第18話 ”傷口の修復と痛みの緩和”を伝授してくれと頼まれた。

「俺は、神様に言われて、毎日鍛練している。身体も、神様の能力を使わせていただく事もだ。」

「何故!神の力を使えるなら、それ以上何を望むというの!」

「神様の力は、別に俺の力じゃねえよ。俺が使わせてもらっているだけだ。俺の力じゃねえ。」

「それでもでしょ。どれだけ鍛練を積んでも、神の力にはかなわないでしょ。つまり、あなたの努力なんて何の役にもたたないの。」

「いや、俺が努力すれば、それだけ強い力が使えるし、この前みてえに、仏教の神様から新しい術を教えてもらえたりするだろう。」

「他所の神の教えを乞うなんて、ホントにあなたの神は怒らないの?」

「何で怒る必要があるんだ?どっちかって言えば、神様が頼んでくれたぞ。」


「あなたの神はプライドをもっていないの?」

「プライドって何だ?」

「神としての誇りよ。」

「誇り?」

「己が最高なんだという自尊心よ。」

「何でそんなモンが必要なんだ?」

「神であれば、己が唯一無二の存在だと主張するべきでしょ!」

「自然の神様は代わりのいない存在だぞ。」

「えっ?」

「水の神様である瀬織津姫様。大地の神様は此花咲夜姫様だし、時の女神は月詠さまだ。お前も倭国の住民なら名前くらい聞いたことがあるだろう。」

「そ、それは知っているけど、まさかその3神がお前の神だっていうの?」

「全部の力を使わせてもらえる訳じゃねえよ。」

「当然でしょ!その中の一人だけでも最強といえる神様じゃないの!」

「面白えんだぞ、その神様の力を借りて、新しい術を編み出せるんだ。」

「ば、馬鹿じゃないの!何で力を合わせる必要があるのよ!」


「何でって、状況に応じて使える技が一つでも多いほうがいいだろ。別に戦う事が目的じゃねえんだ。」

「じゃあ、何が目的だっていうのよ?」

「お前こそ、神様を何だと思ってんだよ。」

「な、何って……。」

「力が本質じゃないだろ。神様の本質は祝福だ。だからこそ、仏教の神様は俺に、回復と浄化の術を教えてくれた。」

「そこよ!あなたの治療術を見てきたわ。なんで、大天使にも使えないような技を、あなたのような子供が使えるの!」

「なぜって、自分の編み出した技を、人の役に立てて欲しいって仏教の神様が言ってたぞ。」

「その仏教神というのは、なぜ仏教徒でもないあなたに、その術を教えたの。仏教にとっては、何のメリットもないでしょ。」


「やっぱり、救世教の考えって変だよな。」

「なにが!」

「なんで、神様が見返りを求めるんだ?」

「それは……、信者が増える事によって、救われる者が増えるからでしょ。」

「何から救われるんだ?」

「最後の選択により、神の国に行ける者と業火に焼かれる者との区別よ。誰だって、焼かれたくはないでしょ。」

「正しい者と穢れた者とかいう2択だよな。それ、変だと思わないのか?」

「何がよ!」

「穢れた者って何ンだよ?」

「神の教えに背いた者に決まっている。」


「立川佳乃。お前たちの神は残酷だと思わないか?」

「なにがよ?」

「自分の作った人間だから、自分の意に沿わなければ殺してもいい。」

「当然でしょ。」

「その考えで、4000年くらい前に、この星を水没させて、ノラの一家だけを救った。」

「そうよ。」

「まあ、そんな水没なんて無かった事は、俺の神様が証明してくれたんだけど、何でわざわざ水没なんて言う手段を選んだんだ?」

「それは主の意思によるものよ。」

「全能なんだから、生き残るモノ以外は消滅させればいいだろ。なんで、わざわざ苦しめる水攻めなんて方法を選んだんだ?」

「私には答えようがないわ。」

「じゃあ、教えてやろう。それは、人間が考えたからだ。」

「ふざけないで!私の神様を侮辱するつもりなの!」


「考えてみろよ。お前らの神の発想は、人間のそれだよ。気に入らないから殺す?それって、暴君そのものだろ。」

「そ、それは……。」

「まあ、神様が暴れた時に人間を巻き込む事はあるらしいけど、それは人間を殺そうとして起きる訳じゃない。」

「どういう事?」

「台風は、破壊を目的としている訳じゃない。水をもたらし、淀んだ空気を循環させる。根底にあるのは再生なんだよ。」

「それなら、神の起こした洪水だって再生じゃないの!」

「馬鹿だな。星全部が水に包まれたんなら、その水は海水だろ。」

「あっ……。」

「三崎で育ったんなら、塩害は知ってるよな。」

「それは……。」

「海水に侵された陸地に動物を放ったとして、草や木はどれくらい経ったら生えてくるんだよ。その間に、動物は餓死するぞ。」

「まさか……。」

「争いの続く砂漠地帯で、平和を願った人々が経典を書き上げ、それに基づいて神が生まれた。そして、経典に従わない者には罰が下される。まあ、略奪が当たり前の砂漠の民に、倫理観を持たせるには必要だったんだろうな。」

