もふドル 〜異世界からやってきたモフモフ獣人娘たちが現代社会でアイドル無双する!〜後編
バサバサっと開け放たれていた大きい窓から入ってきた人影。
手に羽の生えた獣娘、いや鳥娘か……耳や羽毛の模様からするとミミズクの類のようだ。
「とうとうきたか! 迎えうつぞ! 野郎ども、戦闘準備! 配置につけ!」
リオの号令で雄叫びをあげる獣娘たち。
「戦闘!? ミャウ、どういうこと!?」
戦闘なんてものとは全く縁のない一郎は耳を疑っていた。
「実はさ、この国の兵隊らしいのと一悶着あったんだよね。でも大丈夫!」
「女の子を刃物で襲おうとしていた男を撃退したところ、犯人と間違われたのですわ」
慌ただしく行動する獣娘たちに続いて、ミャウもまたその身を踊らせる。
雲間に月満ちる夜空、限りなく静寂を保ちながら、ゴム弾銃器など特殊装備で武装した隊員たちが綿密に練られた作戦のもと行動を開始していた。
「各隊作戦行動配置状況を報告せよ」
各部隊の配置状況が次々と確認されていく。
「全部隊配置確認完了」
「全部隊配置完了 作戦指示願う」
「報告確認完了、鎮圧作戦行動開始」
「全部隊作戦行動開始 作戦行動開始後、状況報告せよ」
ヘッドギアに装着された通信機で、現場と本部との間で滞りなく情報が交換される。
各部隊、隊員たちが銃器をかまえ足速に目標へと歩みを進める。
音もなく忍び寄る影。
その影が重なるたび、隊員が闇へと消えていく。
前を進むものは誰もその事実に気づかない。
「第一目標地点到着」
「報告確認、鎮圧作戦を実行せよ」
「了解、これより行動を開始する」
斥候を務める隊員が前方の状況を確認すると、後ろを振り返ることなくハンドサインで後方へと情報を送る。
銃器の安全装置を解除後、散開、目標に向けて進め、だ。
が、後方隊員の誰一人も一向に行動を開始する気配がない。
不安を覚え振り返り、後方を確認する隊員。
月明かりに照らされた静寂はその隊員を一層不安にさせた。
背後から重なる影。
面体越しの頬に、ふくよかで温かで幸せな感触を感じつつ、首筋に衝撃を受けると闇へと連れ去られていた。
「あーはっはっはっは!
甘い! 甘すぎる!
お前らの精鋭部隊は殲滅したにゃ!」
新宿御苑に高らかとこだまする透き通るような若い女の声、ミャウだ。
山までも届きそうな声量。
その宣言は新宿御苑外縁に陣取っていた本隊にまで響き渡っていた。
「各隊、状況を報告せよ! 誰でもいい! 報告を!」
「なんだこりゃ? もしかしてこれで話しができるのか? だから殲滅したって言っただろ!?」
通信機から聞こえてくる乱暴な物言いの女の声。
他からの通信は一向になかった。
「各隊……全滅の模様」
「本部に通達、第一作戦行動における各隊の安否不明、第一作戦……失敗」
「……本部、報告確認。直ちに第二作戦に移行せよ」
「了解、直ちに第二作戦に移行」
「いまから報復するから覚悟するにゃ!」
「うちら相手に闇討ちなんて間抜けもいいとこだよ!」
「俺たちがボコボコにしてやるから覚悟しやがれ!」
新宿御苑のおよそ中心にそびえる石造りの城壁の上に並び立つ影。
雲が流れて月明かりがその影を照らす。
頭の上にピンと立つ獣の耳、臀部からはゆらゆらと揺れ動く長短さまざまな尾。
艶やかささえ感じる美しく引き締まったしなやかな肢体。
瞳は爛々と輝き、今まさに始まろうとしている戦闘を前に、その顔は喜びに満ち満ちている。
口元からはまるで熱い煙でも吐き出しているようだ。
「祭りの時間だ!」
「第二作戦行動開始」
獣娘のリーダーであるリオがそう宣言するのと同時に、本部から次の指令が下されていた。
本隊で待機していた隊員たちが足を進める。
「いっくにゃ〜!」
十数メートルもある城壁の上から飛び降りる獣人たち。
城門に控えていた獣人と合流する。
銃器が構えられ、獣人の爪と牙が月明かりにきらめく。
近代兵器と野生の暴力が、いまぶつかりあう……はずだった。
「待ってくれ! 三食昼寝付き! キミたちの食の安全は確保する! だから争うのはやめてくれ!」
この娘たちを危険になんて晒せるもんか!
