もふドル 〜異世界からやってきたモフモフ獣人娘たちが現代社会でアイドル無双する!〜中編
ずっと切ない ♪
ず〜っと哀いたい ♪
会えないあなたをうずく身体が求めてる ♪
満たされないわたしの想い ♪
心の隙間を埋めてくれるのはどこの誰 ♪
たった一つの出会いがあたしを変える ♪
満たされるあたしの想い ♪
あなたが届けてくれたのは心からの愛 ♪
やっと会えた ♪
もう離れたくない ♪
少しでいいの ♪
たった一つのあたしの幸せ ♪
即興? 悲しい歌声が幸せに満ちた歌声へと変化していく。
心に響く恋の歌だ……。
一郎は数少ない学生時代の甘酸っぱい経験を思い出していた。
歌唱力、声量、声質、情感……これはとんでもない逸材だ。
「あ、あの……」
話かけようとした一郎を遮って少女の歌が続く。
でもね ♪ 豚肉 ♪ 鶏肉 ♪ 牛肉 ♪ さかにゃ ♪
出会いは一つと言わずに山盛り ♪ どか盛り ♪ ドンとこいにゃ〜!
「恋の歌じゃなかったの!?」
「鯉? お魚じゃないよ? さっきもらった串焼きの歌!
ず〜っと、おなかが空いていて、もう切なくて切なくて、美味しいものを食べて歌いたくなったんだ!」
どどんと小さな胸を張る少女。
「歌ったら喉が乾いたにゃ」
一郎と猫たちの前に降り立つ少女。
「よかったら、これ」
ペットボトルのふたを開けて差し出す。
「なにこの黒いの?」
「コーラ、知らないの? 飲み物だよ」
手に取った少女がゴクゴクと一気に飲み干してしまう。
「げっふ〜……シュワシュワしてあま〜い! こんなの初めてだよ!」
「初めてのコーラを一気飲み……」
げっぷがかなりでかい。
豪胆と言わざるをえない。
「ミャウ! こんなとこにいたのかよ!?」
「ずいぶん探したのですよ? ミャウさん」
「自分勝手な行動がすぎるのです〜」
「ボクを置いてくなんてひどいじゃん!」
「で……この男、誰さ」
唐突に猫耳少女の周りに現れる獣耳の少女たち。
耳、しっぽ、毛色、タイプの違う美少女たちが立ち並ぶ。
みな、一様に目の前の男を警戒してるようだった。
集まっていた猫たちは散らすように逃げていた。
どんだけいるんだ!?
十、二十、三十、四十、もっといそうだ。
「この人が食べ物をくれたんだ。すっごい幸せ。でもできればもっと食べたいにゃ〜」
「なんだって!?」
「なんですって!?」
「なに〜!?」
「ほんと!?」
「それは事実か?」
「ほんとにゃ!」
「ほほう……いますぐ食い物を用意しろ。持ってこないと、骨も残らんと思え」
瞬時に一郎の背後に立つ少女。
鋭く伸びた爪が一本、つぷりと一郎の首筋に触れる。
「は、ははは、はい! すぐに買ってきます!」
怯えたハムスターのごとく苑内から駆け出す一郎。
セビンイレビンに駆け込むとカゴ十個分におにぎりやサンドイッチ、缶詰などなどを詰め込んで、ホットスナックをすべて注文、クレジットカードで支払う。
我に帰れば青ざめること間違いなしの金額だ。
一郎の収入はとても自慢できるものではないが、命を取られるよりはマシと思うしかない。
「買ってきましたー!」
苑内の出入り口、少女たちの耳には届かないだろう距離から叫ぶ一郎。
あれ? あんなにいた娘たちがいない。
「きみ一人だけ? 他の子たちは?」
「黄身じゃないよ。あたしの名前はミャウ。みんなは待ってられないって先に戻っちゃったにゃ」
きみ、と聞かれて卵の黄身と勘違いするあたり、なかなかの天然娘なのかもしれない。
「じゃ、じゃあ、これは?」
両手に持ったたくさんの袋を持ち上げる。
「持ってきてくれる?」
「え? それってあの中に入るってこと……」
つまり城壁の内側だ。
「もちろん!」
「うそ……」
ボトボトと手から袋が滑り落ちる。
一郎はミャウに連れられて城砦の中、食堂と思われる場所にいた。
ここに来るまでの間、何人もの獣娘を見た。
鼻歌を歌いながら掃除や洗濯をするもの。
とんでもない身体能力で戦闘訓練している者に観戦している者。
古びた太鼓を叩くものとリズムに合わせて踊る者。
まるでヨガのようなおかしなポーズでおしゃべりをする者。
屋根に寝そべっている者などなど。
法螺貝笛が鳴った途端、たくさんの獣娘たちが食卓についていた。
みな、一様によだれを垂らすような顔をしている。
「まじか……」
全員が若い娘の獣人、その光景に一郎は圧倒されていた。
タイプこそ違うが、一般人のレベルをはるかに超える美少女ばかり。
