注射

「はい。今から注射針をあなたの二の腕に刺すわけですが、例えばのたうち回ってしまうほど耐え難い痛みでは無いのでそんなに歯を食いしばらないでください。筋肉に力を入れないでください。じっくりと、ゆっくりと深呼吸をしてください。あの、覚悟を決めるための深呼吸ではないです。リラックスしないと血圧とか、刺しどころとか色々とリスクが危ないので。はい、ゆっくりと吸ってーーーーー、吐いてーーーーー。はい、準備は良いですか?準備オッケーですか。はい。駄目そうですね。筋肉を緊張させないでください。体から力を抜いてください。あの、別に注射針が刺さったからといって身体の組織が著しく傷つくわけではなくてですね、血管に穴を開けるわけですけども、その注射痕から大量に血が噴き出して失血死することはまずあり得ないです。そんなに怖がらないでください。ほら〜、怖くないですよ〜。終わったらお菓子がありますからね。少しだけ、ほ〜んと〜うに少しだけちくっと痛いですけど我慢してくださいね。すぐ終わりますから。いいですか。行きますよ。刺しますよ。いいですね?」

「下手くそ!」


飛んできた長い脚が、その若い看護師を蹴り飛ばした。


「ごめんね。あ、アルコール消毒は大丈夫かな。皮膚がかぶれるとかない?」



小さな患者は、ないです。大丈夫です。と答えた。


「ありがとね。ちくっとするけど、痛くないよ〜。はいおしまい!ね、そんなに怖くなかったでしょ?」


予防接種を終えた小さな勇者は、待合室に戻っていった。ベテランの看護師は、蹴飛ばされた新人を睨んで言った。


「二の腕を自分で消毒して、注射台に自分の腕を固定した状態で深呼吸して待っていなさい。すぐに用意は終わるから。」

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