突入部隊を背に一郎が叫ぶ。
ぴたりと止まる獣娘らの足。
事の重大さに気づいた一郎が獣娘たちを追い越していたのだ。
ぐぅぅぅぅ。
ミャウのおなかから盛大に腹の虫が鳴る。
「五食にゃ」
「手を打った!」
「これより我らは、この男とともに獣人アイドルとして頂点を目指す!」
銃器を構えた隊員が獣人娘たちを包囲しつつあるなか、リオが宣言し直す。
ほっとする男を尻目に獣娘が言葉を続ける。
「だがな、祭りは別だ。我らの力を示せ! 完膚なきまでに叩きのめすのだ!」
「ええぇぇぇぇぇ!?」
一郎の声が新宿御苑の夜空に響き渡った。
結局、突入部隊は獣娘たちからの一方的ともいえる蹂躙を経て、コテンパンにのされることに。
死人が出なかったのは彼女たちなりの心遣いによるものか。
指揮官の目前に迫った獣娘らが、平和的な交渉の後、この世界での権利を確保したとか、しなかったとか。
やがて時は経ち……。
軽快なシャッター音。
「いいね〜、その艶っぽい表情。今年のグラビア女王はメルルちゃんに間違いないね」
「あら、わたくしごときがそんな」
たわわな胸を揺らして微笑む水着姿の羊娘。
「なんていう人間離れしたアクロバット! トリッキーでファンタスティック!
今年のパルクール頂上決戦の優勝者はモッチーだ!」
「へへん、おいらにかかりゃこんくらい屁でもないね!」
涼やかな胸を張り、愛嬌を振り撒く猿娘。
「かかってこいや〜!」
「ああっ! なんと宙に放り投げた〜!」
トップロープから対戦相手に跳びつくと、空中だというのに関節という関節を極め、脳天からマットに叩き落とす。
「黒いしなやかな肢体にチャンピオンベルトが光り輝いてるぞ! その名は……ラビーナ〜!」
高らかにチャンピオンベルトを掲げる筋肉黒兎娘。
「俺に勝とうなんざ、万年早ぇんだよ!」
そして、時と場所は変わる。
『イチロー、行ってくる!』
次々と一郎にハイタッチをする獣娘たち。
「ああ!」
獣娘たちの背中を見送る。
たった一言の相槌、それだけで十分だった。
満員御礼の東京ドームはいま、静寂に包まれていた。
小さな音色が聞こえてくる。
音は次第に大きくなり、一斉を風靡した新曲のイントロが始まった。
ステージにさまざまな色彩のスポットライトが光を落とす。
その光の中には、麗らかな衣装に包まれた彼女たちが静かに佇んでいた。
流麗な歌声が響き、聞く者の心に刻まれる。
蠱惑的な踊りが観衆の目を奪う。
時折、観客席まで飛び込む、人間離れしたアクションが大歓声を引き起こす。
「みんな〜! 来てくれてありがとにゃ〜!」
「俺たちのことがそんなに好きか〜!?」
「本日も皆さまのために歌います」
「獣娘が好きか〜〜〜!?」
「そんなに好きなら殴ってやるぞ!」
「今宵! 燃え尽きるまで歌い尽くす! 我らの伝説はここから始まる! 存分に応援しろ、愚民ども!」
「リオちゃん、愚民じゃないよ!?」
間奏の間に間に、次々マイクパフォーマンスを行うミャウ、リオたち。
そのたび、歓声が巻き起こる。
歌が、歓声が……東京ドームを支配する。
リオの宣言通り、ここから彼女たちの伝説が始まったのだ。
もふもふに包まれた獣娘によるアイドルグループ……もふドルの伝説が!
そして……もう一つの伝説がまた、生まれようとしていた。
彼女たちが紅組だとしたら、白組と言える存在。
代々木公園の中ほどに突如現れた建造物群。
獣娘たちと同じくもふもふに包まれた……容姿端麗な獣男たち。
アイドル活動を皮切りに、グラビア界、プロレス界、スポーツ界、お笑い界などなど、多岐に渡って獣人たちが活躍する世界、それがいまの地球だ。
彼女たちの可能性は果てしなく、夢と希望にあふれ、突き進むのみ。
誰も思いつかないような未来が待っているのかもしれない。
「みんなに愛を届けるお仕事、アイドルって……楽しいにゃ〜!!!」
東京の空にミャウの一声と大歓声が響き渡る。
何者にも止めることができないほどの熱狂的なライブは、まだ終わらない。
〜完〜
☆もっと男性向けにリメイクしたいかな♪
メンズもふドルをのちほど投稿します!
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