「全員に配れ」
リーダー格と思しき獣娘が一郎に命令する。
特徴的な斑点のある体毛、耳、しっぽからするに豹の獣人と思われる。
「はい!」
言われるままに、椅子に座る獣娘たちに配っていく。
「うまいなこれ!」
「それわたしも食べたいですわ!」
「美味しいです〜」
「ボクにもちょうだい!」
「俺にもよこせ!」
我先にとセビンイレビンの食べ物を口にする獣娘たち。
「ど、どど、どうぞ」
「ああ」
最後に一郎に命令を下した豹娘にフランクフルトを渡す。
フランクフルトにかぶりつくと、豹娘の表情が一気に華やぐ。
耳がピコピコ、しっぽが忙しく揺れる。
「かわいい……」
まるで子どもの頃に飼っていた猫、一郎は思わず豹娘の頭を撫でていた。
「ふわ!?」
目を大きく見開き、顔を真っ赤にして一郎を見上げる豹娘。
思いもかけない豹娘のリアクション。
さらにかわいさを感じた一郎、あまり深く考えもせずに、微笑んで頭と耳をやさしく撫でつける。
ぞわぞわぞわっと波立つ毛。
「な、ななななな……喰われたいのか!?」
おどしている風のセリフだが、かわいすぎてまったく迫力がない。
「リオちゃん、あんなゲテモノ食べにゃいくせにね、メル」
ミャウがとなりに座る獣娘にぽそりと呟く。
「リオさんはくず砦のリーダーのくせに男に免疫がありませんからね。
……誰も食べませんわよ?」
頭にうずまき状のつの、まるで羊毛を思わせる白いふわふわな毛。
こちらは羊の獣人と思われる。
「ところでミャウさん? あなた男嫌いではありませんでしたか?」
「あれ? そういえばそうだったけど……なんかご飯もらったら大丈夫ににゃったかも?」
「ミャウさん、チョロすぎますわ」
「喰われたくないです! その……あんまりかわいかったから……」
「!!!!!!!!」
まるで大噴火でもしているような表情。
口からこぼれ落ちるフランクフルトをキャッチする一郎。
リオの口に放り込むとまたまた大噴火を引き起こす。
もしかして……この娘たち、あんまり怖くない?
正直、首筋に残る爪の痛みにびびっていたが、そんな思いは払拭されてしまったかもしれない。
食堂で満足そうに食事をする獣娘たちの姿は微笑ましいくらいだ。
クレジットの残りが心配ではあるが、この表情を見て損失を取り戻せた気もする。
それにもしかしたら……一郎の頭の中にはある思いが込み上げていた。
「キミたち……歌って踊れるアイドルになろう!」
この子たちは……歴史を変えることになるかもしれない!
異様とも言える獣娘たちを前にどこをどうしたらそうなるのか。
やはり、この男の頭のネジは一本どころか何本も外れているのかもしれない。
「なんだそれは?」
豹娘のリオが疑問を口にする。
一郎の一言に口を動かしながら注目する獣娘たち。
なかには食事に集中して目もくれない者もいたが。
「キミたち、どういう事情か知らないけれど、ご飯に困ってるんだろ!?」
「んあ? ああ、いきなり見知らないとこで、どうしたもんかと思ってたが、そのうち鹿でも猪でも獲れる狩場でも見つけるさ」
「ここ日本の都会だから! そんな場所ないよ!?」
「狩場がない? じゃあ、どうすんだ?」
一郎の言葉を真に受けたのか、思いのほか素直に聞き返すリオ。
「歌さ! 歌でお金を稼いでおいしいご飯をいっぱい買おう!」
「はあ〜!? 俺たちゃ吟遊詩人じゃねぇぞ!?」
今度は長い黒耳のグラマラスな獣娘だ。
見るからに黒うさぎっぽいが、一人称といい乱暴な物言いがイメージとかけ離れている。
「ミャウ! ミャウの歌は切ない青春の想いが溢れるくらい、とても素晴らしかった!
通りで踊っていたキミたち、とても蠱惑的で情熱的だった!
太鼓を叩いていたキミのアクションも素敵だ!
鼻歌のキミも聞き惚れるくらいだよ!
ヨガをしていたキミもしなやかな肢体から目を離せなかった!
戦ってるキミたちの姿、心が奪われるくらい美しかった!
寝ていたキミも……とてもとてもかわいい!
キミたちにはあふれる魅力がある!
きっと世界を虜にするアイドルになれる!
間違いなく逸材なんだ!」
一郎が紅潮した様子で獣娘を見渡して長々と力説する。
「ふ〜ん、逸材ねぇ」
「みんな! 緊急事態! わたしの察知スキルに反応だよ! 砦のまわりに武装兵がいっぱいいる!」
☆後編に続きます♪
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます