第9話 事件のはじまり


 平穏な日常の中に悲しみは突然やってくる。


 その日は昼過ぎから城内が慌ただしく、不穏な空気が流れていた。

 空一面に厚い雲が覆われ、今にも雨が降り出しそうな重苦しい空気。離宮に突如として現れた多くの騎士の姿に皆が不安気に様子を窺っていた。

 離宮では騎士や要人が駆け回り、候補者には塔から出ないよう指示が出された。


「何かあったのかしら……」


 サラも異変に気づいてリディアナの部屋を訪ねた。

 不安を紛らわすよう二人でいると、様子を探りに行ったナナリーが慌てて戻ってきた。


「大変でございます!」


 それは誰もが予想しない出来事だった。


 マーガレット王妃が殺された。


「殺された? 本当に?」

「ええ。毒殺だそうです」

「そんな……」


 三人は言葉を失って立ち尽くした。


「詳しくはわかりませんが、どうやら犯人はまだ捕まっていないようです」


 ナナリーの情報通り、直後に王妃崩御を知らせる鐘が鳴った。

 そして捜査官と近衛騎士が現れ、白百合の塔を完全に封鎖した。離宮に滞在していた者から順に話を聞くことになった。

 一体誰が、何の目的で王妃を殺したのだろうか。


「リディアナ、私怖いわ……」


 サラと肩を寄せ合い亡き王妃に祈りを捧げた。



 翌日、リディアナはエルドラントの屋敷に戻っていた。

 城内が落ち着きを取り戻すまで、家で待機した方がいいと両親に呼び戻されたのだ。毒殺のあった離宮に娘を置いておけないというのが本音だろう。他の令嬢も同様に一時的に家に戻っていた。