「じゃあ、この国には……。」

「和と共生を尊ぶ倭国には、そんな倫理観は当たり前の事だって、お前だって知ってるよな。」

「それは……」

「まあ、そういう倫理観を必要とするやつらも、少しは居るんじゃねえの。」

「少し……考えさせて……。」


 魔物の核が傷薬になる事が分かったので、俺は鎌倉の魔窟に向かった。

 また、竹竿を切り出して、右岸と左岸を行き来しながら走っていく。


「こんにちは、薬師如来様!」

「おお、先日の少年か。どうした、今日は。」

「青鬼から採れる核が、傷薬になる事が分かったので、時々採りに来たいんですが、いいでしょうか?」

「ああ、鬼の討伐など好きにすればいい。」

「それから、先日教わった”回復と浄化”の術なんですが、少し神力を変化させて”傷口の修復と痛みの緩和”に成功しました。」

「ほう。どう変化させたのだ?」


 俺は薬師如来様に”傷口の修復と痛みの緩和”を覚えてもらった。

 神様へ教えるなど、畏れ多いとは思ったのだが、薬師如来様は喜んでくれた。


「私は未だ修行中の身だ。新しい知識ならいくらでも受け入れるぞ。」

「よかったです。怒られるんじゃないかって、怖かったですよ。」

「少年よ、名前は何という?」

「神代弥七です。」

「鎌倉の法力を持つものに教える事があるのだが、早い者でも会得するのに3年要している。」

「そんなにですか!」

「これも同時に覚えるなら、5年はかかりそうだな。」

「それは、大変そうですね。」

「しかも、法力が弱いから、術を使うのはどんどん大袈裟になってきおってな。」

「それって……。」

「術は門外不出となって、恩恵を受けるのは寺と権力者だけになっておる。」

「うちの神社に来るのは、貧乏な村人だけですよ。」

「ああ。そうであって欲しいのだが、やつらは関係者以外には法外な対価を求めおってな。」

「お礼として届くのは、野菜とか穀物ばかりですよ。」


「うふふ……。ところでな。」

「はい。」

「半年ほど前にやってきた娘がおってな。」

「はい。」

「そいつは、ここに来れば私に会えると何かで聞いたらしく、護衛に守られながら10日程通って回復と浄化を覚えよった。」

「へえ、優秀なんですね。」

「5分で覚えたお前が言うかよ。」

「俺には水環様って、水の神様がついていますからね。」

「まあよい。その娘、藤原花織に今の技を教えてやってくれぬか?」

「いいですけど、どこに住んでいるんですか?」


 俺はその足で、藤原花織が住むという亀岡八幡宮の東側を訪ねた。

 道を聞くと、簡単に家が分かった。

 家というよりも屋敷か……。

 門だけでも相当大きい。

 敷地は、神社の境内くらい広い。

 門には門番がいたので、藤原花織に会いたい旨を伝えたが、用件を聞かれた。


「修行中の神様から、藤原花織に会うように言われた。」

「神?お嬢様はそれを知っているのか?」

「いや、会うのは初めてだから知らねえよ。」

「そのような者を当家に入れる訳にはいかん。」

「別にいいけどさ。本人に伝えないでいいのか?薬師如来様の使いだと言えば、絶対に会うと思うぞ。」

「神ではなく仏様か、……ちっ、少し待っていろ。」


 門で待っていると、母ちゃんより少し若いくらいだろうか。

 女性が一人、走ってやってきた。


「も、申し訳ございません。薬師如来様のお使いの方をお待たせしてしまって。」

「別にいいけどよ。早く終わらせないと暗くなっちまうからな。じゃ、始めようか。」



【あとがき】

 ノアの洪水伝説って、残酷な話しですよね。

 自分の作った生物だから、殺すのは自分の自由だというのがユダヤ人の価値観だとしたら、とんでもない事だと思います。

 傲慢な神というのが私の感想です。


Youtube動画

https://www.youtube.com/watch?v=xtoZYlZEOHE

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る