第16話 爺ちゃんの仇である悪魔は父ちゃんを殺した犯人でもあった

 分蜂に備えて、巣箱は10個作っておいた。

 ミツバチが出入りする下部の隙間や、巣箱の高さなど樹神様の指示を受けて作ったのだ。

 

 そして、予備知識として、黒いハチがでるとか、家さがしのハチが飛ぶとか、晴れて風のない、どんよりした日の昼前であり、4月後半から5月前半が多そうだという情報ももらっている。

 更に、ハチの玉が出来たら、霧で羽を濡らし、遠くに飛べないようにして巣箱にハチ玉を落としてやればいいそうだ。


 問題は、落としたハチ玉の中に女王バチがいるのかどうかであり、こればかりは運らしい。


 そんな中、4月28日に俺は巡回していた巣の一つにハチ玉を発見した。

 6日前から、狩りの時には巣箱を一つ背負うようにしている。

 

 俺は慎重に霧を発生させ、頃合いを見計らってハチ球を巣に落として上蓋をした。

 外に逃れたハチも、可能な限り大きな布で集め、巣箱を布で包んで神社に持ち帰った。

 巣箱は、水平で木影のある本殿の裏に設置した。

 ここで布を解いて様子を見ることにする。


 俺は後の事をタツキに任せて、巣の巡回と狩りに戻った。


 こうして、5月の初旬までに、3個の巣箱を設置する事ができた。

 村の外にある畑や田んぼには、菜の花やレンゲも咲いているし、境内にもツツジやサツキ、シャガやアヤメも多い。


 神社に1本だけ植えられているハリエンジュもそろそろ花をつける時期だ。

 なんでも、海外から持ち込まれた木だそうで、マメに似た葉と白い花が特徴だ。

 若木も境内で数本育っている。


「これで、丸薬も作れるし、ミツロウも採り放題ね。」

「そんな簡単にはいかないと思うけどな……。」



 6月の中ごろ、俺は悪魔に呼び出された。

 猟から戻ってゆっくりしているところへ、村の外に来た悪魔から、マトイの一族を出せと言われたらしく、村人が呼びに来たのだ。


「与平、お前さん、マトイの者がいると返事をしたのか?」

「し、しょうがねえだろ。」

「知らないと応えれば済むものを……。」

「うるせえ!伝えたかんな!」


「……僕が行こう。」

「危険ですよ。俺なら大丈夫ですから。」


 少なくとも、居所を確認されたのだ。

 対応しない訳にはいかない。


 村の入口にいくと、悪魔1人と天使4人の集団が、少し離れた場所に見えた。


 俺は、その集団に向かって歩いていく。


「おいおい、ガキじゃねえか。」

「勝手に押しかけてきて、その言いぐさはないだろ。」

「ほお、一端の口を聞くじゃねえか。」

「アモン様、こんなガキ、さっさと始末して帰りましょう。」

「アモンだと……。」


 それを聞いたお釜様が表面に出てきた。


「ああ、確かに記憶にあるぞ。炎使いのアモン。」

「ん?俺に覚えはないが。」

「当然だな、5年前俺を纏っていたのは権兵衛という爺さんだ。」

「爺さん……だと、まさか釜の爺か。」

「そうだ、お前に重傷を負わせた釜の爺さんだ。」

「確か、ドロドロに溶かしてやったハズだが。」

「そんなものは、ただの依り代だ。形さえ残っていれば問題ない。」

「そうすると、お前はあの爺の孫かよ。」

「そうだ。」

「父親は、タタミだったな。」

「お前、まさか!」

「親子3代かよ、こりゃあ呪われそうだな。」

「あははっ、3代にわたってアモン様の手にかかるとは光栄なやつよ。」

「雑魚は黙っていろ。」

「なに!」


 ここで俺はお釜様に下がってもらった。


「お前が父ちゃんと爺ちゃんの仇というのは理解した。用件を聞いてやろう。」

「去年の秋ごろ、3人の悪魔と話したのはお前か?」

「3人。ああ、そんな事もあったな。」

「報告では、自然神。土の神を纏っていると聞いたのだが、違うのか?」

「ああ、確かに地母神の樹神様は俺の中にいるが。」

「だが、今纏っていたのは釜の神。そもそも、纏った神が表面に出てきて話すというのも聞いたことがないのだが。」

「別に構わないだろう。お前が知る必要はない。」

「帰ってきた3人がおかしな事を言っていてな、16000年前の記憶を持った神だとか。」

「そうだな。もっと古い記憶もあるらしいがな。」

「くくくっ、主が人間を作ったのは6000年前だ。そんなまやかしの記憶など信じない方がいいぞ。」

「メソポタミヤに栄えたシュメール文明が7000年前だ。お前たちの経典にある神話は、当時の書物を寄せ集めて作っただけという事実が、なぜお前たちには理解できないんだ?」


「そんな捏造された歴史を、誰が信じるというのだ。」

「洪水伝説も嘘。4500年前に、地球を覆うような洪水は発生していない。」

「それがどうした。真実の書に書かれた事実は、誰も変えられない。」

「その時を見てきた神様がいるのに、信じられないとは、気の毒でしかないな。」

「ならば、お前の中の神が、太古から存在する地の神だという証拠を見せてみろ。」


「うーん、じゃあ、こんなのはどうかな。」


 俺はポケットからタネを取り出してアモンの前に投げた。

 そこに意識を集中して、クズを急激に成長させ天使4人の動きを封じた。


 うわっとか騒ぐ天使を放っておいてアモンに問いかける。


「どう?」

「この程度の術は、大天使なら使えるぞ。」

「別に、これ以上お前に見せる必要はないんだけど、どうする?」

「こっちも、これ以上話す事はないな。」

「ところで、3人の悪魔はどうなったの?」

「審問にかけられ、嘘の報告をした罪で処分された。」

「へえ、せっかくの機会を逃しちゃったんだ。」

「親子3代殺すのは気が引けるが、仕方ないな。」

「うーん、俺としては、せっかくの仇なんだけど、弱すぎてガッカリかな。」

「なにっ!」

「だって、雑魚ばっかじゃん。お前だって、初期のマトイしか使えない父ちゃんや爺ちゃんを殺して喜んでいたんだろ。」

「煩い!」


 アモンから飛んできた火の玉を左手で弾いて天使4人に飛ばしてやる。

 天使は絶叫をあげて消滅していった。


「父ちゃんはタタミだったから、相性悪かったんだろうけど、まあ、爺ちゃんは歳だったから動けなかったのかな。それとも、天使に押さえつけさせて溶かしたか。」


 また火の玉が飛んできたが、それも叩き落としてアモンを頭から真っ二つにした。


 その時、木陰から走り寄ってくる影があった。


「兄さん!」


 それは、消滅していくアモンを引き留めようと抱きつき、そして、その両手が空を掴んだ。


「よ、よくも兄さんを!」


 それの両手は鉄の筒を持ち、こちらに向けて撃ちだした。

 これは、収穫祭の時と同じだ。


 パーンという音は途中で途切れ、世界は速度を失った。

 そう、月音様の術を発動したのだ。


 時空間制御!


 俺は飛んでくる鉄の玉を叩き落とし、単筒を持つ女性のみぞおちを軽く叩いた。


 元の速度を取り戻した世界の中で、崩れ落ちる女性。


 兄さんとか叫んでいたが、アモンの妹なのだろうか。

 女性には翼がなく、どう見ても人間だった。


 そして俺は、意識を失った女性を抱えて神社に戻った。


「あの、その女性は?」

「多分、襲撃してきた悪魔の妹みたい。」


 30才くらいだろうか、大人の女性だった。

 その女性を縛り上げたところへ、治療の希望者がやってきた。

 

 腹を押さえてやってきた子供と、支える母親。


 俺はすぐに治療を行い、子供を奥に寝かせてきた。


「こ、子供に、何をしたの!」

「何って、子供を治療しただけだよ。」

「嘘をつくな!お前たち倭国の邪神を操る者は、殺戮と破壊しか行わぬと……。」


 ナニ言ってんだ、この人。



【あとがき】

 仇のアモンを倒しました。

Youtube動画

https://www.youtube.com/watch?v=xtoZYlZEOHE

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