捜索では共犯者まで炙り出す事は出来なかったが、これ以上ナパマで得るものはないと、捜索の打ち切りをした。
三人の旅は終わりを迎えようとしていた。
「ではトマス様。先に戻ります」
「道中気をつけて」
アルバートとリディアナは、証拠品を持って暫しの別れの挨拶をした。
トマスは逃亡中の身なので、一緒に帰国はせず今暫くナパマの好意で世話になる事になった。
「必ず呼び戻しますから。今しばらくご辛抱ください」
トマスを残し先に祖国へ戻る二人は、申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
「ナパマの人々は皆親切にしてくれる。私もこの機会に一医者に戻り研究に没頭してみようと思う」
二人を心配させないよう明るく振舞うトマスに、リディアナ達も笑顔で手を振った。
もう一方の手には大事に包まれた解毒薬が握られている。
一年ぶりの祖国へ向けて、船は大海原に漕ぎ出した。
第一章 完
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