第13話 薬草の採取は結構大変だったりする

「神様と仏様の違いって何だと想う?」

「どうしたんだい、急に。」

「ここの神社は、高天原の神様を祭っているよね。」

「うん、そうだね。」

「俺の中にいる針神様とお釜様も、ご本体は高天原にいるからここの神様と同じだよ。」

「他の神様は違うのかい?」

「うん、他の神様は自然神で独立した存在なのだと教わったんだ。」

「自然神って?」

「土の神様、風の神様、水の神様、時の神様だよ。他にも火の神様とかいるんだってさ。」


 そして仏教神についても説明し、この神社に仏殿を建てて仏教神を祀ることもできるんだと教えてあげた。


「そうなのかい。大分前になるけど、本庁にさ、地蔵を受け取ってよいのか問い合わせた事があるんだけど、イヤな顔をされたんだよね。だからお断りしたんだけど……。」

「それは、人間の権利意識、損得勘定とかだろうって神様が言ってるよ。」

「ありゃりゃ、手厳しいね。」


 それから俺は、獲物のキジを祭壇に供えた。


”ほう、キジかよ。”

「神力が高まるって聞いたんだ。」

”ああ、確かに土地のモノの方が供物としての効果は高いな。”

「やっぱり、そういうのがあるんだ。」

”だが、一番は酒だな。”

「そうなの?」


”酒は、直接取り込めるからな。”

「あはは、そういえばタケミ様はお酒好きだもんね。」

”ああ、次は旨い酒でも仕入れてこい。”

「旨い酒って言われても、俺は飲んだことねえから分かんねえよ。」

”そうだなぁ、酒といえば伏見か越後だよな”

「そんな遠くまで行く気はねえぞ。」

”個人的には宮城の酒が好きだな。”

「余計、遠くなってるぞ!」

”飛騨も捨てがたいな。”

「捨てろよ!」

”酒匂川水系なら大井の井上。相模川水系なら津久井の清水。個人的には、多摩川水系で青梅の沢村だな。”

「まあ、気が向いたらな。」


 とは言ったものの、持ち帰るとなると斗樽だよな。

 そして、翌日に焼いたキジは美味かった。

 醤油とみりんで甘辛いタレを作って塗りながら焼いたのだ。


「弥七、私、幸せよ。」

「そうか、良かったな。」

「愛してるわ。」

「なあ、母ちゃんの前でそういうの、やめて欲しいんだけど。」

「いや、私なら気にしてないぞ。」

「うん、僕も気にしてないよ。でも、キジは美味しいね。」

「じゃあ、明日も行ってこようか。」

「肉屋の主人も喜んでいたわよ。それにこの尾羽、立派よね。」

「尾羽の使い道は考えてないけど、風切羽は帽子にしてみるつもりよ。」

「千代のデザインは人気だから期待できるわね。」

「母ちゃんにそんな才能があるなんて、俺には信じられねえよ。」

「ふん!こう見えても、結婚前は……いや、なんでもないわ。」

「なんだよ!」

「神様の前で見栄を張ってもしょうがないって思っただけよ。あーあっ、厄介な息子を持っちまったもんね。」


 全員が笑った。

 こんな食卓は楽しいなって思った。


 ところが、翌日になって、事情が変わった。


「ごめんね。夕べから急に苦しみだして……。」

「いいんですよ。神様から授けられた力ですからね。」


 5才の娘さんが、急にお腹を押さえて苦しみだしたという。

 夕飯も吐いてしまい、ぐったりしている。


「今後からは、夜中でもいいので声をかけてください。それと、無理に連れてこないでいいですよ。こっちから覗いますから。」

「ありがとうございます。」


 10分ほど神力を巡らせていたら、容体も落ち着いてきた。

 起きたら食べられるように、タツキが粥を作っている。


 1時間ほど出遅れたが、そこから狩りに出かける。


 走れば30分で行ける距離だ。

 この程度の遅れは問題ない。


 だが、この日は、邪魔が入った。

 白い翼に黒い上下。

 