 研究者であり医薬大臣である父は、王城で王妃毒殺の事件を調べていた。

 調べるといっても、事件の捜査ではなく専門職である毒薬の成分等を調べているのだろう。

 王妃マーガレットは現国王の唯一の妃として王を支え、二人の王子をお産みになった。つまりルイスとソレスの母親だ。

 突如として母を失った、ルイスとソレスを案じた。

 大丈夫だろうか。休めているだろうか。眠れているだろうか。食事は喉を通っているだろうか。


 王妃が毒殺されるなんて、一体城では何が起こっているのだろう。

 城にいる者達を心配し、不安で、あんなに帰りたかった家もこんな形で戻れるとは思わず、やりたかった事も手つかずで時間だけが過ぎていった。

 屋敷に戻ってしまえば王城での様子を知る術がなく、逆にもどかしい日々を過ごした。



 それから数日が経ち、サラがエルドラント家を訪ねてくれた。

 サラの父親であるランズベルト公爵は、フェルデリファ国の宰相をしており、そこから知り得た情報や両殿下の近況を教えてくれた。

 未だ犯人は捕まっていないという。

 国王は大層落ち込み、部屋で塞ぎ込んでおられるそうだ。

 ソレスは体調を崩して無理ができない状況だという。

 表に立って一人気丈に振舞うルイスの話で、サラの頬に涙がつたった。


「ごめんなさい……私が泣いて……」


 リディアナはサラを抱きしめた。最愛の家族を突如として奪われたのだ。悲しみの深さは計り知れないだろう。残された家族を想い胸が痛んだ。


 王妃の国葬では国内外からの参列者が後を立たず、リディアナも両親とともに参列した。

 王城に隣接した大聖堂の外には、入りきらない程の人が溢れ、王都には献花台が設けられた。

 王妃の死に国中が悲しみの涙を流した。


 心労で倒れた国王に変わり、葬儀は若き王太子が執り行った。皆がこの悲しみから立ち直れずにいる中で、ルイスは政務をこなし、毅然と立ち続けた。


 礼服に身を包んだルイスの背中を遠から見つめた。

 しっかりと休めているのだろうか。無理はしていまいか。慰めてくれる人が側にいてほしいと願った。



 葬儀を終えた二日後、夕暮れ時にリディアナは、ジャンとナナリーと共に登城していた。

 ジャンが捜査で城に籠り続けている父に、着替えなどの荷物を届けに行くと言うので一緒に馬車に乗せてもらった。

 時間は限られていたので、父を訪ねずに目的の庭園へと急いだ。

 作業を中断していたので、庭園の様子が気になっていた。それに屋敷にいるよりルイスに会える可能性は高まる。元気にしているか、少し話をするだけでもいいから様子を聞きたいと、期待したのだが広く静かな回廊を歩き、それが浅はかな望みだったと気づいた。

 約束を取り付けたわけでもない。今国で一番忙しいはずのルイスと偶然会える確率は低かった。

 肩を落として庭園に着くと、植えたばかりの花は元気に育ち、不在の間も庭師が代わる代わる世話をしてくれていたのが見て取れた。

 ナナリーに時間まで散策してくると伝え、まだ水の張られていない池をぐるりと周り、奥に歩を進めるとベンチのところに人影を見つけた。


 何故、こんなところにいるのーー?


 望みは薄いと諦めたところに、まさかのルイス本人が現れた。

 リディアナに気づかず何をするでもなくぼんやりとベンチに座っている。

 声をかけていいものかと迷う。

 ルイスの後ろに控えた近衛騎士が、リディアナに気づいてルイスに耳打ちした。

 ルイスの顔に覇気はなく、目の下には隈が出来ていた。疲労の色が濃く見え、誰が見ても彼が憔悴しているのがわかる。

 少し、痩せられた。

 ゆっくりとルイスの側に寄る。


「……」


 互いに沈黙のまま時間だけが過ぎていく。

 なんと声をかければ良いのか。たくさん本を読んでもかける言葉がみつからなかった。

 サラならきっと優しく慰めてさしあげるのだろう。こんな時はいかに自分が人として劣っているのか思い知らされる。

 言葉が出てこないリディアナを察し、ルイスが苦笑いを浮かべて助け船を出した。


「慰めは要らないぞ」

「……」

「愛想笑はもう疲れた」

「なんて悲しい事を言うのですか」


 呟いたルイスの隣にそっと座る。一人でいてほしくはなかった。

 するとルイスがリディアナの肩へ寄りかった。互いの肩がふれあうほどの至近距離に心臓が跳ねると共に、彼がひどく冷たくなっているのがわかった。


「え? 一体いつからいたのですか!?」


 ルイスは答えずに体を預けたまま目を閉じている。

 代わりに後ろの控える近衛騎士を振り返って答えを求めた。騎士は困惑の表情を浮かべ、きっと長いことここで風に当たり、彼らを心配させていたのだろう。


「っルイス様」


 失礼しますと断りを入れてリディアナは肩に乗る頭を無理やりどかした。

 瞼をうっすら開けたルイスは、怒った顔のリディアナに苦笑いを浮かべた。


「折角眠れそうだったのになにをする」

「……眠れていないのですね」


 リディアナは胸が苦しくなった。


「……仮眠も出来ないならと散歩に出たのだ。なんだか君の顔が見たくなってな。いるはずのない庭園で作業着姿の君を思い出せば少しは元気になれるかと思った。まさか本人が現れるとは……不意打ちはだめだな……、結構堪える」

 掠れた声で体を縮こませ、また目を閉じるルイス。

 憔悴した姿にリディアナは泣きそうになった。

 責任感が強いルイスのことだ、一人で背負い強がっていたのだろう。


「用があるなら呼んでください。馬鹿みたいな格好でも変な顔でもなんでもします。だから無理はなさらないでください。さぁ、お部屋へ戻りましょう」


 しかしルイスは動かない。外は気温がどんどん下がっていく。冷たくなっていくルイスが今にも消えて無くなりそうでひどくリディアナは不安になった。

 悲しかった。

 どうしてこんなになるまで頑張るの。王とはこんなにも孤独なものなの? 

