もふドル 〜キラキライケメン獣人が現代でアイドル無双する〜
一話の一もふ 狼男と悩ましい顔
「うっひぃぃぃ〜。
ほんとにここに入らなきゃいけないの〜!?」
目の前にそびえる城門を前に佐藤あかりはドキドキしながら行ったり来たりしていた。
ここは東京都民の憩いの場所、代々木公園。
一月も経っていないけれど、代々木公園の真ん中くらいに西洋風の城砦が突然現れた。
マスコミ各社はこぞって報道特集を組んでいる。
異世界から現れた転移者だとか、新手の新興宗教だとか、肝の太いコスプレイヤーの所業とか、インターネットの住人たちが書き込みを重ねている。
どれにしたって、国内外、マスコミはもちろん、一般人、政府と世間を大いに賑わせていた。
高い城壁にぐるりと囲まれた内部には、住居のような建築物が建ち並び、中心には西洋式の城砦を思わせる巨大な建築物がそびえている。
当然、地上からはすべてが見えるはずもなく、報道ヘリやドローンなどマスコミの好き勝手な報道で世間の知ることになった。
カメラに映っていたのは、建築物だけじゃない。
複数の人の姿が確認できていて、普通の人の姿じゃなかった。
頭には獣の耳、尻には獣のしっぽ、中には獣の体毛を生やしているもの。
それぞれがそれぞれの特徴を持ったその身体。
地球上で確認することのできない進化を遂げた生物。
一言で言うなら……
獣人。
若い少年、青年ばかりで、顔立ちや肌の色に一定の国籍、人種を感じることはない。
あかりが怯えているのには理由がある。
代々木公園周辺で増加する不審者情報、新宿御苑での殺人未遂事件や渋谷界隈での度重なる強盗事件などなど。
こんないくつかの事件に、この代々木公園に現れた城砦の住人たちが関わっているのではないかとマスコミが騒ぎ立てているから。
「社長〜、何かあったら呪い倒すんだからね〜」
佐藤あかりは、とある弱小芸能プロダクションでスカウト兼マネージャー兼プロデューサーとして働いていた。
兼が多いのはなんということはない、ただの下っ端だから。
倒産寸前の芸能プロダクションの危機に、「城砦の住人をスカウトしてこい!」という社長からの厳命のまま、ここにいる。
「そんなのありえないし〜!
どうしよう? 入るの? 入らないの?」
悩むことどれくらい?
城門の前で立ち尽くしていたらもう陽が沈みかけていた。
悩むあかりの耳に、透き通るように軽やかな男の歌声が城壁の上から聞こえてくる。
俺の望みは言葉じゃ表わせない ♪
腹の奥から込み上げる切ない欲望 ♪
俺にその身をすべて捧げろ ♪
心の底から満たしきれない願望 ♪
抑えきれない衝動が情欲のようにあふれ出す ♪
俺の思いをなんとかするのはたった一つの出会い ♪
願いを叶えろ ♪
もう我慢なんかできるもんか ♪
今すぐすべてを俺に差しだせ ♪
愛の歌? 聞いたこともないからオリジナル?
どうしても思いを遂げたい相手がいる……そんな歌かしら?
「なんて素敵な歌声……」
想いが伝わってくる表現力に、遠くの空にまで響くような声量。
きゅんと震えるくらいに、あかりの身体が反応していた。
「あ、あの……」
歌が続く。
腹減った〜 ♪
我慢も限界 ♪
なんでもいいからなんかくれ〜 ♪
「お腹がすいた歌!?」
派手にずっこけてた。
ちょっと芸能界に毒されてる。
あかりの存在に気づいた男が、城壁から飛び降りる。
信じられないような高さから身軽に着地。
「こんなところで何をしてる?」
「ひゃ、ひゃい!?」
見上げる。
うそ……なんて綺麗なの……。
夕日の輝きを受けて佇む男に目を奪われる。
男の頭に生える立派な狼の耳。
尻から生えるふんわりとした狼のしっぽ。
警戒感のある眼差しであかりを見つめている。
「お、狼!? かわいい!」
「褒めたつもりか? 初対面の男にかわいいなんてな」
「ご、ごめんなさい」
「ふん」
目の前に立つ狼男の眼差しに冷たさを感じなくもない。
「それで、お前は?」
「あ、あの、これ! お近づきの印です!」
足元に置いていた大量の袋から、一つ取り出して狼男の眼前に差し出すあかり。
紙に包まれているのは、ペンタッキーフライドチキンの骨付きチキン。
骨付きはきっと効果絶大だ! と、確信めいた予感であかりが大量にゲットしてきた。
重厚感のあるジューシーな肉とスパイスの香りに狼男の鼻が反応してる。
「これは……」
しっぽがフリフリ。
もしかしなくても喜んでる?
パク。
牙をのぞかせながら、あかりの手に持たれたままのチキンにかぶりつく狼男。
「ひゃわ!?」
「そのまま持ってろ!」
二口目、三口目。
狼男はあかりの手ごとチキンをつかんで、ごくんと飲み下す。
ひ〜! イケメンもふもふがわたしの手からペンタを食べてる〜!?
最後の一口、あかりを見つめながら口に含む獣耳の狼男。
「はうっ!? あ、あの!?」
あかりの全身は沸騰寸前。
「……すまん。あんまり腹が減り過ぎてて、食べることに夢中になってた……」
手についてる油をぺろぺろっと舐めながら、恥ずかしそうに視線をそらす狼男。
冷たい眼差しの中に、ほんの少しあたたかいものが生まれているようにあかりは感じていた。
そんなにお腹が空いてたんだ……。
子どもの頃に飼っていた愛犬の食欲を思い出して狼男の行動に妙に納得するあかり。
いつのまにか頭をなでてたり。
「なんのつもりだよ?」
少しだけ照れたような表情。
「ご、ごめん! あ、口元に衣が……」
「衣? どこに?」
狼男が口元に手を伸ばすけれど、なかなか行き当たらない。
「あ、じゃあ……」
あかりが人差し指を伸ばして口元に触れる。
「ん……」
なんで、そんな悩ましい表情!?
「と、取れました!」
「悪いな」
あかりの指先につままれた衣の切れ端を、よだれを垂らしそうな表情で見つめる狼男が、あかりの指ごと衣を舐めとる。
沸騰寸前のあかりの頭の中で解読不能な幾何学文字が何文字も通り過ぎていた。
「それ全部、同じものか?」
大量の袋を指さす。
「え、ひゃい。こちらにお住まいの皆さんにお近づきの印で持ってきました!」
「仲間に会わせてやるから、ついてこい」
「えええええっ!?」
「こないのか?」
「いいいいいい、行きます!」
☆実はあと九話分だけ書いてあるけど結局途中まで!
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