「お前は獅子宮の支配域に入った。このベルキエルの足元に跪くがよい。」

「お前ら、ウザイからくんなよ。」

「罰当たりな。冥界のハデスに謝罪するがよい。死ね!」


 足元が歪んで黒い靄のようなものがあらわれたが、俺は歪みを見た瞬間に飛びのいている。


「お前らいい加減にしろよ。他所の神なんかに唆されやがって。」

「ふん。信仰によりこれだけの力をいただけるのだ。倭国の神とは大違いさ。」

「努力しないでもらった力に、何の意味があんだよ!」

「別に、力に意味なんて必要ない。大きな力は、それだけで十分さ。」


 今度は黒い塊を投げつけてきた。

 大した威力はない。


 俺は両肩に水針を打ち込んでから翼を切り落とした。

 男は倒れてカスミになって消えていった。


「あれで死んじゃうんだ。」

”手加減しても意味はないわね。”


 そして、キジを3羽狩って戻った。


「あの子は?」

「お粥を食べて寝かせておいたら元気になったわよ。それでね……。」

「どうしたの?」

「うちでも、薬を常備しておこうと思うんだけどどうかな。」

「そんな知識あるの?」

「神様が知ってるみたいなんだ。」

「へえ。じゃ、やってみたら。」

「うん!」


 とりあえず、分かりやすいドクダミ・ゲンノショウコ・センブリなどの採取から始めるらしい。

 それに、神社の境内も広い。

 神様がいうには、境内だけでもそれなりの薬草が揃うらしい。


 人伝手に話しが広まり、具合の悪い人が神社に集まってきた。


「神社は診療所ではありません。急を要する人は診ますが、それ以外の方はお引き取りください。」

「ふざけんな!こちとら、夕べから待ってんだぞ!」

「そうは言っても、骨折とか診れませんからね。」

「いや、手を切っちまって、血が止まんねえんだよ!」

「主人が治せるのは、体内に毒のあるような場合だけです。それ以外の人はお引き取りください!」


 村に医師などいないし、まともな薬師もいない。

 こういった噂に頼って来るのは仕方ないのかもしれない。


 それに、俺には医師としての知識などない。

 咳や発熱、化膿に腹痛程度は対応できると思うが、特に外傷は無理だ。


 そんな中で、タツキは優先的に湿布薬や傷薬を調合し、俺に対応できない部分を補おうとしてくれた。

 そして、タダだと分かると、ささいな切り傷でも治療を求めてやってくる。


「浸かれてんじゃない?」

「大丈夫よ。これくらい。」


 毎日、神様に教わったことを色々な薬を調合している。

 すりこ木や擂り鉢、乾燥させるために吊るされた草など、調理場がだんだんと手狭になってきている。

 見かねた宮司さんは、専用の小屋を依頼したようだ。


 タツキは、境内の一画を仕切って薬草畑を作り出した。

 そして、俺にも採集を頼んでくる。


「あのね、ムラサキっていう草の根が欲しいの。涼しいところの平地で、花びら5枚の小さくて白い花が咲くみたいなの。」


 タツキは絵で教えてくれたが、聞きづてのものなので心もとない。

 特徴の一つは、根っこがムラサキという事なのでそれを頼りに探す事にした。

 山間部の平地で、近いところといえば宮ケ瀬になる。


 沢から斜面を昇っていけば、結構肌寒くなってくる。

 そして半日歩き回って、それらしい草を見つけた。


 それを根っこごと掘り起こして、詰めるだけ背嚢に詰めた。

 そして、それは薬草畑に植えられた。


「根付きそう?」

”任せておけ。いざとなったら、サクヤのても借りてやる。”


「それでね、トウキっていう草なんだけど……。」


 もう一度、宮ケ瀬に行って探し回った。

 そしてそれも持ち帰った。


「次は何だ。」

「えっとね、ミツバチの巣が必要なんだけど……。」


 ミツロウというのを採取してきたが、数か所刺されてしまった。

 巣を掘っている最中に声をかけられたが、ウザイので切り捨てた。


 フルフルとかいう悪魔だった気がする。



【あとがき】

 薬師タツキの誕生ですね。

Youtube動画

https://www.youtube.com/watch?v=xtoZYlZEOHE

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