 気がつくと両腕でルイスを包み込むように抱きしめていた。

 ルイスの肩がぴくりと動く。恥ずかしいとか不敬とか、一切感じず抵抗されても離れようとは思わなかった。

 この人を暖めてあげたくて、両腕でルイスの体をさすった。


「ーー殿下は先ほど慰めはいらないと仰っていましたが心許ない姿を見せられては臣下はお慰めするしかないではありませんか」


 冷えた体に泣きたくなる。こんなになるまで自分を追いこまないで。


「強がって愛想笑いなどせず素直に助けを求めればいいのです」


 無理をして壊れてしまっては何の意味もない。


「それができないと言うなら大丈夫だと思わせる態度をおとりください。あなたは王になる方です。臣下にこのような情けない姿をさらしてはなりません」


 母親をなくした相手になんて言い草。わかっていても止められなかった。

 リディアナの心は反する気持ちがぶつかりあっていた。

 弱っているルイスを優しく慰めたい自分と、王太子として情けない姿を臣下に晒してはいけないと叱りたい自分。ルイスを心配する心と、何故自身を粗末に扱うのかという怒り。ルイスのことが嫌いで……好きだ。


「お前は本当に容赦ない」


 リディアナのきつい言葉にもルイスは笑って流してくれた。

 誤魔化すようにさらに強く手を動かす。少しでも彼が温まればと夢中で背中をさすった。


「おい……ちょ、も……いたっ!」


 堪らず離れたルイスは、半べそのリディアナを見ると吹き出して笑った。


「何だその顔は!」


 別にこれは変な顔をしたわけではないのだが。先程よりもルイスの顔に血色が戻ったのでよかったとしよう。


「先程の君は母上にそっくりだった」

「そう、なのですか?」


 亡くなったばかりの方の話を聞いてもいいのだろうか。ルイスが辛くなるのではないかと戸惑うが、ルイスの声は穏やかだった。


「どんなお方だったのかお聞きしても?」

「そうだな。母は私にとても厳しく、たとえ子供でも甘えを許してはくださらなかった」


 ぽつりぽつりと語りだしたルイスの思い出に耳を傾ける。


「褒められたことなど一度も無かったな。ソレスには優しいのにと弟と比べては恨んだ時期もあった。だが母はわかっていたのだ。私はこの国を背負う身。その道に甘えは許されないと。そして体の弱いソレスを守らなければならない。自分に厳しいのも仕方がなかったと、今なら理解できるのだが、あの頃はまだ小さく、よく反発して自ら母と距離をとった」


 生まれた時から王族という責を背負い、幼い頃から厳しく育てられたルイス。リディアナが想像する親子関係とは全く世界が違っていた。


「距離をとる私に母は根気よく食事に誘われた。とはいえ近況報告や政務のことばかりで、一般的な親子の会話などしたことはない。楽しいものでもなかったが、時間を合わせては可能な限り食事を共にしてくれた。愛されていないわけではなかったのだ。それに気づかない自分は若く愚かだった」


 王妃との思い出に後悔を滲ませ目を閉じた。

 空は夕闇に染まり始めていた。


「母はいつも私より先に料理に口をつけた。母が口にしてから自分も食べ始める。子供の頃からの習慣で気にも留めなかった。当たり前すぎて、その深い意味にも気づかずに。あの日も……」


 まさか……!


「あの日も、母は時間があったからとふらりと私の部屋へやってきて、本当に……何気ない話をして、私はいつものようにお茶を用意させた。私が食べるはずだった菓子を、母は先に口に運んだ。いつものように、母が食べ終えるのを私は待っていた。だが母は血を吐いて、ゆっくりと倒れた」


 リディアナは胸を押さえ苦しみに目を閉じる。

 なんということ――。王妃はルイスの部屋で、彼の目の前で亡くなったのか。

 待って。それなら、毒を盛られたのは――。

 リディアナが驚愕に目を開けて顔を上げると、ルイスと目が合った。彼はリディアナが想像した通りだと言うように、ゆっくりと頷いてみせた。


「狙われたのは私だ。私のせいで母上は死んだ」

「違います!」

「違うものか。毒は私が食すはずの菓子に盛られていた。それをたまたま訪ねて来た母が口にし、命を落としたのだぞ」

「ですが、殿下に落ち度は何一つございません」


 己を責めるルイスの思考を止めさせたかった。


「しかし母を守れなかったのは事実だ。私に力がないから守れなかった。私が愚かだから、私が若輩者だから、私が次期王として至らないから、反乱分子が生まれ政敵に母は殺されたのだ」

「ルイス様ーー」

「母の命を奪った者を必ず見つけて殺してやる。そのために力が要るなら私は非情になってでも力をつけよう。二度となめられはしない。恐れられ、大事なものを奪われない強き王となるのだ!」

「ーーっ」


 決意の中に燻るのは怒りと復讐。その目は、声は、いつものルイスとはかけ離れた危うさが孕んでいた。

 責任感が強い分、守るべき人を守れなかった後悔と悲しみがルイスを蝕んでいた。このまま彼が別人になってしまうのではないかと怖かった。


「あの日からずっと私は私を許せない……!」

「それでも、強さを履き違えてはいけません」


 リディアナは立ち上がり、ルイスの前に膝をついた。目の前に跪くことでルイスはリディアナの存在を思い出したかのように焦点が合っていく。


「暴力だけが力ではありません」

「……何故泣く」

「あなたが恐ろしいからです」


 リディアナは頬に伝う涙を乱暴に拭った。

 ルイスの瞳が揺れる。


「強き王も時代によっては必要とされるでしょう。ですがルイス様は違います。強さは時に大切なものを傷つける諸刃の剣です。この国には聡明で優しい方がたくさんおられます。ルイス様もそのお一人です。王妃様も賢さと優しさでルイス様を守られたのです。これまでルイス様を正しき道に導いた方々の様に、どうか知恵を力に変える王とお成りください。そして私達民を優しさでお守りください。ルイス様の持つ力とは、暴力ではなく強き心だと私は思うのです」


 リディアナはルイスに暴力で治める王ではなく、叡智の王であってほしいと訴えた。

 ルイスはずっとリディアナをみつめていた。リディアナもいつものように目を逸らすことはしなかった。ルイスの瞳には先ほどまでの危うさは消えていた。


「本当に、君は……」


 続きを言う前にルイスの気配が緊張に変わる。


「?」


 不機嫌そうに顔を眇め、ため息をつくと体を反らして近くの大木に声をかけた。


「のぞき見とは感心しないな。バルサ」


 大木の影から現れた壮年の男。にこにこと人の良さそうな表情とは裏腹に、瞳の中にきらりと光る鋭さがあった。

 バルサ?

 リディアナはようやく男が何者か分かった。フェルデリファ国宰相、筆頭公爵家ランズベルト家当主、バルサ=ランズベルト。


「はじめまして。娘が仲良くさせてもらっている」


 サラとアルバートのお父様だ。

 慌ててリディアナは立ち上がって礼をとる。


「お初にお目にかかります、ランズベルト公爵」


 要人を前に声が上ずってしまう。そんなリディアナを面白そうに観察する姿は、アルバートにそっくりだった。


「サラーシャは気が小さいところがある。君のような元気な子と仲良くするのは娘にとっても刺激になって有難いと思っていた」

「私こそサラーシャ様に学ぶ事が多いです」


 リディアナは恐縮した。先程のルイスに対する失礼な態度をもし見られていたらと思うと気が気でない。また父に迷惑をかけてしまうと気をもんだ。


「こんなところまで何の用だ」


 ぶっきらぼうなルイスの態度に気分を害することもなく、バルサはにこやかに続けた。


「方々から殿下が抜け殻のようだと報告がありまして。しばらく様子を見ていたのですが先ほど近衛から殿下が凍え死んでしまうと駆け込みがありました。いつまでも立ち直れず不甲斐ない姿を曝す殿下を諌めるのも私の仕事と、重い腰を上げましたがどうやら解決したようで何よりです」


 バルサの口から出る言葉は明朗にして過激だ。

 不敬と言われてもおかしくない態度に驚くリディアナ。ルイスは特に気にした様子もなくいつもの不機嫌顔だ。


「いや~面白いものを見た。今回ばかりは殿下の判断が正しかったと認めざるをえませんな」

「?」

「リディアナ嬢。これからも殿下の良き相談相手となり力を貸してほしい」


 思いがけない御言葉に条件反射で「はい」と返事をした。


「また遊びに来なさい。アルが会うたびあなたの様子を聞いてくるのでめんどくさいのだ」


 懐かしい旧友の名に、リディアナの顔がほころぶ。


「アル、だと?」


 二人の会話にルイスが割り込んできた。


「愚息アルバートとリディアナ嬢は、王城にあがる前からの悪、失礼。学友でしてね。娘共々仲良くしているようです。挨拶がしたいと常々思っていたのだが、君は社交に一切顔を出さないし私も忙しくてね。今日は偶然だったが会えて良かった。ああ殿下、心の狭い男はモテませんぞ」


 ルイスの顔がみるみる不機嫌になっていくのをバルサが可笑しそうにからかう。

 バルサは豪快に笑った後、「邪魔者はこれで失礼いたします」と来た道を引き返していった。


「狐め……」


 颯爽と退散して行ったので礼をとるのも忘れてしまった。

 呆然と立ちつくすリディアナの手をルイスが取った。

 手袋越しではあるが僅かな熱が伝わり体が強張る。心臓に悪いので不意打ちは辞めて欲しい。


「長く付き合わせてすまなかった。体も冷えただろう、お茶を用意させよう」

「いいえ。侍女を待たせているので失礼します。殿下こそお部屋に戻って体を温めてお休みください」


 リディアナはするりとその手を剥がして申し出を断った。

 話に夢中になってジャンやナナリーの事をすっかり忘れていた。今頃心配しているだろう。

 近衛騎士に後はよろしくと伝えた。


「君はやはり君のままか」


 面白くなさそうに意味不明な事を呟き、ルイスは宮殿とは逆の方向に歩き出した。

 馬車まで送ると聞かないので仕方なく隣を歩く。

 馬車では待ちくたびれたジャンがルイスの姿にぎょっとしていた。リディアナは馬車に手をかけ、お礼を言うために振り返った。


「ん?」


 リディアナが何も言わないのでルイスはどうしたのかと小首を傾げた。


「……」


 ルイスの背後にそびえ立つ王城を見上げると急に不安に駆られた。

 王妃の暗殺が、実はルイスを狙ったものだと聞いたからだろうか。

 犯人は王城の、ルイスの側まで近寄れたのだ。そして未だ捕まっていない。

 夜空に浮かぶ尖塔がルイスに襲い掛かってくるように見えて背筋が凍った。


「どうか、お気をつけください」


 リディアナはルイスがいなくなってしまったらと考えると怖くなり、馬車に乗るのを躊躇してしまう。


「大丈夫だ。自分の身は自分で守れるし城の者も私を守ってくれる。何も心配ない」


 ルイスの手が伸び、俯くリディアナの頭に触れる。遠慮がちに触れた手は、徐々に子供をあやす様に優しく撫でた。

 不安はまだ残るけれど、リディアナも分かったと微笑みで返した。


「すぐに国を安定させる。だから必ず戻れ」


 戻る?


「あ」


 自分が婚約者候補だったのをすっかり忘れていた。

 思い出して思わず嫌そうな顔をしてしまった。そんなリディアナにルイスは不敵な笑みを浮かべた。


「戻らなければ連れ戻すまでだ」


 リディアナの作り笑顔が固まる。

 揺れる馬車でがっくりと項垂れながら、エルドラントの屋敷へと戻った。

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