第3話 雲

そして授業が全て終わり、放課後、俺は教室に残ってポラリスをしていた。

これも俺の1日のルーティーンの1つで、放課後は教室に残りポラリスに没頭するのだ。

放課後教室に残るのはせいぜい2、3人、それも大人しめの奴が多いから堂々とポラリスができる。

放課後の教室で1人ポラリスをやっている時が、一番心が落ち着く。

まぁたまにクラスの陽キャや運動部の連中が大人数で居座ることがあるので、その時は大人しく図書館に退避するのだが。

安心できるといえども、学校側が設けた制限を突破して、しかも教室でゲームをしている関係でいつ教師に見られるかと思うと常にひっそりと緊張感が付きまとってあまり落ち着けないというのが本音だ。

こんな感じで普段はポラリスに多くの時間を割いて勉強なんてほぼやらない。

勉強?復習?

知らねぇな。そんなのポラリスの二の次だ。


その時、勢いよく教室の後ろの扉が開いた。

まずい、誰か来たか。違うタブ開いてカモフラージュしねぇと…

そう思っていると、入って来たのはなんと若松さんだった。

よく見ると若松さんの椅子にバッグが置いてあった。

若松さんなら大丈夫だと思い俺はすぐにタブを戻しポラリスを再開した。

すると、何やら若松さんが俺の方に近付いてきた。

うわ、何だろうか、あんま話しかけないでくれよ、コミュ障がバレるじゃないか。


「それポラリスだよね」

「えっ」

「あぁいきなり話しかけてごめんね、それポラリスだよね?この学校にやってる人いたんだ〜嬉しい〜!」

「若松さん…もやってるの?」

「うん!!まだまだやってないことも多いけど、基本的な事は大体分かってるつもりだよ」

「そうなんだ、この学校で自分以外にポラリスやってる人初めて見た」

「やってる人少ないよね〜良いゲームなのに」

「あ、ごめんね、話しすぎちゃって」

「いやいや、俺もポラリス仲間初めて見つけて嬉しかったし全然大丈夫」

「えっと…東雲君?読み方合ってるかな?」

若松さんが俺の上履きを見て言う。

「うん、東雲っていいます」

「東雲君、よかったらお友達になって下さい」

「うん、もちろん」

「よろしくね!」

「ところで東雲君ってポラリスどれくらいやってるの?」

「あぁマップ12個は全部触ったよ、今はそれぞれのマップに生息してる生物を全部手懐けるのに挑戦中。一応ポラリスに関することならほぼなんでも知ってるつもり」

そこまで言って少し話しすぎたかと我に返る。俺の悪い癖だ。

「めっちゃガチ勢〜!分かんないことあったら聞いちゃっても良いかな?」

「もちろん、どんどん聞いて!」

「ありがとう〜!」

そう言うと彼女は席の方に戻って行く。

「それじゃ、東雲君また明日ね!」

「うん、また明日」

そして彼女は帰って行った。

なんというか、少し去り方が裕希に似ていると思った。

面白い子が友達になった。

え、というかポラリスやってるんだよな。

生まれて初めて見つけた、ポラリスをやる身近な人。

その事実に俺は遅れて高揚がやってきて、興奮冷めやらぬ状態だった。


それから、彼女とは度々話す仲になった。

主にポラリスやアニメについてだ。

中学生以降にできた初めての女友達ということで、距離感を測るのに苦労したが、彼女の人当たりのよさのおかげで上手く行っていた。

そんなある日の放課後、彼女に突然

「ねぇ東雲君、LINE交換しようよ」

と言われた。

突然の女子からのLINE交換イベントの発生に、俺はコミュ障を丸出しにしながら

「え、俺はいいけど、若松さんはいいの?」

「もちろん〜はい、これ私のQRコードね」

そうして見せられたQRコードを読み込むと、Aoiという名前に猫のアイコンのアカウントが画面に浮かび上がってきた。

「猫飼ってるんだ」

「うん、小学生の時からずっと一緒なんだよ〜」

「アイコンにはしてないけど俺も猫飼ってるよ」

「え、そうなんだ!」

「ポラリスといい猫といい、すごい偶然だね〜!」

「本当だね」

そしてその後しばらく互いの猫の写真を見せ合ったりして談笑した。

友達という友達がバスケ部に所属している裕希しかいない俺にとって、放課後彼女と過ごす時間は楽しいものだった。


そんな日々が続き会話にも多少遠慮がなくなってきたある土曜日、彼女からLINEが届いた。

「東雲君、ポラリスってマルチプレイができるんだって!やってみない?」

俺はそれにすぐ答えて

「いいね!どのマップでやろうか」

と送ると、

「初期マップでお願い!」

と返ってきた。打つの早いな…

彼女とはLINE以外にもゲームストアのアカウントもフレンドになっていたので、

「了解、俺がサーバー開くから、ゲームストアのフレンド欄から合流できるよ」

「いつ始める?」

と答えると、

「もう今始めちゃおう!」

と来たので、俺はすぐにサーバーを開いた。

「開いたよ!いつでもどうぞ」

と送ると、その瞬間、なんと彼女からLINE通話の着信が来た。

え、マジで?ポラリス内のチャットでコミュニケーション取ろうと思ってたんだけど、いきなり通話?

そう、何を隠そう俺は男友達とすらも通話をほとんどしないので、そもそも通話というものに慣れていないので、突然の着信、しかも女子からという状況にとんでもなく困惑していた。

しかし待たせるのも悪いと思い、通話を受けると、

「東雲君ー?聞こえる?」

と彼女の元気な声が聞こえてきた。

「うん聞こえるよ」

「よかった!今日はよろしくね!」

「こちらこそ…にしても急に通話来るからびっくりしたよ。ポラリスのチャット使うと思った」

「だって通話の方がコミュニケーション取れるでしょー、チャット打つのめんどくさいし」

うぅ…あまりにも正論すぎる。コミュ強強いなぁ…

そして初めてのマルチプレイは始まった。

2人で話しながら、キャラクター作成で化け物みたいなキャラクターが出来上がってバカ笑いしたり、素材を集めて家を建てたり、生物を手懐けたりした。

ポラリスはシングルプレイでも十分すぎるほど楽しいが、人と一緒にやるポラリスもまた同じくらい楽しかった。

それから、俺たちは毎週土曜日の午後にマルチプレイをするようになった。

彼女と過ごす時間は本当に楽しくて、代え難いものだと俺は思っていた。

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